鎌田 實「がんばらない&あきらめない」対談
「鎌田 實の諏訪中央病院へようこそ!」医療スタッフ編――患者さんが幸せに生きてもらうための「あたたかながん診療」を目指して
鎌田さんが名誉院長を務める諏訪中央病院は、緩和ケアに力を入れている病院としても知られている。前号では鎌田さんに、緩和ケア病棟の患者さんや、病院を支えるグリーンボランティアの人たちを紹介いただいたが、今号では緩和ケア病棟に携わる医療スタッフに、諏訪中央病院が目指す緩和医療の在り方について語り合ってもらった。
かまた みのる 1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、高齢者への24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数
緩和ケア病棟で感謝される QOLを向上させるリハビリ
▼理学療法士・浜 一広さん
鎌田 諏訪中央病院の緩和ケア病棟にはPT(理学療法士)やOT(作業療法士)が多く入っています。手応えはいかがですか。
浜 患者さんからは非常に喜ばれています。基本的に、回復を目指すのがリハビリの本質だとは思いますが、終末期の患者さんに対しても、私たちが提供できるものをしっかり勉強して、患者さんのご要望に応じて提供していくことを考えています。
鎌田 ボクが緩和ケア病棟を回診すると、ほとんどの患者さんが、「PTやOTのおかげで歩けるようになった」と喜んでいる。リハビリは大きな効果があるようですね。
浜 患者さんのQOL(生活の質)を向上させて、少しでも良い時期を過ごしていただくことが大事だと思います。
鎌田 いま病院のスタッフは全部で何人?
浜 PT、OT、ST(セラピストまたは療法士)で48人です。
鎌田 スゴイね。それだけの人数がいるから、緩和ケア病棟でのリハビリをやりながら、在宅のリハビリもできるんだね。
浜 最近はリハビリを必要とする患者さんが増えていますので、48人でも少し厳しいです。問題は、いかにしてリハビリの指導ができるスタッフを創り出すかです。
鎌田 スタッフの中には、嚥下などを一生懸命手伝っているSTもいますね。緩和ケア病棟に入ってくる患者さんは、一見、あと何日ももたないような人がほとんどだけど、スタッフの指導のおかげで、昨日より今日、今日より明日と、次第に体力を回復し、やがて少しでも歩けるようになると、患者さんも嬉しいんだね。
浜 スタッフみんなでチームを組み、治療に取り組んでいくのは、やはり緩和ケア病棟だからこそだという感じがします。
身体の一部だけは病気だが 患者さんは尊厳を持った存在
▼緩和ケア病棟看護師長・村越里枝子さん
鎌田 緩和ケア病棟の看護師長として、いちばん心掛けていることは何ですか。
村越 患者さんはその人の身体の一部だけが病気なのであり、その人自体は尊厳を持った人間なんですね。病気だけを見るのではなく、その人の全体にかかわっていくことが大事だと考えています。
鎌田 ボクが院長だった頃は緩和ケア病棟はわずか6床だったけれど、今度新館ができて合計12床になりましたね。
村越 今回新たに病床数が増えたので、少しでも多くの患者さんに利用していただけるようになり、患者さんやそのご家族にとってはプラスになったと思います。
鎌田 先日、回診していたら、「先週は昼神温泉へ行き、その前は上諏訪温泉に行ってきた」と言いながら、腹水を抜いていた患者さんがいた。少しでも回復して楽しんでもらうために、スタッフもいろいろ心掛けているんだ。
村越 患者さんの症状を緩和しながら、生活を整えていくということです。生活が整い体調が安定して、患者さんに何かしてみようという気持ちが出てきたら、私たちが100%お手伝いします。
緩和ケア病棟は生活の場 ひとつ屋根の下の長屋です
▼緩和ケア病棟看護師長・村越里枝子さん
鎌田 緩和ケア病棟の患者さんたちは、水曜日お昼のカレーライスを楽しみにしているね。以前、非ホジキンリンパ腫で視神経にがんが浸潤し、目が見えなくなった患者さんがいました。ボクが毎週火曜日に回診に行くと、「明日はカレーライスだ」と嬉しそうだった。最期はカレーライスがあの人の支えだった。最期の2週間ぐらいは、部屋まで届けたの?
村越 介護士さんが届けました。
鎌田 患者さんがこうしてほしいと言うと、スタッフが何でもしてあげるんだね。
村越 患者さんが希望する内容は、そんなに突拍子もないことではありません。ですから、支えてあげたいと思いますね。
鎌田 患者さんはみんな、結構好き勝手なことを言ってるよね。「オレ、明日はウナギを食いに行くんだ」とか(笑)。
村越 いいと思うんですよ。ここは病院ですが、患者さんにとって、お家と病院の中間みたいな感じだと思うんです。お家にいれば、当たり前にラーメンを食べに行ったり、ちょっとオシャレなレストランに出掛けたりするでしょう。入院すると、それが当たり前にできなくなってしまいますが、ここは患者さんの生活の場、療養の場ですから、ひとつ屋根の下の大きい長屋のようなものだというのが、私の感覚です。
鎌田 そうか。緩和ケア病棟は、ひとつ屋根の下の大きな長屋なんだ。
村越 緩和ケア病棟はその都度、目の前の患者さんご家族に合わせて行けばいいと思うんです。特別に高度な医療は一般病棟で行う。ここの場合は、その都度、みんなで考えて行う。先生も考えてくださる。私たちも考えている。その中で、やれる範囲のことを精一杯やっていくことだと思います。
患者さんにまず訊くことは「一番大切なものは何?」
▼精神腫瘍科部長・大中俊宏さん
鎌田 精神腫瘍科医として諏訪中央病院に来られて、どれくらい経ちましたか。
大中 9カ月に入ったところです。自由にやらせてもらっています。
鎌田 緩和ケア病棟や在宅緩和ケアは、死が近づいている患者さんが相手です。精神腫瘍科医として特に注意していることは?
大中 患者さんやそのご家族にとって、何が一番大切かを、まず訊くことにしています。それが身体の症状を取り除くことであれば、精神腫瘍科医であっても身体症状を優先するようにしますし、それ以外の精神的、スピリチュアル的なことであれば、どのようにしてそこにアプローチできるか考えていきます。
鎌田 先週、緩和ケア病棟を回診したとき、患者さんの中に、ある宗教団体の冊子を読んでいる人がいた。今週また回診に行くと、その宗教のさらに難しい資料を揃えて、「私はもう30年もこれを勉強してきて、読むだけでホッとします」と言う。この病院は、太陽に拝もうが、山に拝もうが、患者さんがいいと思ってやっている部分には、手を突っ込まないが、それは大事なことです。
大中 こちらの土俵に患者さんを引き込むのではなくて、常に患者さんからその人の価値観を教えていただくという姿勢が大事だと思います。
緩和ケアの現場で求められる「あれで良かったよ」の一言
▼精神腫瘍科部長・大中俊宏さん
鎌田 ボクは回診していつも感じるんだけど、症状がかなり厳しい人でも、いつもニコニコしていますね。
大中 まず自分のほうがリラックスして、笑顔をつくるように心掛けています。1日1回は患者さんとお互いに笑顔を交わし合おうと、前の晩からユーモアを考えていますね(笑)。
鎌田 精神腫瘍科医のちょっとした一言で、がん患者さんが前向きの力をもらうこともできる。心とがんは密接につながっているはずですから。大中さんはこの病院で精神腫瘍科医として、どういう役割を担おうとされていますか。
大中 医師として患者さんやそのご家族と真摯に接することと並行して、他の医師やスタッフの話を聞き、疲弊しない環境を整えることも、ひとつの役割と考えています。
鎌田 ウチのスタッフは疲れて、燃え尽きそうじゃないですか(笑)。
大中 いえ、すごくタフですね。それは患者さんやそのご家族から感謝され、気持ちが報われているからだと思います。また、スタッフ同士や医師からスタッフへの、「あれは良かったよ」「あれで良かったね」という、きめ細やかなフィードバックがありますからね。
鎌田 そういう一言って、大事ですよね。
大中 緩和ケアって、多様性を求められる半面、絶対的な答えがないので、「あれで良かったんだよ」という後押しは、すごく達成感につながると思います。
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