未分化がんと診断。治療法はあるか

回答者・杉谷 巌
日本医科大学付属病院内分泌外科部長
発行:2016年6月
更新:2016年9月

  

父(74歳)が甲状腺未分化がんと診断されました。肺にも転移しており、主治医からは余命3カ月と告げられました。治療方針として①緩和治療、②放射線療法や化学療法での治療があり、どちらを選ぶか家族で話し合って下さいと言われています。放射線療法や化学療法で、効果は認められるのでしょうか。また最近、新しい分子標的薬が承認されたと聞きましたが、父に使うことはできないのでしょうか。

(46歳 女性 香川県)

レンビマを使える可能性も。ただし副作用には要注意

日本医科大学付属病院
内分泌外科部長の杉谷 巌さん

未分化がんはまれですが、非常に予後の悪いがんです。この方の場合、肺に転移しているということなのでⅣ(IV)C期に分類されます。未分化がんは全てⅣ(IV)期に分類されますがⅣ(IV)A期(腫瘍が甲状腺内に留まっている)やⅣ(IV)B期(隣接臓器に浸潤しているが遠隔転移はない)の場合に根治手術ができれば、余命を延ばすことにつながります。また、未分化がんには、プログノスティック・インデックスと呼ばれる予後予測指標があり、該当項目数が多いほど、がんの生物学的性質は良くないとされます。腫瘍の広がりや予後予測指標から考えると、放射線療法や化学療法を行っても、副作用を凌駕するほどの効果が得られるとは考えにくい状況です。

ただし、昨年(2015年)5月、根治切除ができない未分化がんに対して、分子標的薬レンビマが承認されました。まだ臨床データなどエビデンス(科学的根拠)は不足していますが、今後期待が持てる薬です。

しかしその一方で、副作用にも十分注意が必要です。レンビマは高血圧、タンパク尿といった高頻度な副作用に加えて、出血のリスクがあります。未分化がんのように増殖速度の高いがんでは血管増殖因子の発現が強いのですが、レンビマは腫瘍に栄養を送る血管の増殖を抑えることで効果を発揮します。例えば腫瘍が頸動脈を巻き込んでいたりすると、レンビマによって腫瘍が一気に壊死した場合など頸動脈の破裂を来たし、大出血を引き起こす可能性があります。レンビマを使用する際には、腫瘍と周辺組織との関係から出血リスクを考え、使用の可否を慎重に検討する必要があります。

他にもレンビマの副作用としては、創傷治癒遅延といって傷が治りにくくなることがあります。従ってレンビマが奏効し腫瘍が縮小したからといって、すぐに手術に持っていくことはできません。基本的には、手術と組み合わせて使うといった位置づけではなく、可能な限り服薬し続ける必要がある薬剤です。

お父様がもし副作用に耐え得るのであれば、レンビマを使うことも十分考えられます。また他にも、効果は弱くなりますが副作用の軽い、タキソールを用いる治療も選択肢として考えられるかと思います。今一度主治医の先生とよくご相談されてはいかがでしょうか。

プログノスティック・インデックス(prognostic index: PI、予後予測指標)=①1カ月以内に病状が急速に進んでいる②腫瘍径が5cmを越える③白血球数が1万/μL以上④遠隔転移がある、の4項目中、該当項目数が多いほど、がんの生物学的性質は良くないと考えられている レンビマ=一般名レンバチニブ タキソール=一般名パクリタキセル

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