患者会ねっと 患者会・患者支援団体コミュニケーションプロジェクト ~ がんと暮らすすべての人へ ~

地元で気軽に笑顔で集まれる場所を (Cava !〈乳がん〉)

取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2012年9月
更新:2013年7月

  

がん患者さんやそのご家族にとって、患者会や患者支援団体は大切な存在です。また、医療の充実にとっても重要な存在となっています。しかし、患者会や患者支援団体には、運営方法や地理的制約、部位格差のほか、ドラッグ・ラグやがん患者の就労といった難しい課題もあるようです。このコーナーでは、がんと共に暮らすすべての人々のために、活動や企画、人材など、患者会・患者支援団体のこれからを伺っていきたいと思います。


2012_07_01左から小山紀枝さん、森 由里子さん、宗 綾子さん

地元で気軽に笑顔で集まれる場所を (Cava !〈乳がん〉)
Cava !(サヴァ)  ~ さいたまBEC ~
森 由里子/宗 綾子/小山 紀枝
URL:http://blog.goo.ne.jp/cava2011

偶然にも同時期に「乳がん体験者コーディネーター」資格を取得した埼玉県在住の3人が、「運命の出会い」をしたことによって結成された「Cava ! (サヴァ)」。一般の患者会や患者支援団体とは少し異なるスタンスで活動するも、そこには笑顔が絶えないといいます。地元に根付いた活動を行い約1年。「距離感」を大切にする3人に、お話を伺いました。

地元で参加できる

「地元に根付く」を基本コンセプトの1つに活動する「Cava!」。設立から約1年が経過した今、「私たちの活動は、『求められていたんだ!』と率直に感じます。それは、イベントなどの参加者のみなさんのお顔を見ても分かります」と、渉外担当の宗 綾子さんはいいます。月1回行われる「おしゃべり会」や月2回行われる「乳がん患者さんのためのヨガ教室」などには、本当に楽しそうな参加者の笑顔が溢れているそうです。

「Cava ! 」は、偶然にも同じ時期にNPO法人キャンサーネットジャパン認定の「乳がん体験者コーディネーター(BEC)」の講習を受けていた、埼玉県在住の3人が出会ったことから始まります。

「治療や仕事などの不安・心配事、胸につかえている思いを、同じ病気の仲間同士で気兼ねなく話したり、様々な活動が行える場所、罹患してもこんなに楽しいという空間を地元で作りたい」という3人共通の想いが設立のきっかけでした。都内には乳がんに関連した会合などはたくさんありますが、埼玉県にはほとんどありませんでした。そのため、「Cava ! 」の活動には、さいたま市内や県南部などから、「同じ病気の方と話したかったけれど、どこに行っていいかわからなかった方」や「乳がんになっても元気に普通に生活しているけど、やっぱり再発や転移などが心配な方」などが参加されているそうです。

また、「なるべく近所が良いけれど、生活圏内はイヤ」というような方が、県西部や都内などから「生活圏を少し出た距離」にある「Cava ! 」へ参加されるそうです。3人は、「極々、近隣の方がいらっしゃるのでは……」と予想していたため、これには驚きだったそうです。しかし、「長い治療生活が続く乳がん患者さんが、地域でいかに過ごすかはとても大切なこと」と考え、参加者を市内・県内に限定していないため、「それほど遠くないところにいる仲間」たちが集まるようです。

気軽に参加できる

「気軽さ」も「Cava ! 」の魅力の1つのようです。「私たちは、『患者会』という言葉を使っていません。どこか敷居が高いような感じがしますから」とIT担当の小山紀枝さんはいいます。それは「Cava ! 」の活動に最もよく表れています。「おしゃべり会」では、基本的に特定のテーマなどは設けず、フリートーク形式をとっています。治療に関する話はもちろん、食の話やウィッグの被り方など、生活に関係する話題も多く出ます。

一方で、再発された方からの「同じような状況の方と話してみたい」という希望には、すぐさま「再発の乳がん患者さんだけのおしゃべり会」を作るなど、アンケートを活用することによって、参加者の要望に応えるよう努めているといいます。

「『おしゃべり会』でたくさんの人と話したり聞いたりすると、孤独感を払しょくすることができるので、精神的にも良いのでは」と広報担当の森 由里子さん。参加者は「おしゃべり会」で出会い、特に懇意となった方と個別に会うケースもあるようです。

また、その後「おしゃべり会」に来なくなっても、仲良くなった友人との食事会だけは必ず行くという方もいるとか。それでも、「活動に参加することがすべてではなく、ここで良い仲間を見つけて、その方がその後の生活を楽しんでくださればそれで良いんです」と言い切ります。

また、「仮に、『おしゃべり会』に参加していた方が来なくなって、どんなに気になったとしても、こちらから積極的に声をかけるようなことは、意識的にしないようにしている」といいます。「『Cava ! 』に縛るつもりはありません。みなさん体調あってのことですし、ご自身の都合の良い時だけ参加してくだされば良いのです」とも。この適度な「距離感」が参加者を引き付けているようです。

負担なく参加できる

「Cava ! 」では、イベントなどの告知をするため、参加者のメールアドレスだけは預っていますが、会員制度は採用していません。また、会費制度もとっていません。というのも、「『Cava ! 』の活動は自分たちがやりたくてやっていることであり、参加者には負担をかけたくないから」と説明します。

そのため、必要最低限の経費は3人が出しており、参加者にはヨガ講師や医療従事者への謝礼などの実費のみをお願いしているそうです。「おしゃべり会」の参加者からは、「場所代を出させてください」という申し出もあるそうですが、「私たちも同じ乳がん経験者です。参加者のみなさんが楽しんでいる姿や声など、むしろ頂いているモノの方が多いんですよ」とお断りをしているといいます。「この活動はあくまで自分たちがやりたくてやっていることです。

しかし、お金を頂くとなると、『あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ』と精神的に負担になってしまって、やりたくてやっていることではなくなってしまうと思うんです」とも。もちろん、自分たちに負担をかけないために、市民活動サポートセンターなどの公的施設を会場として使うなど、経費面での工夫はしっかりしているといいます。

もっと知ってもらうために

そんな3人の元に集まったメールアドレスは、70名を超えました。「Cava ! 」への参加者の多くは、一般の患者会や患者支援団体へ参加しようと思った人が少ないようだといいます。「参加者の求めるものが異なるからかもしれませんが、理由は私たちにもわかりません。一般の患者会さんなどからすると、私たちはただ遊んでいるだけに思われるかもしれませんが……」と語る3人。

また、「Cava ! 」を組織としてもっと大きくしていこうという考えもないといいます。しかし、「会の存在はもっと知ってもらいたい」と願っています。「1人で悩んでいる方に、『こういった気楽な空間もあるんですよ』ということを、ぜひとも伝えたいんです。罹患された方は、告知をされてから治療が始まるまでが一番精神的に不安定なのではないでしょうか。また、罹患した患者さん一人ひとりの思いに、忙しい医療従事者が『すべて』応えるのは難しいと思います。生活や治療の不安など、体験者とただ話すだけで安心することもあると思うんです。だから、早い段階で多くの人にお会いしたい。そして、みなさんがやりたいと思うことをやっていきたいのです」といいます。

そのため3人は、会を知ってもらおうと様々な試みをしています。地元の紙媒体へ積極的に掲載をお願いし、実際に掲載された時は大きな反応もありました。しかし、県や市の広報誌などは誌面に限りがあり競争も激しく、民間のタウン誌などは病気といった情報を載せたがらないなど、なかなか掲載には至らないとか。NPO法人を取得していないこともあり、チラシなどを置かせてもらいたいと頼んでも、病院の対応もマチマチだといいます。

そのため、現在はWEBによる広報に頼らざるを得ないそうです。それでも、地域活動を行う方と少しずつつながったり、地元ラジオ局に投稿したり、それが採用されなくても「もう1度チャレンジ!」と3人はくじけることなどまったくありません。また、WEB環境に明るくない方のために、「いつも変わらずここにいる」ことが伝わるよう、イベント等の開催日時・場所は固定しているそうです。そうすることで1度会の活動を知ってもらった方との関係は保たれる、といった工夫もしているそうです。

〝野望〟

2012_07_02甲斐敏弘先生(左)と「Cava ! 」の3人

「3人が出会えたことは、本当に良かったと心から思う」と3人は声を揃えます。「こういったスタンスの活動をするには、同じ思いを共有する仲間が必要です。私たちが感じた『仲間がいて良かった』という気持ちを、みなさんにも味わってもらいたい、ただそれだけなんです」とも。

さらに、「がん経験者は、突然病人になり、罹患したことで妙にいたわられ、負い目を感じることがあると思います。でも、病気になったのは誰のせいでもないんです。だからこそ、乳がんになってもこんなに楽しい『乳(NEW)がんライフ』があるんだ、ということを発信していきたい。もちろん、経験者が集まって治療の話をすることも大切ですが、たくさん楽しんで笑顔になれる場所を作っていきたい」と言います。

3人は、埼玉県下にこういった空間をもっと広めていきたいと考えています。そして将来は、乳がん患者さんだからこ

そ入ることができる「乳がん患者さんのカルチャーセンター」を作ることが〝野望〟だとか。そこに行けば、なにかしら没頭できる楽しみがあり笑顔でいられる、そんな場所を提供していきたいと。手芸・リコーダー・メイクアップ教室・アロマ・食事などを考えており、すでに進行中の企画もたくさんあるそうです。

「地元」で患者会や患者支援組織を立ち上げるには、幾つかの課題があるようです。例えば、自治体や他の患者会などとのパートナーシップ、病院や医療従事者とのネットワークや相互協力関係、組織の方向性の決定、一般の方への広報活動などが挙げられます。

NPO法人「埼玉乳がん臨床研究グループ(SBCCSG)」の事務局長を務める甲斐敏弘さん(新都心レディースクリニック院長)も、また適度な距離感で「Cava ! 」の3人と接しており、「いろいろな患者会や団体がそれぞれ目指す活動を展開していくことと、それぞれのグループの活動の特徴を広く伝える場が必要ではな いかと思っています。そこに医療従事者が絡んで有機的な活動になると良い。県が中心にならないと難しいかも知れませんが」と話します。

「立ち上げには苦労も多いけど、いくらでも相談に乗りますよ!」と底抜けに明るく前向きな3人。「Cava ! 」のような形の患者支援団体が、今後も生まれ発展していくことを期待せずにはいられません。

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