鎌田 實「がんばらない&あきらめない」対談

遺伝子を検査することで白血病の治療成績は向上します
小島勢二 × リカ・アルカザイル × 鎌田 實 (前編)

撮影●がんサポート編集部
構成/江口 敏
発行:2016年6月
更新:2018年8月

  

白血病の子どもの生存率を100%に近づけるために

鎌田さんが代表を務めるJIM-NET(NPO 日本イラク医療支援ネットワーク)がイラクの白血病の子どもたちの支援を行っているのは周知の事実だが、信州大学で遺伝子検査を学んだイラクの医師、リカ・アルカザイルさんと、「名古屋小児がん基金」を5月に発足させた名古屋大学名誉教授の小島勢二さんに、東京・高田馬場のオフィスで、白血病治療から医療支援まで、大いに語り合ってもらった。

小島勢二さん「このシステムは百万個の骨髄細胞の中に白血病細胞が1個残っているかどうかまで分かります」

こじま せいじ
1976年、名古屋大学医学部卒業。1981年、静岡こども病院、1984年、名古屋第一赤十字病院、1998年、名古屋大学大学院成長発達医学教授、2002年、名古屋大学大学院小児科学教授を歴任し、2016年3月、退官。日本血液学会、日本小児科学会、日本小児血液・がん学会、日本造血細胞移植学会に所属。白血病や再生不良性貧血といった難治性血液疾患や固形腫瘍の研究・治療を専門とする。これまでキャリアの大半を市中病院の医師として過ごしたという、異色の経歴を持つ大学教授として知られる
鎌田 實さん「イラクが平和になったら劣化ウラン弾と小児白血病の因果関係を究明してほしい」

かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、高齢者への24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数

イラクの子どもたちを白血病から救うために

鎌田 リカ・アルカザイル(以下=リカ)さんは子どもの白血病を専門にされている、イラクの小児科医です。信州大学医学部大学院で4年間、小池健一先生のもとで遺伝子の研究をされました。リカさんと小島さんは初対面ですか。

リカ 初めてです。

小島 初めてですが、リカさんのことは、小池先生からお話をうかがっています。

鎌田 リカさんは小島さんの小児白血病の研究・治療に非常に興味を持ち、今後、イラクの子どもたちの白血病治療を進めていく中で、ぜひとも小島先生の協力をいただきたいということです。

リカ どうぞよろしくお願いします。

小島 こちらこそ、どうぞよろしく。

鎌田 まず最初に、私がリカさんと出会った経緯からお話します。私はイラク戦争に反対の立場から、12年ほど前にJIM-NETを設立し、イラクの子どもたちを助けようと、医療支援を始めたんですが、その頃、イラクでリカさんと出会いました。彼女は今、IS(イスラム国)に制圧されているモスルの小児病院の医師で、小児白血病部門の部長を務めていました。リカさんはクリスチャンのためISから、とくに厳しい迫害に遭いました。私たちJIM-NETはバスラ、バグダッド、モスル、アルビルという4つの都市の、小児がんの基幹病院を支援してきました。この4つの病院から毎年、小児がん治療実績のデータを出してもらい、どういう支援をしたらイラクの白血病の子どもたちを救うことができるのかを考えながら、支援を続けてきました。私はまた、チェルノブイリ原発事故の被災者に対して医療支援を行う、JCFの理事長もやっています。このJCFはアルビルの難民キャンプに6つの診療所の医療機器や薬の支援を行っています。リカさんにはJCFのスタッフとして働いてもらっています。

小島 私も少し自己紹介をさせていただきますと、この3月まで名古屋大学小児科の教授をやっていました。専門は血液腫瘍で、小児白血病とか再生不良性貧血などの治療に取り組んできました。その関係で、私も名古屋でイラクの子どもたちの白血病治療の支援に少し関わっていました。時々、イラクの先生方が名古屋大学に来られていましたから、イラクの子どもたちの白血病の状況については、多少知識があります。

子どもにおいて最も頻度が高い急性リンパ性白血病には、最初から、治りやすいものと治りにくいものがあります。それは白血球の数と年齢で見極めができ、白血球の多いお子さん、年長のお子さんや1歳以下の乳児は再発しやすいことが知られています。そこで、治りやすい白血病の子には、なるべく副作用の少ない緩めの治療を施し、治りにくい白血病の子には、治療を強いものにする。これがこれまで世界中で使われてきた小児白血病治療の標準的なやり方でした。しかし、この見極め方では不十分だ、もう少しはっきり見極めができるプラスαへの期待が、世界的に高まっていました。

JIM-NET=日本イラク医療支援ネットワーク
(〒171-0033 東京都豊島区高田3-10-24 第二大島ビル303 TEL/FAX:03-6228-0746)
JCF=日本チェルノブイリ連帯基金
(〒390-0303 長野県松本市浅間温泉2-12-12 TEL:0263-46-4218 FAX:0263-46-6229)

信州大で遺伝子検査を学び イラクで初の遺伝子検査

鎌田 そこで出てきたプラスαが遺伝子検査ですね。

小島 そうです。遺伝子検査ができれば、最初から、この子は再発しない、再発するということが、かなり明確になります。

鎌田 リカさんは信州大学の小池先生のもとで、その研究をしたんですよね。そして、その遺伝子検査をイラクの小児白血病の治療に活かそうとしている。

リカ はい。私はイラクで初めて、小児白血病の患者さんの遺伝子検査をやりました。5つの病院の白血病の子どもたちから血液を採取し、FADカードにしみ込ませて日本に送ってもらい、日本で検査をしました。

小島 イラクで採取してから日本に到着するまで、何日ぐらいかかりましたか。

リカ 5日間です。

小島 大事なのはDNA(デオキシリボ核酸)の量です。遺伝子からDNAが採取できれば、検査はそれほど難しくありません。

リカ 私はRNA(リボ核酸)を使いました。

小島 そうですか。一般的には、RNAは不安定ですから、イラクから送られてきた血液からRNAを採取するのは難しい。したがって、先進国ではDNAで検査するのが主流です。しかし、RNAを使ったというのは、学問的に意味のあることだと思います。いずれにしても、イラクから白血病の子どもの遺伝子を日本に送り、遺伝子検査ができたという意味は大きいですね。

鎌田 白血病の子どもたちの治療が遅れている、途上国や紛争地域から、白血病の子どもたちの血液を送ってもらい、白血病細胞の遺伝子検査をすれば、それらの地域の小児白血病治療に大きな貢献ができるわけですね。

小島 もちろんです。リカさんが、イラクから遺伝子検査の検体を信州大学に送り、検査するというルートをつくられたことは、イラクの白血病の子どもたちにとって、大きな福音だと思います。治りやすい白血病か、治りにくい白血病かを、治療前に遺伝子検査で見極めれば、軽い治療で済む子どもたちも多いわけですからね。

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