トリプルネガティブの乳がん。遺伝子検査は治療に有用か

回答者:上野 貴史
板橋中央総合病院 外科医師
発行:2010年2月
更新:2014年1月

  

2008年の2月に乳がんと診断され、EC療法を3回、タキソール(一般名パクリタキセル)の治療を14回受け、さらに9月には左乳房全摘同時再建術、現在は放射線治療を受けています。「乳管がんで腫瘍径は8センチ、トリプルネガティブ、ステージ2B、リンパ節転移はないが、転移・再発の高リスクで悪性度は高い。手術での取り残しはない。腫瘍マーカーは下がったが、そのうち上がるだろう」と主治医にいわれました。今後の治療法として、パラプラチン(一般名カルボプラチン)や、アバスチン(一般名ベバシズマブ)といった未承認の抗がん剤治療があがっていますが、効果がはっきりしないため、抵抗があります。

質問は次の2点です。

(1)パラプラチン、アバスチン、その他の抗がん剤の効果が期待できる遺伝子を検査することは可能でしょうか。できるとすると、どこでできるでしょうか。

(2)(1)の検査を受けなくても、BRCA1異常、EGFR遺伝子過剰発現、c-KIT遺伝子異常などの検査を受けることはできますか。できるとすると、どこでできますか。また、この結果は今後の治療に有用でしょうか。

また、EC療法とタキソールが効かなかったため、ゼローダ(一般名カペシタビン)も効かないのではないかと自分では思っています。

(福岡県 女性 38歳)

A これ以上の補助療法をする必要はない。経過観察がよい

2つの質問に答える前に、いくつか私の考えをお伝えします。

ご相談者は標準的な補助療法をすでに受けています。これ以上の補助療法を行えば、生存率が上がるといったエビデンス(科学的根拠)は今はなく、現状では、経過観察をするのが標準的です。ただ、再発リスクが高いことは確かなので、何らかの治療を受けられないかというお気持ちはわかります。

トリプルネガティブ乳がんには、ベイサルライク(基底細胞様)という性質の悪いものが多いのですが、全てがそうではなく、ベイサルライクはトリプルネガティブ乳がん中の7~8割といわれています。基底細胞で発現されるCK5/6やEGFRの発現が見られるトリプルネガティブ乳がんはベイサルライクと考えられています。ベイサルライク乳がんではBRCA1タンパクの機能異常が多くみられるため、DNA障害に対する修復機能が障害されていると考えられます。そのためDNA障害をきたすプラチナ系抗がん剤のパラプラチンが有効だと推定され、臨床試験がおこなわれています。

BRCA1機能異常細胞に有効なPARP阻害剤も開発されています。また、ベイサルライク乳がんでは血管新生が盛んなため、アバスチンが有効でないかと試験されています。これらの臨床試験はほとんどが、再発乳がんに対する試験です。ご相談者のように、補助療法として使う抗がん剤治療の試験は多くありません。

以上のことをお伝えした上で、(1)と(2)についてお答えします。

(1)パラプラチンやアバスチンなどの効果が期待できる遺伝子の検査は、検査自体がまだ確立していません。ある遺伝子を調べることで、治療効果が判別できるようにはまだなっていません。

(2)BRCA1の検査は、がん細胞の遺伝子異常の検査ではなく、身体全体に遺伝的な異常があるかどうかを調べる検査で、血液検査でわかります。遺伝性の乳がんであるかどうかを調べるために行われます。ただし、ベイサルライク乳がんで、遺伝子レベルでのBRCA1異常は稀で、通常はタンパクが発現する翻訳以降の過程で異常が起こるとされます。したがって遺伝子検査の意味はありません。

EGFR遺伝子とc-KIT遺伝子の検査は、BRCA1検査とは違って、がん細胞の遺伝子について調べる検査で、摘出したがん細胞で調べます。発現タンパクを調べるほうが容易であり、これらの検査を実施することは可能ですが、その結果によって治療法が変わることは現状ではありませんので検査の意味はありません。 現実的におこなうとすれば、CK5/6とEGFRタンパク染色で、ベイサルライクであることを確認することぐらいでしょう。

ゼローダはもともと、アントラサイクリン系、タキサン系が効かなくなった場合のサードラインの抗がん剤として認可されており、効果がないとは限りません。

EC療法=ファルモルビシン(一般名エピルビシン)+エンドキサン(一般名シクロホスファミド)の抗がん剤治療

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