乳頭がんで肺に転移。薬による治療法とは?
2014年に甲状腺乳頭がん(大きさ4.5cm)と診断され、甲状腺を全摘。その後、放射性ヨウ素内服による治療を受けました。昨年(2015年)8月に頸部リンパ節への転移が明らかとなり、CT検査で肺にも転移していることがわかりました。その後、頸部リンパ節の手術を行い、肺転移については放射性ヨウ素大量療法を行いましたが、あまり効果はありませんでした。主治医からは今後、薬による治療も含めた計画を立てることになると言われましたが、具体的にはどのような治療になるのでしょうか。
(62歳 女性 三重県)
A 病状が進行した段階で分子標的薬による治療を
内分泌外科部長の杉谷 巌さん
乳頭がんの患者さんに対して、甲状腺全摘手術を行った後に、放射性ヨウ素を用いた治療が行われることがあります。この放射性ヨウ素内用療法は、甲状腺組織の完全な除去を目的としたアブレーション治療と、肺や骨などの遠隔転移に対して行う大量療法の2つに大別されます。
この方は、甲状腺全摘後にアブレーション治療を行ったものの、肺に転移。その後、放射性ヨウ素大量療法を行ったけれども、あまり効果が見られなかった。つまり放射性ヨウ素治療抵抗性ということになります。主治医から提示された薬による治療というのは、最近承認された分子標的薬(*ネクサバール、*レンビマ)になるかと思います。
ここで重要な点は、乳頭がんがたとえ肺に転移したとしても、腫瘍が小さければ進行は緩やかなことです。私どもの経験では、大きさが2cm以下の肺転移であれば、10年生存率は80%程度と長期予後が期待できます。従って、現在の状況ですぐに分子標的薬を使うべきではありません。
定期的に血液検査や肺のCT検査を行い、きちんと病状を評価して、然るべきタイミング、つまり画像上病気が進行してくる、呼吸器系の症状が出てくるといった場合に、初めてその適応になります。
また分子標的薬には従来の抗がん薬とは様相の異なる副作用があり、使用する際には注意が必要です。例えば、ネクサバールには手足が赤くただれる手足皮膚症候群や脱毛、皮疹、下痢などの副作用があります。レンビマにも、高血圧、タンパク尿、下痢、倦怠感などがあるので、副作用の程度に応じて減量や休薬をしながら、長く薬を飲み続けることが重要です。
治療効果としては、完全に腫瘍が消失することはなく、あくまでも進行を抑える薬になります。薬の服用を止めてしまうと、フレア現象といって、病状が一気に進む場合もあります。副作用と上手くつき合いながら、できるだけ長く薬を服用することが大切です。
*ネクサバール=一般名ソラフェニブ *レンビマ=一般名レンバチニブ