鎌田 實「がんばらない&あきらめない」対談

「ケトン食」はがん患者への福音になるか? 福田一典 × 鎌田 實 (前編)

撮影●がんサポート編集部
構成/江口 敏
発行:2016年4月
更新:2019年7月

  

進行・再発リスクの高いがん患者さんに延命効果があるとされる「中鎖脂肪ケトン食」とは

来院する患者さんの99%が、がん患者さんだという銀座東京クリニック院長の福田一典さんは、東洋医学的な立場からがん医療にアプローチしている医師だが、3年前に出した『ブドウ糖を絶てばがん細胞は死滅する!』が根強い支持を受けている。いま改めて注目を集める「ケトン食」とは何か、2号にわたり鎌田さんが福田さんに聞いた。

福田一典さん「ケトン体が上がると、がん細胞は死にやすく、抗がん薬も効きやすくなります」

ふくだ かずのり
1953年、福岡県生まれ。1978年、熊本大学医学部卒業。熊本大学医学部第1外科、鹿児島県出水市立病院外科、久留米大学医学部第1病理学教室、北海道大学医学部第1生化学教室、米バーモント大学医学部生化学教室、㈱ツムラ中央研究所、国立がんセンター研究所第1次予防研究室、岐阜大学医学部助教授などを経て、2002年5月に銀座東京クリニックを開設し、院長としてがんの漢方薬治療と補完・代替医療を実践している。主な著書に『からだにやさしい漢方がん医療』『オーダーメイドの漢方がん治療』『自分でできる「がん再発予防」』『あぶない抗がんサプリメント』『健康になりたければ糖質をやめなさい!』『ブドウ糖を絶てばがん細胞は死滅する!』など多数
鎌田 實さん「人類が炭水化物を常食にしてきたことが、がんなどの現代病の根底にある、ということですね」

かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、高齢者への24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数

アポトーシスに興味を抱き ツムラの研究所に入る

鎌田 福田さんはもともとは外科医だったとか。

福田 熊本大学医学部の第1外科で「肝胆膵」をやっていました。当時は国立がんセンターで肝臓の外科的手術がようやくできるようになった時代で、熊本大学医学部の第1外科でも肝臓の手術に取り組み始めた頃でした。私もそこで難治性の肝がんや膵がんの手術に関わっていました。それから約30年が経ちますが、膵がんなどは当時と今を比較しても、手術の成績はほとんど変わっていません。肝がんの成績は多少アップしていますが。

鎌田 たしかに膵がんは難しいですね。

福田 その後、肝がんの基礎研究をするために、肝がんの病理で有名だった久留米大学医学部第1病理学教室へ行き、さらに北海道大学医学部第1生化学教室に行きました。

鎌田 その頃は外科医として肝胆膵のがん治療をやろうとしていたんですね。しかし、米バーモント大学医学部に留学されたあと、ツムラ中央研究所部長となり、漢方薬理の研究に従事されてますよね。

福田 その頃、急に「アポトーシス」ということが言われ始めたんです。アポトーシスとは細胞の死にかたの一種で、個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる細胞死のことで、私たちは「プログラム細胞死」と呼んでいます。当時、がん細胞にアポトーシスを誘導すれば、がん治療に有効ではないかと、みんなが注目したんです。植物や生薬の成分からアポトーシスを誘導する成分を見つけ、それを薬にするという、抗がん薬を開発する発想で世界中が取り組んでいました。ただ、海外では生薬に取り組んでいるケースがなかったので、私が漢方・生薬のトップ企業のツムラに「研究させてくれ」とお願いして、ツムラの研究所に入ったんです。

銀座東京クリニックを開設 99%が、がん患者さん

鎌田 そのあと国立がんセンターに入られた。

福田 当時、アメリカではいろんな食品の成分を研究して、がん予防の薬を研究していました。その面で、日本は遅れていたんです。そこで、がん予防に関して食品研究ではアメリカに追いつけないので、漢方薬・生薬の研究でアメリカに追いつこうと、私に白羽の矢が立ったわけです。

鎌田 がん予防研究部第1次予防研究室長を務められた。

福田 第1次予防というのは、がんにならないためにどういう食事や生活習慣がいいかを研究することです。つまり、私が目指したのは、食事の内容でがんを予防するということです。ところが、がんセンターはその研究からがんを予防できる物質を探し、論文を書き、薬を創るところまで求めるのです。結局、私の漢方的・薬膳的な発想は受け入れられませんでした。ちょうどその頃、ツムラが寄付講座として、岐阜大学医学部に東洋医学講座を開設したので、岐阜大学医学部助教授となり、4年ほど東洋医学の臨床・研究・教育に従事しました。しかし、東洋医学や漢方は国立大学医学部では、ほとんど相手にされませんでした。それで東京に帰ってきて、自分で漢方・東洋医学の銀座東京クリニックを14年前に開設したわけです。

鎌田 今、患者さんはがん患者さんが多いですか。

福田 99%が、がん患者さんです。基本的には、がんの標準治療をやっている患者さんの、「副作用軽減のために、いい漢方はないか」とか、「いいサプリメントはないか」という相談に乗ったり、医師から見放された患者さんの、「少しでも延命できるようなものはないか」という要望に応えたり、アドバイスしたりすることが多いですね。最初は国立がん研究センターに無視されましたが、最近は、がん研究センターの紹介で来る患者さんもおられます。患者さんも、「緩和ケアに行ってください」と言われても、すぐには納得できず、「何とかしたい」という思いで私のクリニックへ来られる人が少なくないですね。

ブドウ糖を絶つケトン食で がん細胞を死滅させる!

鎌田 ところで玄米食とか野菜ジュースとか、がんの食事療法にはいろんなものがありますよね。そういう中で、福田さんは「ブドウ糖を絶つ」という観点から、糖・炭水化物を減らし脂肪を増やす「ケトン食」を推奨されている。

福田 ケトン食は私が打ち出した食事療法ではなく、アメリカなどではすでに広く実践されている療法です。

鎌田 なぜケトン食がいいと思ったんですか。

福田 PET検査(陽電子断層撮影法)はブドウ糖に標識して注射すると、がん細胞がそこに集まってくるのを利用した検査法です。がん細胞はブドウ糖の取り込みが正常細胞の何十倍も多いんです。なぜかと言えば、ブドウ糖を材料にしてエネルギーをつくったりしているからです。がん細胞におけるブドウ糖の取り込み亢進が、がん細胞の増殖や転移、さらに抗がん薬抵抗性といった悪性腫瘍の性質を支配しているといっていいでしょう。

鎌田 ブドウ糖を絶てば、がん細胞は本当に死滅するんですか。

福田 ネズミにがんを移植した動物実験では、カロリー制限を行うと、腫瘍の増殖が抑制され、生存期間が延びたという報告がありますし、カロリー制限をしなくとも、糖質を減らすだけでがんの増殖を遅くできたという報告もあります。そこで、カロリーを減らさずに糖質を減らすために、脂肪の摂取量を増やすことになります。「脂肪の摂り過ぎが発がんリスクを高める」という説がありますが、糖質の摂取量を減らせばその説は当てはまらないことが、多くの動物実験で確認されています。その理由の1つが、脂肪酸が分解してできる「ケトン体」という物質です。ケトン体はブドウ糖が枯渇したときの代替エネルギー源となります。正常細胞がケトン体をエネルギー源として利用できるのに対して、がん細胞はそれができないのです。さらに、ケトン体自体にがん細胞の増殖を抑える作用もあります。

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