赤星たみこの「がんの授業」

【第五時限目】画像診断 ハイテク装置のCT、MRIも、がん検査の万能選手ではない

構成●吉田燿子
発行:2004年3月
更新:2019年7月

  

赤星たみこ(あかぼし・たみこ)●漫画家・エッセイスト

1957年、宮崎県日之影町(ひのかげちょう)のお生まれです。1979年、講談社の少女漫画誌『MiMi』で漫画家としてデビュー。以後、軽妙な作風で人気を博し、87年から『漫画アクション』で連載を始めた『恋はいつもアマンドピンク』は、映画化され、ドラマ化もされました。イラストレーターで人形作家の夫・新野啓一(しんの・けいいち)さんと、ご自身を題材にした夫婦ギャグをはじめ、あらゆるタイプの漫画で幅広い支持を得ていらっしゃいます。97年、39歳の時に「子宮頸がん」の手術を受けられ、子宮と卵巣を摘出されましたが、その体験を綴ったエッセイ『はいッ!ガンの赤星です』(『はいッ!ガンを治した赤星です』に改題)を上梓されました。

「時代の先端をいく検査の万能選手」は本当か?

がんを克服する鍵をにぎるのが「早期発見」であることは、これまでも繰り返しお話してきました。この早期発見を行う上で大きなポイントとなるのが、レントゲンや超音波、CT、MRIなどの画像診断です。今回はこの画像診断について、皆さんと一緒に勉強してみたいと思います。

初めに、がんの診断の流れをおさらいしてみましょう。

初期のがんを発見するには、自覚症状のないうちから検査をして、がんの芽をふるいにかけることが大変重要になります。このため、がんの集団検診で「がんの疑いあり」と判定された人や、痛みや症状を訴えて来院した人は、より詳しく調べるために精密検査を行うことになります。ここで登場するのが「画像診断」です。

画像診断とは、X線や超音波、磁気などの力を利用して体内を透視し、撮影した画像によってがん細胞を見分ける診断方法のこと。体を切ったり開いたりする必要もなく、外から体内の撮影をするだけでがんの診断ができるというのですから、患者さんにとってはアリガタイことこの上なし。子宮頸がんを経験した私にとっても、「画像診断」といえば「時代の先端をいく検査の万能選手(?)」といったイメージがあります。

ところが実際は、けっしてそうではないのですね。画像診断のハイテク化が進む現代にあっても、いまだに“決定版”となる画像診断法は確立されていません。さまざまな画像診断法が並存し、それぞれに一長一短あるのが実情なのです。

レントゲンの進化系ともいえるCTスキャン

では、画像診断の方法としては、現在どんなものがあるのでしょうか。そして、その技術はどこまで進んできているのでしょうか。

現在最も多く普及している画像診断法が、X線を利用する方法です。その最古参格ともいえるのが、1世紀にもわたる歴史を持つ「レントゲン」です。

数ある画像診断の中でもレントゲンは、もっとも安価で手軽に行える方法といっていいでしょう。レントゲン撮影は空気やバリウムなどの造影剤を注入して行われることが多く、腎臓や肝臓、すい臓、脳など、体の深いところにできた大きな腫瘍を発見するのに役立っています。

最近は乳がん検診などでも、従来の視触診に加えて乳房X線検査(マンモグラフィ)を併用する動きが出てきています。

このレントゲンの進化型ともいえるのがCTスキャン(コンピュータ断層撮影法)です。CT(Computed Tomography)スキャンとはその名の通り、コンピュータにより従来のX線検査の精度を大幅にアップした検査法のことで、スキャナーがめぐらされた検査台上の患者さんの体に向けて無数のX線ビームを照射し、これをもとにコンピュータが体内の画像を合成するというものです。検査は数分ですみますが、体の内部構造を1センチ刻みで輪切りにした鮮明な画像を得ることができます。ただ、筋肉や血管などは苦手のようです。

CTスキャンよりクリアな画像が得られるMRI

このCTスキャンとよく似た画像が得られるものに、MRI(Magnetic Resonance Imaging:核磁気共鳴断層撮影)があります。

MRIとCTの最大のちがいは、CTがX線を利用するのに対して、MRIでは磁力を利用するという点です。MRIでは、電磁石が生み出す磁場を利用して、体内の水素の分布状態を調べるのですが、がん細胞と正常細胞とでは含まれる水素の量や状態がずいぶんちがうため、CTスキャンよりもクリアな画像を得ることができます。このため、かなり小さな腫瘍でもハッキリと見分けることができるのです。私たちが身近に利用する画像診断法の中ではもっとも腕の立つ“スゴ腕捜査官”、それがMRIだといえます。

MRIのメリットはそれだけではありません。たとえば、CTスキャンは横方向の輪切りしかできないけれど、MRIなら縦や斜めの方角からの断層撮影もOK。また、MRIでは骨も透過することができるので、骨に囲まれた脳や脊髄、骨盤内部の様子まで撮影することができるのです。おまけにX線ではなく磁力を使うので体にも無害。もう言うことなし!……と思いきや、“頼れる男(?)”MRIにも弱点はあったのですね、これが。

最先端を行くMRIにもいくつかの弱点が……

まず、MRIは強力な磁力を体にかけるので、心臓ペースメーカーや金属片を体内に入れている人は利用することができません。さらに、MRIはカルシウムが付着した部分を見分けられないので、乳管に石灰化するタイプの乳がんは診断できないという弱点も。

しかも、最近ではMRIもかなり普及してきたとはいえ、まだまだ高価なのが玉にキズ。大きな病院に行かないとMRIの設備がない上に、撮影にも30分以上かかることもあり、大病院では検査待ちで1カ月ぐらい待たされることも珍しくありません。それと……あの音!

MRIの検査中に聞こえるドンドンガリガリという大音響には、初めて検査を受ける人はボーゼンとしてしまいますよね。大音響がコダマする中、狭いトンネル状の装置の中で長時間じっとしているのは、閉所恐怖症ならずとも落ち着かない気分。もっとも最近は、こうした問題を解決するために、音を小さくしたタイプや開放型のMRI装置なども開発されているようです。

あのすさまじい音は、検査に使われる電磁波の一種、ラジオ波によるものだとか。私も去年、脳ドックでMRIを受けたときは、「脳の検査というけど、これじゃあ逆に脳細胞が破壊されそう」なんて、ちょっと不安になったものです。

『がんに負けない41の簡単な方法』(マージー・レヴァイン著)という本の著者は、MRI検査を受けている間中、「今、天使がハンマーで私のがんの患部を削り取ってくれている!」とイメージしたそうです。

編集部注=MRIはあくまでも検査であり、治療ではないので、実際に患部に影響することはありません

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