ステージⅠの直腸がん 腹腔鏡下手術の効果は開腹手術と同等か?
S状結腸寄りの上部直腸にがんが見つかりました。粘膜、粘膜下層を越えて固有筋層に及んでいますが筋層外には至っておらず、ステージⅠとの診断でした。腹腔鏡による手術を勧められています。開腹手術よりも身体への負担が少なそうなので腹腔鏡下手術を受けようかと思っていますが、肝心の治療成績は開腹手術と比べてどうなのでしょう。メリットとデメリットを教えてください。
(65歳 女性 岐阜県)
A 治療成績を比較したエビデンスはない
固有筋層に侵潤している大腸がんであれば、リンパ節郭清を含む手術が必要になります。がんの存在する腸の切除と併せて、目に見えなくても転移している可能性のある領域のリンパ節も系統的に切り取ります。
この病態の大腸がんについては、以前は開腹による手術を行うのが標準手術でした。最近は腹腔鏡による手術もよく行われており、早期の結腸がんでは標準治療となりつつあります。
ただし直腸がんについて腹腔鏡下手術の妥当性を検討した信頼性の高い研究結果(エビデンス)は現時点では存在せず、ご質問のような開腹手術と比較した腹腔鏡下手術の治療成績はまだよくわかっていません。
現在、日本の第一線の臨床医や研究者が多数参加している大腸癌研究会のプロジェクト研究によって、直腸がんに対する腹腔鏡下手術の安全性と有効性を調べる臨床試験が行われています。これは、術前診断で病期0~1と診断され、腹腔鏡下手術を受けた直腸がん患者さんを長期にわたって追跡して、治療効果を調べる研究です。
第一段階では縫合不全の割合などの有害事象(イベント)を、第2段階では全生存期間をメインに調べています。両段階を通じて、根治術施行率、治療合併症率、再手術率、術後在院期間、無再発生存期間、なども調査されます。
早期の直腸がんに対する腹腔鏡下手術のメリット・デメリットは、この結果が出ればある程度のことは言えるようになると思われます。ただし、これは数年先のことになります。
腹腔鏡手術のメリット・デメリットについて、現段階で一般的に認識されていることは次のようになります。
大きなメリットとしては、手術創(傷)が小さく、整容(美容)面に優ることが挙げられます。入院期間も数日短くなることが多いです。
デメリットとしては手術難度が高く、施設間の技術格差があることです。年間70~80件の大腸がんの手術件数をもつ施設であれば優秀な技術を備えていると思われますので、ご質問の方もその点をチェックして検討されたらいかがでしょうか。