2センチ程度の髄膜腫。手術以外に治療法はないか?

回答者:林 基弘
東京女子医科大学 脳神経外科講師
発行:2008年11月
更新:2013年11月

  

数年前から、顔を洗うときや、食べ物を噛むときに、顔がぴりぴりしました。最近、「神経痛かな」と思って、地元の総合病院を受診し、髄膜腫と言われました。腫瘍のある場所は、脳の一番奥の頭蓋底で、2センチ程度。手術で切除すれば症状は改善するが、手術による後遺症もあるとのこと。手術以外に治療法はありませんか。治療をしないと、症状が悪化しますか。

(滋賀県 女性 35歳)

A 主な治療法は2つ。外科的摘出に、定位放射線手術

2センチほどの髄膜腫なので、あまり大きな腫瘍ではありません。しかし、脳深部の頭蓋底に位置するため、手術は困難を極めます。直接画像を見ていないので、確かなことは言えませんが、おそらく三叉神経が入るメッケル腔の入り口近くに、髄膜腫が存在し、三叉神経を強く圧迫しているのでしょう。この痛みは“2次性三叉神経痛”と呼ばれています。従来の三叉神経痛とは異なります。三叉神経痛を2次的に伴うほどの状態の腫瘍なので、これ以上の経過観察は得策ではないと思います。基本的には外科的治療を行うことが大切で、主な治療法は2つ。1つは外科的摘出で、もう1つは定位放射線手術(ガンマナイフ)です。

相談者は若い方なので、完治を目指し、基本的には腫瘍を切除する外科手術が勧められます。腫瘍を摘除すれば、2次性三叉神経痛は完全に寛解します。ただし、頭蓋底腫瘍に対する開頭手術による完全摘出手術は常にリスクを伴います。腫瘍の周囲の正常組織を傷つけて障害を引き起こす可能性も少なからずあります。たとえば顔面神経を傷つけて顔面麻痺、三叉神経なら顔面知覚障害、外転神経なら複視を引き起こします。手術時間は8~10時間で、入院もトータル3週間前後必要となります。

一方、ガンマナイフ治療は“放射線手術”と呼ばれる新しい外科治療法の1つで、いわゆる開頭を必要としません。とくに良性腫瘍に対して95パーセント以上のコントロール率(腫瘍を大きくさせない率)を誇る優れた治療ですが、決して消失させることはできません。しかし、数年かけて、およそ半数で腫瘍の縮小が結果的に見られます。あくまでも、腫瘍の成長を止める治療ですから、三叉神経の腫瘍による圧迫がすぐに取れないため、2次性三叉神経痛はガンマナイフだけではすぐには改善しません。約75パーセントの患者さんが数カ月から数年後にガンマナイフだけで痛みが寛解されると言われています。その間、三叉神経痛の特効薬であるテグレトール(一般名カルバマゼピン)の併用が必要となります。それでも、ガンマナイフは体に対する侵襲度が極めて低く、治療日数は1日のみ。日帰り治療も可能です。

相談者には、最近提唱されている治療方針で、“外科手術+ガンマナイフ”というコンビネーション治療が最良と考えます。術前に治療シミュレーションをガンマナイフ専用の治療計画用コンピュータで行い、まず敢えて手をつけない箇所(大事な神経や血管が複雑に絡んだ箇所)を決定します。その箇所に対して、確実にガンマナイフで安全に行えることをシミュレーションし、残りの大部分を外科手術で最初に摘除してもらいます。

これにより、腫瘍による三叉神経の圧迫は即座にとれ、2次性三叉神経痛も完治します。さらに、困難箇所は術中に敢えて手をつけないので、外科手術に伴う合併症がほとんど出ません。手術アプローチや大事な腫瘍付着部の処理方法なども、すべて同じ術前シミュレーションで判断できるため、術中出血も少なく、手術時間も5時間前後と従来の半分で終えられています。ガンマナイフ治療は、外科手術後半年を目処に計画的に行うようにしています。いわば、最近のベースボールと同じ、先発投手とリリーフ投手、それぞれがしっかりとゲームを作り、完封リレーにて試合に勝つような感じです。

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