鎌田 實「がんばらない&あきらめない」対談

抗がん薬の患者さんに対するメリットはデメリットを上回る 大場 大 × 鎌田 實 (後編)

撮影●板橋雄一
構成/江口 敏
発行:2015年11月
更新:2019年7月

  

「近藤誠理論徹底批判」の 外科医で腫瘍内科医の著者が説く「がんとの賢い闘い方」

がん患者さんに正しい知識を持ってもらい、納得できるがん治療に取り組んでほしいとの思いから、『がんとの賢い闘い方――「近藤誠理論」徹底批判』(新潮新書)を出した外科医・腫瘍内科医の大場大さんと、「がんばらない&あきらめない」の鎌田さんの対談後編は、がん患者さんを叱咤激励する内容となった。

大場 大さん「がん治療の選択は医師との共同作業が理想的」

おおば まさる
1972年、石川県生まれ。外科医・腫瘍内科医。医学博士。金沢大学医学部卒業後、がん研有明病院などを経て、東京大学医学部附属病院肝胆膵外科助教。今年3月、同病院を退職し、セカンドオピニオン外来を主とした「東京オンコロジークリニック」を開設した。著書にこの8月に発売された『がんとの賢い闘い方 「近藤誠理論」徹底批判』(新潮新書)がある
鎌田 實さん「患者さんが納得のいく終わり方をさせてあげる配慮が大切」

かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、高齢者への24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数

胃がん検診で早期発見すれば 手術で96%以上治せます

鎌田 「がんは放置するべきだ」と主張されている近藤誠さんが、がん検診を評価していないのに対して、大場さんは「がん検診で早期発見することによって、助けられることが多い」と主張されています。胃がんが粘膜層にだけある早期がんの状態で発見すれば、99%治せるということですね。

大場 粘膜下層まで達している場合でも、早期治療で92%は治せます。

鎌田 だから、がん検診で早期発見することが大事なわけですね。ただ近藤さんは、胃がんは早期発見して治療しても寿命が延びることはない、と言っていますよね。

大場 近藤氏が示せというエビデンスは、放置vs.手術のランダム化比較試験のことを指しているようですから、そこにこだわるならば、たしかにエビデンスは存在しないということになってしまいます。

鎌田 日本では前立腺がんを見つけるのにPSA(前立腺特異抗原)の検査を行いますが、アメリカなどではPSA検査は意味がないと言われています。たしかにPSA検査を行えば、ある程度、前立腺がんを見つけることができ、私たち医師はついつい、「見つかってよかったですね」と言ってしまいますが、アメリカなどでは、前立腺がんは一生、症状として出ないケースもあるとして、毎年PSA検診をする必要はないという考え方をしているわけです。実際、他の病気で亡くなった人が、死後、前立腺がんであったことがわかるケースがあります。そういう意味で、胃がんを早期発見するために、毎年胃がん検診を行う必要性はあるのでしょうか。

大場 前立腺がんと胃がんを区別した議論が必要でしょう。米国やEUでは、胃がんはマイナーな病気として扱われていますので学問としては参考になりません。

鎌田 たしかに胃がんは日本では多いですが、欧米では少ないですね。だから、欧米は胃がんの手術の技術も2流ですよね。

大場 診断学も2流です。ですから、胃がんに関する参考エビデンスは海外にはないんです。ただ、難しいのは近藤さんがよく出される統計のグラフの見方で、あれは胃がんと登録された全患者のデータだという点です。当然、胃がん検診を受けた人の数は少ししか反映されていません。胃がん検診の受診率はせいぜい4割程度で、その中でも胃がんが見つかる人は1%未満です。その意味では、たしかに胃がん検診の効率は悪いです。しかし、ここで検診を否定してしまうと、胃に何か違和感を感じていても検査を先延ばししてしまうリスクが出てきます。がんを早期に見つけるためには、やはりがん検診を積極的に受ける土壌が必要ではないでしょうか。

エビデンス=科学的根拠 放置vs.手術のランダム化比較試験=がんと診断された患者の放置は人道上できないので、事実上このような比較試験は不可能

早期がんでも放置すれば 進行し治せなくなります

鎌田 大場さんの『がんとの賢い闘い方』の中に、早期胃がんの患者さんが近藤理論を信用して、手術を選択しなかった例が書かれていましたね。

大場 これは近藤氏がいろんな本に成功例として書かれている症例です。いわゆる粘膜下層まで達した未分化型の早期胃がんを放置させた結果、10年近く生存できてよかったという話になっていますが、粘膜下層までの未分化型の胃がんは、基本的には治せる状況なんです。近藤氏はすでに腹膜転移があると決めつけ放置させたわけですが、がんはその後、どんどん深くなって進行し、最後は胃壁を突き破って腹膜転移を起こしてしまいました。早期がんの時点で手術しておけば、完治させることができたんです。

鎌田 大場さんのお父さんがその患者さんと似た症状だったそうですね。

大場 はい、粘膜下層に達した未分化型の胃がんでした。最初、手術を受けるつもりで大学病院へ入院したんですが、生検をいくら採ってもがん細胞が出てこなかったので、そのときは手術をせずに、定期的に内視鏡検査を受けることにしました。そして数年後、がんが再び見つかり手術しました。リンパ節転移もありましたが、早期の段階で手術を受けたお陰で完治しました。

私の患者さんで忘れられないのは、近藤氏の本を読まれていたのでしょうか、どうしても手術はイヤだという、分化型の早期胃がんの患者さんがいらっしゃいました。手術をしないで、毎年経過をチェックしていたのですが、7年目ぐらいに進行がんに育ってしまいました。ご本人も慌てて、手術することに同意しましたが、そのときにはもう腹膜転移を起こしていました。後悔されてましたね。

鎌田 1例1例についてお話をうかがっていると、大場さんの主張も正しいと思いますが、がん治療の大きな流れで言うと、がん検診による早期発見が必ずしも患者さんの長生きにつながっていない、という近藤さんの主張にも一理あるような気がしますし、疫学的な視点から見てもそうだと思います。ですから、自分が早期がんの患者さんの立場に立ったら、どう決断するだろうかと考えるわけですが、大場さんはやはり手術を選ばれますか。

大場 できれば開腹手術ではなく、内視鏡的切除で解決してほしいと思いますね(笑)。

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