鎌田 實「がんばらない&あきらめない」対談
「糖質」の摂取が、がんに一番悪いと思います 福田一典 × 鎌田 實 (後編)
がんにも認知症にも糖尿病にもならないで体脂肪も落とせる「ケトン食」とは
がん細胞へのブドウ糖の補給を絶つ「ケトン食」で、がん医療に新たなアプローチをしている銀座東京クリニック院長の福田一典さん。今月号では、がん患者さんに適したケトン食の具体例や、ケトン食はがん予防にも効果があるらしいという興味深い話も伺った。
1953年、福岡県生まれ。1978年、熊本大学医学部卒業。熊本大学医学部第1外科、鹿児島県出水市立病院外科、久留米大学医学部第1病理学教室、北海道大学医学部第1生化学教室、米バーモント大学医学部生化学教室、㈱ツムラ中央研究所、国立がんセンター研究所第1次予防研究室、岐阜大学医学部助教授などを経て、2002年5月に銀座東京クリニックを開設し、院長としてがんの漢方薬治療と補完・代替医療を実践している。主な著書に『からだにやさしい漢方がん医療』『オーダーメイドの漢方がん治療』『自分でできる「がん再発予防」』『あぶない抗がんサプリメント』『健康になりたければ糖質をやめなさい!』『ブドウ糖を絶てばがん細胞は死滅する!』など多数
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、高齢者への24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数
ブドウ糖に代わるケトン体 中鎖脂肪酸オイルに注目!
鎌田 前号ではまず、「がん細胞はブドウ糖を利用して成長している。がんを抑えるには、まずブドウ糖を絶てばいい。そこで注目されるのが、ブドウ糖の代替エネルギーとなるケトン体で、ケトン体を産生するケトン食が有効だ」というお話をしていただきました。
今月号では、がん患者さんに適したケトン食の具体例や、ケトン食はがん予防にも効果があるとか、糖質摂取を控えるコツといった、「がんサポート」の読者にとって興味津々なお話を伺いたいと思います。
がんになった場合、とくに進行がんの場合は、食欲が落ちてきて、肉を避け、さっぱりしたものを食べたくなるようですが、そういうときこそ上手に料理をして、タンパク質や脂質を摂ったほうがいいですか。
福田 そうなんですが、患者さんによってはそれが困難な場合もあります。そういう場合、ケトン食がいいと思います。アメリカあたりでは、進行がんや末期がんの患者さんがケトン食によって症状の改善が認められた、という臨床試験の報告が出ています。
鎌田 福田さんは、ブドウ糖の代替エネルギーとなるケトン体を増やすために、中鎖脂肪酸を多く摂ることを主張されていますが、中鎖脂肪酸について簡単に説明していただけますか。
福田 脂肪酸にはその長さによって短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸の3種類があります。その中で中鎖脂肪酸は、消化管から吸収した栄養成分や代謝産物などを肝臓で処理するために、肝臓への特別の輸送路である門脈にわりと簡単に入っていって、肝臓でどんどんエネルギー源をつくる脂肪酸です。
鎌田 それは、がんの人でも同じなんですね。
福田 そうです。昔から、中鎖脂肪酸は病気の人や未熟児などの栄養食や、スポーツ選手のウェイトコントロールに使われてきました。最近、食用油のメーカーが盛んに宣伝しているMCT(中鎖脂肪酸)オイルというのは、ココナッツオイルに多く含まれる中鎖脂肪酸100%のオイルです。ここへ来てMCTオイルの需要が急増しており、価格も2倍ぐらいに値上がりしていますよ。
鎌田 MCTオイルはどういう摂り方をするんですか。
福田 私は食後に、牛乳に20gほど入れて飲んでいます。基本的に熱を加えるのはダメで、野菜サラダのドレッシングに使ったり、野菜ジュースに入れて飲んだりします。最近の果物は糖度を高くし、甘くしてありますから、果物のジュースは避けたほうがいいです。果物だったらアボカドですね。アボカドの糖度は100g当たり1g以下ですからね。
総死亡リスクを左右する 良い脂肪酸・悪い脂肪酸
鎌田 中鎖脂肪酸はオイルから摂るのがいちばん手っ取り早いんですか。
福田 そうですね。ココナッツオイルは中鎖脂肪酸を65%含んでいますから、いまブームになっています。
鎌田 ココナッツオイルはがんにもいいし、認知症の予防にもいいと言われてますよね。要するに、抗炎症作用があるんだ。
福田 本来なら、ココナッツオイルよりも100%ピュアなMCTオイルを、サラダオイルとして使ったり、ジュースにして飲んだほうがいい。量は1回に20~30ccぐらいです。直接飲んでも構いませんが、がん患者さんだったら、例えば豆腐、納豆、アボカドなどにかけて摂ってもいい。ただし、慣れないうちにたくさん摂ると、下痢になることがあります。いずれにしても、中鎖脂肪酸の働きを活かしたケトン食が、認知症、自閉症、てんかんなどに効果があるほか、グリオブラストーマ(膠芽腫)などの悪性のがんにも効くということが、医療の世界で認められてきています。
鎌田 長鎖脂肪酸も体にいいんですか。
福田 と言うより、脂肪酸には体にいい脂肪酸と悪い脂肪酸があるんです。体に良い脂肪酸を摂取している場合は、脂肪の摂取量が多いほうが、がんを含めた総死亡リスクが低下するという研究結果も出ています。体に良い脂肪酸とは、亜麻仁油、紫蘇油、魚油、クルミ油などに含まれるα-リノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)や、オリーブ油、菜種油、米油、落花生油などに含まれるオレイン酸などです。α-リノレン酸、EPA、DHAなどは、頭の働きを良くしますし、がんにも効きます。オリーブ油からオレイン酸をたくさん摂っている地中海周辺の人は、循環器系の疾患やがんが少ないと言われています。 逆に体に良くない脂肪酸は、マーガリン、ラード、バター、牛脂などに含まれるバルミチン酸、ステアリン酸のような飽和脂肪酸や、大豆油、コーン油、グレープシードオイル、ごま油などに含まれるリノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸等々です。
現代の日本人は糖質過多 糖質摂取を10分の1に!
鎌田 日本で普通に売られている食用油は、あまり体に良くないんですね。動物性脂肪はどうですか。
福田 基本的に良くないです。赤身の肉は多少摂っても構いませんが、肉の脂はダメです。「肉の脂は少なく、魚の脂は多く」が基本です。
鎌田 チーズは?
福田 一般的に、「がんの患者さんには乳製品は良くない」と言われていますが、ほどほどの量なら構いません。
鎌田 ヨーグルトは?
福田 ヨーグルトはいいですよ。ただ、わざわざ砂糖を入れて甘くしているような商品を選ばないことです。
鎌田 日本人は今、カロリーの6割ぐらい、糖質で摂っているようですね。がんと闘うためには、それを10%ぐらいまで減らす必要がある。
福田 現在、日本人が1日に摂るカロリーを1,200カロリーとすると、糖質を300~400g摂っています。それを30gぐらいに落とすことです。コメに換算すれば、おにぎり1個分、コンビニの食パンなら1~2枚分ぐらいですね。
鎌田 野菜などにも糖質は入っていますから、食パンは1日1枚ですね。
福田 ケトン食によってがんを治そうとする場合は、基本的にご飯とかパンは摂れません。糖質が少ない大豆、ナッツ類、葉野菜などを摂るだけで、1日20~30gの糖質を摂ることになりますからね。世の中には「断糖」といって、全く糖質を摂らない人もいます。そういう人が摂るのは肉、玉子、魚、バターなど糖質を含まないものだけで、野菜すら摂りません。ただ、がん治療の観点から言えば、断糖はちょっとやり過ぎです。多少、糖質が含まれていても、大豆、ナッツ類、葉野菜などは摂るべきだと思います。その分、中鎖脂肪酸などを多く摂り、ケトン体を上げるべきです。とにかく、がんの場合はケトン体を上げることが一番のポイントです。
鎌田 糖尿病の患者さんで、糖の入っていないクッキーなどを食べている人がいます。最近は、糖分の入っていない食品がパックで売られていますが、そういう食品は利用していいんですか。
福田 もちろんです。コンニャクでつくったラーメン、豆腐でつくった素麺、麩でつくったパンなどもありますよ。そこまでやる必要がない人も、コンニャク、豆腐、海草類は普段から食べるといいですよ。
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