鎌田 實「がんばらない&あきらめない」対談

再発難治性急性リンパ性白血病の画期的治療法 CAR-T細胞療法とは 小島勢二 × リカ・アルカザイル × 鎌田 實 (後編)

撮影●がんサポート編集部
構成/江口 敏
(2016年7月)

  

「最先端医療を安価に」を合言葉に「名古屋小児がん基金」が発足

小島さんが勤める名古屋大学と、イラク人医師リカさんが学んだ信州大学が共同で開発した、安くて安全なCAR-T細胞療法が、白血病患者さんに福音をもたらす治療法として注目され、認可が待たれている。その治療法をリードしている小島さんに、鎌田さんが最新の治療法や検査法などに対する期待と展望を聞いた。

小島勢二さん「CAR-T細胞療法のお陰でこれまで助からなかった白血病患者さんが治るようになってきました」
こじま せいじ
1976年、名古屋大学医学部卒業。1981年、静岡こども病院、1984年、名古屋第一赤十字病院、1998年、名古屋大学大学院成長発達医学教授、2002年、名古屋大学大学院小児科学教授を歴任し、2016年3月、退官。日本血液学会、日本小児科学会、日本小児血液・がん学会、日本造血細胞移植学会に所属。白血病や再生不良性貧血といった難治性血液疾患や固形腫瘍の研究・治療を専門とする。これまでキャリアの大半を市中病院の医師として過ごしたという、異色の経歴を持つ大学教授として知られる
鎌田 實さん「世界がやってない方法を見い出すなんて、すごいことですね」
かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、高齢者への24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数

MRD(微少残存病変)検査で 再発リスクの有無を診断

鎌田 前号では、従来は寛解かどうかを確かめる方法は、顕微鏡を見て、せいぜい100~200個の細胞を確認する程度の話だったのが、次世代シークエンサーを用いた名古屋大学のシステムでは、100万個の白血病細胞が1個残っているかどうかまで見極めることができるようになった、という話までうかがいました。

小島 ですから、このシステムで調べてみて、白血病細胞がなければ、再発のリスクは低いと判定できます。治療を開始して3カ月の時点で、もうMRD(微少残存病変)がないことを確認できれば、その患者さんは標準的な治療でも、90%以上は助かることがわかるわけです。逆にMRDが残っていた場合は、再発する確率は40%ぐらいです。ということは、3カ月の時点でMRDがなかった患者さんはそのままの治療でいいし、あった患者さんにだけ強化した治療を行うようにすればいい。ただ、現在このシステムを導入しているのは、日本では名古屋大学の小児科だけです。世界でもこれから使おうという段階です。名古屋大学では、検体を送っていただければ、調べて協力するようにしています。

鎌田 名古屋大学が世界の先頭を走っているわけですね。

小島 そう言えるのかもしれません。それからもう1つ、骨髄移植の話ですが、寛解期に移植しても移植前にMRDが陽性だと、半分以上が再発します。やはりMRDが残っていてはダメなんです。MRDがなければ、9割以上が治ります。いずれにしても、このシステムを導入することが、急性リンパ性白血病の治療成績を上げることにつなげる、極めて大事なシステムだと思います。

日本では、次世代シークエンサーでMRDをチェックする方式は私たちが開発したんですが、アメリカでは検査会社がこれを活用すると言っています。先日、日本造血細胞移植学会が開かれたとき、ある内科の先生が、「次世代シークエンサーでMRDをチェックする方法を使うと、移植後の再発を予測できて、非常にいいですね。アメリカの会社から一緒に治験をやりましょうと声をかけられている」と言われていました。アメリカでは、その検査会社がアメリカ中の検体を全部自分の会社で検査するシステムを作ろうとしているようです。問題は、価格なんです。

鎌田 高いんですか。

小島 1検体10万円でやろうとしているようです。名古屋大学の場合、1検体1万円でできるんです。

鎌田 名古屋大学は特許を取ってないんですか。

小島 これは特許ということではなく、論文があるんです。その論文に基づいてやれば、誰がやってもいいんです。

CAR-T細胞療法は白血病患者さんに朗報

鎌田 そうなんですか。しかし、1万円でできるものを、その会社が独占して10万円で世界に広めようというのは、不条理ですよね。

小島 今、医療の分野はそういう世界になっているんです。日本でも次世代シークエンサーを持っている大学は他にもありますから、活用すればいいんです。しかし、皆さん、あまりやっておられない。というのは、それが決して簡単なことではないからです。実際、やろうとしている大学がいくつかあるんですが、まだ成功していないようです。

鎌田 名古屋大学がやれたのは、その論文があったことと、小島先生のような方がおられたことと、工学系のバックアップもあったんですか。

小島 いや、小児科の中に、こういうことが非常に得意な男がいたということです(笑)。

鎌田 でも、これはすごいことですよね。これを活用していくほうが、世界の白血病の子どもたちの治療に貢献できますね。

小島 イラクからでも検体を送ってもらえば、検査はできます。

リカ ありがとうございます。イラクの白血病の子どもたちを救うことには、鎌田さんにもいろんな面から協力していただいていますが、小島先生のような最先端治療の分野に明るい先生に、イラクの子どもたちの治療に協力していただければ、心強いです。

小島 白血病患者さんが化学療法で助かればいいのですが、どうしても一部は再発してしまう。再発した場合は、化学療法によって白血病細胞を一時的に減らすことはできても、また出てきてしまい化学療法だけでは治すことができません。ただ、再発難治性急性リンパ性白血病に対する治療法としては、4年前に「キメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞(CAR-T)」療法という画期的な治療法が、アメリカで開発されています。白血病細胞だらけで、化学療法が効かなければ、芽球がどんどん増えて命取りになります。こういう状態で骨髄移植をしても、結局、再発してしまいます。アメリカでの話ですが、そういう状態だった女の子を、CAR-T細胞療法で治療したところ、女の子は寛解を得られて、4年後の現在もとても元気な状態が続いています。

鎌田 その療法は化学療法ではないんですね。

小島 免疫療法です。専門医からみて今まで推奨できる画期的な免疫療法はなかったんですが、これは本物です。

鎌田 これまで高価な免疫療法が行われてきましたが、結局、患者さんは助かっていない。

小島 今、世界中がこの治療法を推進し始めました。どういう療法か簡単に言えば、患者さんからリンパ球を採って、それに白血病細胞を認識する遺伝子を導入し、体外で増やした後に、患者さんに輸注すると、患者さんの体内の急性リンパ性白血病(ALL)細胞を死滅させることができる、というものです。

鎌田 リンパ球に白血病細胞を認識する遺伝子を導入するのは、難しくはないですか。

小島 リンパ球に導入する遺伝子の構造は、すでにアメリカで公開されており、私たちもそれを使っています。いずれにしても、この治療法ができたおかげで、これまで助からなかった白血病の患者さんが治るようになってきました。アメリカの4つの施設の実績を見ると、7~9割の患者さんで寛解が得られていますから、これは本物だと思います。

関連記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート12月 掲載記事更新!