リムパーザの効果が期待できるのでは
2016年8月手のしびれと発熱で入院。原因は特定できなかったものの、CT検査で脳の腫脹と、卵巣がんの疑いで大学病院に転院。そこで卵巣がんと診断され摘出手術を予定していたのですが、実家に帰省中、病状悪化(腹水が溜まり意識混濁)で、緊急入院。トルーソー症候群による脳梗塞と診断され、重い言語障害と手足のしびれを発症。治療後、脳梗塞の症状がある程度良くなった9月下旬に左右の卵巣を摘出。病理検査の結果、卵巣がんステージⅠで、見える範囲のがんはすべて取り切れたとのことだった。
10月からTC療法(タキソール+カルボプラチン)を3週間おきに6回実施。9割方通常生活が可能な状態まで回復。2018年8月の検査でマーカー値の上昇と、CT検査で腹部及びリンパ節数カ所に転移が認められた。併せて小さな乳がんも見つかったこともあり、がんセンターに転院。乳がんは数㎜、卵巣がんの転移ではなく早期のため、転移した卵巣がんの治療を優先することになった。
卵巣がんは複数個所への転移が認められ、明細胞(めいさいぼう)がんとの説明。抗がん薬治療以前の治療で効果があったTC療法。アバスチン(一般名ベバシズマブ)は脳梗塞のリスクがあるので使用できない)を3回行ったが、その後の検査で、がんの大きさが変わらないか、やや大きくなっており、マーカー値も上昇傾向のため、これ以上のTC療法は効果が期待できないと、12月からドキシル(同ドキソルビシン)の投与に変更。いまのところ脱毛と尿道障害以外に大きな副作用はなく、いたって元気にしています。
脳梗塞予防薬はワーファリン(同ワルファリンカルシウム)からリクシアナ(同エドキサバントシル)に切り替えている。
そこで、ご相談ですが、2018年9月の新薬リムパーザ(同オラパリブ)についての「がんサポート」の記事を読み、これを使用することができないか、がんセンターの担当医と相談。担当医は、以前はプラチナ感受性のがんと考えられたが、今回のTC療法では効果が出てないことから、プラチナ抵抗性に変わったか、最初から抵抗性であったことも考えられるので、リムパーザの効果は期待できないとの回答だった。この判断で間違いないのかをお尋ねしたい。
(63歳 女性 千葉県)
A 現時点では有効性を期待するエビデンスは乏しい
産婦人科学講座生殖腫瘍学准教授の
織田克利さん
この患者さんの場合、血栓塞栓症を来した明細胞がんで、今回再発が起きたと思われます。
ステージⅠの卵巣明細胞がんで血栓塞栓症を起こすのは特徴的な所見ですが、明細胞がんのリムパーザに関する有効性についてはまだ示されてはいません。
過去の臨床試験の結果からは、リムパーザが効きやすいタイプの患者さんは漿液性(しょうえきせい)がんであることが多いと考えられます。もちろん、明細胞がんであっても絶対に効かないとは言えませんし、保険診療上は組織型によらず治療を受けることは可能です。
「TC療法を行ったが期待した効果はなかった」ということですので、現時点ではプラチナ抵抗性と考えられます。最初のTC療法から1年半転移がなかったことからは、当初はプラチナ感受性だった可能性は十分ありますが、ステージⅠの手術でがんが取り切れていたことを考えると、もともとのプラチナ感受性の判断は難しいです。
例えば、手術の効果が極めて高く、抗がん薬を投与してもしなくても再発の時期は変わらなかった可能性もあるからです。
今回再発してTC療法を行った結果、治療効果が思わしくないなら、少なくとも現時点でプラチナ製剤の感受性は高いとは言えません。
主治医がプラチナ抵抗性と判断してドキシルに切り替えたという状況下では、リムパーザは保険適用に即した治療選択ではないこととなります。再発卵巣がんの場合、直近のプラチナ製剤が効いた患者さんのみを対象にしているからです。プラチナ抵抗性の患者さんにリムパーザが一切効かないというわけではありませんが、明細胞がんという前提も含めて考えると、有効性を期待するエビデンス(科学的根拠)が乏しいのが現状です。