広汎浸潤型の濾胞がん。今後の治療方針は?
先日、甲状腺の半分を切除する手術を受けました。摘出した腫瘍は、広汎浸潤型(こうはんしんじゅんがた)の濾胞(ろほう)がんであることが分かりました。主治医から、今後の治療について話を聞いてきたのですが、経過観察でいいのか、残りの甲状腺を摘出して*アイソトープ治療(放射性ヨウ素内用療法)をするか、どちらのほうが良いのでしょうか?
(51歳 女性 山梨県)
A 浸潤の程度によって治療方針を決めるべき
内分泌外科部長の杉谷 巌さん
濾胞がんの診断はそもそも難しく、良性腫瘍である濾胞腺腫(ろほうせんしゅ)との区別が難しいことで知られています。腫瘍を包む被膜が破れていたり(被膜浸潤)、腫瘍細胞が血管内に浸潤していたり(脈管浸潤)する場合に、濾胞がんと診断されますが、手術前の超音波検査や細胞診では区別できず、術後の病理検査の結果、濾胞がんであることが判明することもしばしばあります。さらに濾胞がんであった場合には、軽度の被膜浸潤が存在する「微少浸潤型」と、被膜浸潤や脈管浸潤が広い範囲に存在する「広汎浸潤型」のどちらに属するかを判定します。
一般論で言うと、広汎浸潤型の濾胞がんと診断された場合、血行性転移の確率が高くなりますので、手術で残りの甲状腺も切除して、アイソトープ治療をしたほうが良いと考えます。ただ、広汎浸潤型といっても、浸潤の程度はバラバラで、一概に甲状腺を全摘して、アイソトープ治療をしたほうが良いかというと、そうとも言い切れません。
もし、被膜浸潤や脈管浸潤がそれほど目立つケースでなければ、血中のサイログロブリン(Tg)値(甲状腺濾胞細胞が分泌するタンパク質)を見て、手術後に低下した状態が続くようであれば、そのまま経過観察をするという方法でも良いかと思います(ただし、抗サイログロブリン抗体陽性の人では、サイログロブリン値は上がりにくいので、目安にはならない)。ただ、血中のサイログロブリンの値が、術後低下したのにも関わらず、再び上昇してくるということであれば、血行性転移の可能性も考えられますので、その場合にはPET検査などを行い、転移の有無を確認する必要があります。
ご相談者の場合、手術前には濾胞腺腫との区別がつかず、腫瘍のある甲状腺の片側だけを切除する腺葉(せんよう)切除術を行い、術後に検査をしたところ、広汎浸潤型の濾胞がんであることが判明したと思われます。恐らくですが、広汎浸潤型といっても、浸潤の程度もそれほどではないと推察され、もし術後に血中のサイログロブリン値が低下した状態が続くようであれば、今後の治療方針として経過観察という手もあるかもしれません。
ただし、これはあくまでも頂いたご相談文からの推察でしかありません。実際にはどの程度浸潤しているのか、また血中のサイログロブリン値の推移なども把握した上で、総合的に判断して治療選択をする必要が出てくるかと思います。
*アイソトープ治療=甲状腺がヨウ素を取り込む性質を利用し、I-131と呼ばれる放射能を放出するヨウ素のカプセルを内服し、体の内部から病変に放射線を照射する治療のこと