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トランスレーショナルリサーチという言葉を知っていますか?
たなか ゆうじ
1970年生まれ。徳島大学卒業。東京大学、都立駒込病院を経て、米国デューク大学に留学。
現在は東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワーク部門客員助手。
2000年、患者会血液患者コミュニティ「ももの木」を設立し、定期的な交流会を続けている
みなさん、トランスレーショナルリサーチという言葉を聞いたことがありますでしょうか? トランスレーショナルリサーチとは、「橋渡し研究」と訳されます。何を橋渡しするかというと、研究と臨床の橋渡しです。新しい医療を開発していくために大切な分野といえます。
医学生が医学部を卒業した後、1人前の医師になるための道がいくつかあります。多くの新人医師は研修医として病院や診療所で働きますが、その途中で大学院に入る人もいます。
実は僕も大学院に行きました……。
大学院では、日々の診療とは違うことをします。僕自身は、免疫療法の研究をしていました。免疫力を高めることでがんをやっつける。簡単に書くとそうなります。
なぜ僕が大学院でがんに対する免疫療法を行おうと思ったか。やはりそれまでの医師として患者さんに関わっていた日々が関係しています。
血液内科の医師として主に白血病や悪性リンパ腫の治療を行っていましたが、その中でも骨髄移植という治療方法に僕自身はとても興味を持っていました。
骨髄移植は、とてもダイナミックな治療であり、しかも、医療者だけではなく患者さんや家族の方、ドナーの方など多くの方の協力を得て「がんを治す」治療です。多くの人の思いが集まる治療、そこにとても感動しました。
また、この骨髄移植は、抗がん剤の効果だけではなく、免疫力を利用した治療方法でした。それを知ったときに、医学者として免疫力による治療に強い関心を持ったのです。
僕の行っていた免疫療法は、僕だけではなく世界中の研究者が関心を持っています。そして、研究だけではなく患者さんに実践したり、その結果を学会などで発表し、お互いが情報交換しながら標準的な治療の確立に向けて頑張っています。このように、研究の成果を患者さんに応用し、標準的な治療方法を確立する、これがトランスレーショナルリサーチなのです。
僕は研究のやる気を、日々一緒に過ごしていた患者さんたちからもらいました。だからこそ、僕自身、患者さんの思いを大切にしたいと考えています。さらに、患者さんの思いを研究に生かし、次の新しい治療の開発に向けるのも大切だと感じています。
いつもは、僕が患者さんから教わったエピソードを書いていましたが、今回はちょっと視点を変えて自分のことを書きました。そして、新しい治療の開発にも患者さんの思いが大切だと知って欲しいと思っています。