赤星たみこの「がんの授業」

【第三時限目】がんの再発と転移Ⅱ 再発・転移しても、可能性があるかぎり、あきらめない

構成●吉田燿子
発行:2004年1月
更新:2019年7月

  

赤星たみこ(あかぼし・たみこ)●漫画家・エッセイスト

1957年、宮崎県日之影町(ひのかげちょう)のお生まれです。1979年、講談社の少女漫画誌『MiMi』で漫画家としてデビュー。以後、軽妙な作風で人気を博し、87年から『漫画アクション』で連載を始めた『恋はいつもアマンドピンク』は、映画化され、ドラマ化もされました。イラストレーターで人形作家の夫・新野啓一(しんの・けいいち)さんと、ご自身を題材にした夫婦ギャグをはじめ、あらゆるタイプの漫画で幅広い支持を得ていらっしゃいます。97年、39歳の時に「子宮頸がん」の手術を受けられ、子宮と卵巣を摘出されましたが、その体験を綴ったエッセイ『はいッ!ガンの赤星です』(『はいッ!ガンを治した赤星です』に改題)を上梓されました。

がんの種類によって転移の「好み」がちがう

今回も前回に引き続き、がんの再発と転移について考えてみたいと思います。

がん細胞は、発生した場所の周囲の正常な細胞組織にしみ込んで浸潤し、同時に血液やリンパ液の流れに乗って体内に散らばります。こうして転移のプロセスが進んでいくわけです。

がんの中にも浸潤や転移しやすいタイプと浸潤や転移しにくいタイプがあることは、前回もお話ししました。浸潤しやすいがんの代表格が、スキルス性のがんです。これなどは、細胞が非常に動きやすい性質を持つため、がんが発見されたときにはすでに浸潤が起こっている場合が多いといわれます。

がんの転移とは、いつ起こるのでしょうか。たとえば胃がんの場合、がん細胞が5ミリから1センチの大きさになったときに転移や浸潤が起こることが多く、乳がんでは2センチになると30パーセントの確率で転移しているといわれます。このように、一口に「再発」や「転移」といっても、がんの種類や個々のケースによって千差万別、それぞれに個性があるのが実情です。

では、がん細胞が転移しやすい特定の場所というのはあるのでしょうか。

一般に胃がんや大腸がんは肝臓に転移しやすく、脳腫瘍は肺に、乳がんは肝臓や肺・骨に転移しやすいと言われています。このように、がんの種類によって、転移・接着する臓器に“好み”がある、というのはよく知られているところです。

その理由のひとつが、血流の方向と臓器の近さです。たとえば大腸から出ている血管は、肝臓の中にダイレクトにつながっています。大腸がんの場合、その血流にがん細胞が乗りやすいので、肝臓転移を起こしやすいのです。

がん細胞ははがれやすくくっつきやすい

最近はこの他にも、がんが転移するメカニズムについて多くのことがわかってきています。がん細胞は、遺伝子が突然変異を起こし、正常な細胞が「がん化」することによって生まれます。その結果、異常なまでの増殖力と、むやみやたらと動き回る性質を獲得してしまう。これががん化した細胞です。

「体内を自由に動き回る」――ここが、がん細胞の厄介なところですね。ふつうは、胃の細胞が肺のほうに勝手に移動したり、肺の細胞が肝臓に飛んでいったりするようなことはありえない。細胞が好き勝手に体内を動き回るようでは、そもそも臓器というものが成り立たなくなってしまいます。正常な細胞の場合、胃なら胃の細胞同士、肺なら肺の細胞同士が、互いに手をつないで結合する性質があり、だからこそ臓器が臓器として存在できるわけです。

しかし、この性質が、がん細胞ではなぜか弱まってしまう。がん細胞は元いた場所からはがれやすくなり、勝手に動き回る性質を獲得して、転移をしてしまうのです。

ところが、いったん元の場所からはがれたがん細胞は、体内の別の場所に移動すると臓器に接着し、そこで再び増殖を始めます。つまり、転移先の臓器に到着したとたん、今度は「くっつきやすい」という正反対の性質を発揮し始めるわけです。

元の組織からは「はがれやすい」のに、転移先の臓器には「くっつきやすい」。なぜそうなのかは、いまだによくわかっていません。いずれにしても、がん細胞が一筋縄ではいかない複雑なメカニズムを持つ存在であることが、おわかりいただけるかと思います。

民間療法の落とし穴

では、がんが再発・転移してしまった場合、患者さんはどのように病気と向きあえばいいのでしょうか。これは私自身の経験から言っても、大変重くてむずかしい問題をはらんでいるように思います。

再発がんに対して最善の治療を尽くすのは当然のことですが、時にはがんばりすぎて、無理な治療に苦しんでいる患者さんのケースも少なくないようです。最近では、近藤誠さんが『患者よ、がんと闘うな』、鎌田實さんが『がんばらない』という本を書いてベストセラーになるなど、こうした風潮に警鐘を鳴らす動きが広まってきています。

たしかにクォリティ・オブ・ライフの観点からすれば、末期がんに対して苦痛を長引かせるだけの治療を受けるよりも、静かにこの世に別れを告げる準備をするほうがいい。ところが、これをとりちがえて、適切な治療を続ければまだ治る見込みがあるのに、闘うことをやめてしまう人もいるそうです。そして、西洋医学に早々と見切りをつけると「民間療法」に向かい始める患者さんが多いと聞きます。

余談ですが、私が自分のがん体験を書いて出版したとき、「民間療法の体験談ですか?」と聞かれたことがあります。

「がんの本を書いた」というと、「霊芝やアガリクス、漢方薬なんかでがんを治した話だろう」、と思われるみたいなんですね。たしかに新聞や雑誌の広告では、こうした民間療法がさかんに喧伝されています。

こうした療法が実際にがんに効力を発揮するケースもあるようですが、実はここに大きな落とし穴があるのです。

これはあるお医者さんから聞いた話ですが、某病院で抗がん剤治療を受けていた患者さん3人が、相前後して次々に亡くなったそうです。

ところが、いずれの患者さんも末期状態ではなく、通常なら死に至るようなケースではない。

「これはおかしい」と思ってよく調べたら、アガリクスを服用している患者さんがいた。それも大量に飲んでいることがわかったのです。

実は、アガリクスのような民間療法の中には、抗がん剤と似たような働きをするものがあります。主治医の先生はその事実を知らないまま抗がん剤治療を行っていたので、アガリクスと抗がん剤が過剰な相乗効果を起こし、それが肝障害を招いて死につながったのではないかという話でした。

民間療法を試してみるのはいいけれど、その前に、必ず主治医の先生に相談してみてほしいのです。そうすれば、アガリクスの摂取分を考えて抗がん剤を加減することもできるのだそうです。

民間療法をやるときは患者さんが独断でやるのではなく、必ず、医師に相談してもらいたいと思います。

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