赤星たみこの「がんの授業」

【第二時限目】がんの再発と転移Ⅰ 「再発」って何? 「転移」って何?

構成●吉田燿子
発行:2003年12月
更新:2019年7月

  

赤星たみこ(あかぼし・たみこ)●漫画家・エッセイスト

1957年、宮崎県日之影町(ひのかげちょう)のお生まれです。1979年、講談社の少女漫画誌『MiMi』で漫画家としてデビュー。以後、軽妙な作風で人気を博し、87年から『漫画アクション』で連載を始めた『恋はいつもアマンドピンク』は、映画化され、ドラマ化もされました。イラストレーターで人形作家の夫・新野啓一(しんの・けいいち)さんと、ご自身を題材にした夫婦ギャグをはじめ、あらゆるタイプの漫画で幅広い支持を得ていらっしゃいます。97年、39歳の時に「子宮頸がん」の手術を受けられ、子宮と卵巣を摘出されましたが、その体験を綴ったエッセイ『はいッ!ガンの赤星です』(『はいッ!ガンを治した赤星です』に改題)を上梓されました。

初発よりも、再発のショック

がんという病気を考えるとき、だれもが不安に思うのが再発のことではないでしょうか。

がん患者と家族の方たちの心のケアをしている精神科の先生から聞いた話ですが、患者さんと家族が一番ショックを受けるのは、「がんが最初に見つかったとき」ではなくて、「再発が初めて見つかったとき」だというのですね。

患者さんも家族も一丸となって治療に取り組み、やっとがんを乗り越えた、アアヨカッタとホッとしたところで、再発してしまう。治ったと思っていたのに、治っていないのか……という絶望的な気持ちが大きなストレスとなるのです。

私も6年前に子宮頸がんになったが、早期発見ができたことも幸いして、スッキリと完治しました。しかし、やはり一度がん患者になると、心のどこかに再発のことはうっすらと残っています。もし再発したら、ものすごいストレスになるでしょう。

そのストレスを払拭するためにも、がんに対する情報収集はいまだに続けています。怖がっているだけでは心の中の不安が膨らむだけだと思います。

では、がんの再発や転移はどのようにして起こるのでしょうか。今回はこのことについて考えてみたいと思います。

「再発」と「転移」のちがい

まず、「再発」と「転移」のちがいとは何か。

ふつう「再発」とは、手術で取りきれなかったがん細胞や、すでに他の臓器に転移していたがん細胞が、再び増殖して表に出てくることを言います。だから、一般には「転移」のケースも含めて「再発」と呼ぶわけです。

画像診断の場合、最低でもがん細胞が5ミリぐらいの大きさにならないと、肉眼ではなかなか見えないそうです。ところが、たった5ミリのがんの中にも1億個のがん細胞がひしめいている。それを考えると、1回の手術でがんを完全に取りきることのむずかしさが、おわかりいただけるかと思います。

再発のなかでも恐ろしいのが、がんが全身に広がる「転移」です。

転移は、がん細胞が元の場所を離れて、血管やリンパ管に入ることによって起こります。がん細胞は酵素の力で血管の壁を溶かして中に入り込み、血流に乗って移動し、他の臓器に付着する。こうした一連のプロセスをへて、転移が起こるわけです。

つまり、(1)元いた場所からはがれる、(2)血管やリンパ管に侵入する、(3)血液やリンパ液に乗って体内を移動する、(4)他の臓器にくっついて再び増殖する。この四つのハードルをクリアしないと、がんは転移できないのですね。そう思うと、がん細胞がいかに高い能力を持つかが、わかるような気がします。

一匹狼を気取りながら、強大な組織を作り暴走する

がん細胞のもうひとつの特徴は、「新生血管」を作るという点です。がん細胞ができると、新しい血管が生まれてがん細胞のほうに伸びてきます。このとき、がん細胞は血管から栄養を得ると同時に、血管に侵入して転移するのではないかといわれています。

新生血管ができるしくみは、まだよくわかってはいないようです。がん細胞が、ある種の物質を出して血管を誘引してくるとも、血管自体にがん細胞に向かって伸びる傾向があるとも言われています。

しかし、この新生血管をつぶせば、がん細胞に栄養が行かなくなり、血管に侵入して起こる転移も防げるのではないでしょうか。この点に着目して、アメリカでは近年、血管新生阻害剤という新しい抗がん剤の臨床研究が進んでいるそうです。

がん細胞は、自分が増殖するための物質を自分で出しながら、自分自身を刺激して成長していくんですね。漫画チックないい方をすると、みんなと協調できない不良みたいなやつ、とも言えるでしょうか。一匹狼として協調社会を飛び出します。そして、到着した場所では、今度は自分の仲間をどんどん増やして強大な組織を作り暴走するのです。はた迷惑ですよね。

転移しやすいがん、転移しにくいがん

ところで、すべてのがんが同じように転移するかというと、どうもそうではない。がんにも転移しやすい種類と転移しにくい種類があるらしいのです。

一般に転移しやすいといわれているのが、メラノーマ(悪性黒色腫)やすい臓がん、乳がんなど。反対に転移しにくいといわれているのが、子宮頸がんや甲状腺がんなどです。とくに、私が経験した子宮頸がんなどは、がんの中でも“優等生”。ステージが1a期ぐらいなら「転移の心配はするだけ無駄」と言ってしまっていいと思います。

ところが、“全身がん”と言われる乳がんなどは、やはり再発・転移の可能性が高いようです。私の姉は7年前に乳がんの手術を受けたのですが、その後、2回再発しました。

最初の手術では右の乳房を全摘したのですが、4年8カ月後に右腋の下にしこりが見つかった。それで手術と抗がん剤治療を受けて、もう大丈夫と思っていた矢先の11カ月後に、同じところに再々発したんです。

三度目の手術と抗がん剤治療が終わってから1年近くたちますが、今のところはまだ再発していません。いずれにせよ、がんも部位によって、再発や転移をしやすい場合があるのは事実のようです。

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