赤星たみこの「がんの授業」

【第九時限目】抗がん剤治療Ⅱ 副作用のつらさはガマンしないで訴える。これが抗がん剤治療の秘訣

構成●吉田燿子
発行:2004年7月
更新:2019年7月

  

赤星たみこ(あかぼし・たみこ)●漫画家・エッセイスト

1957年、宮崎県日之影町(ひのかげちょう)のお生まれです。1979年、講談社の少女漫画誌『MiMi』で漫画家としてデビュー。以後、軽妙な作風で人気を博し、87年から『漫画アクション』で連載を始めた『恋はいつもアマンドピンク』は、映画化され、ドラマ化もされました。イラストレーターで人形作家の夫・新野啓一(しんの・けいいち)さんと、ご自身を題材にした夫婦ギャグをはじめ、あらゆるタイプの漫画で幅広い支持を得ていらっしゃいます。97年、39歳の時に「子宮頸がん」の手術を受けられ、子宮と卵巣を摘出されましたが、その体験を綴ったエッセイ『はいッ!ガンの赤星です』(『はいッ!ガンを治した赤星です』に改題)を上梓されました。

前回は、抗がん剤の基本について勉強しました。では、抗がん剤治療はどこまで進んでいるのでしょうか。今回はこのことについて、もう少し詳しく考えてみたいと思います。

今や、がん治療の輝ける星となった、抗がん剤。しかし、それが発見されたいきさつは、まさに「数奇」というほかはありません。

第一次世界大戦中、あるアメリカ兵が、ドイツで毒ガス兵器のマスタードガスを浴びてしまいます。この兵隊さん、実は悪性リンパ腫に冒されていたのですが、帰国後には病状が悪化するどころか、なんとよくなっていたのですね。そこで、「ひょっとすると、マスタードガスには抗がん作用があるのではないか」ということになり、抗がん剤の研究が本格的にスタートしたのです。抗がん剤の生みの親は、なんと毒ガス兵器だった。

それを考えれば、抗がん剤=「劇薬」というのも、うなずける話です。上手に使えば、がんに対してめざましい効果を発揮するけれど、うっかり使い方をまちがえれば、「薬」どころか「毒」になってしまう。そこに、抗がん剤治療のむずかしさがあります。しかし、むずかしいから使わないのではなく、正しい情報を得た上で、うまく使いこなしましょう。うまく使いこなせば、抗がん剤はそれだけの価値があるものなのです。

作用の異なる抗がん剤各種

ここで、抗がん剤の種類をおさらいしておきましょう。

現在、世界には約70種類の抗がん剤があります。このうち、医療の現場で日常的に使われているのは、30~40種類ぐらい。一般に抗がん剤は、作用のしかたなどによって、次のように分類されています。

まず、抗がん剤の中でも最も歴史が古いのが「アルキル化剤」です。マスタードガスを元に作られた「ナイトロジェン・マスタード」などはこのタイプ。アルキル化剤には、がん細胞の遺伝情報を持つDNAの合成を妨げたり、DNAやRNAに損傷を与えたりして、がん細胞を弱らせる効果があり、まさにがんを攻撃する兵士のようなものです。

一方、がん細胞を誘惑してだまし討ちにするのが、「代謝拮抗剤」です。がん細胞がDNAを作るためには材料分子が必要なのですが、この材料分子に似た“替え玉”のようなものが拮抗剤。がん細胞がうっかりまちがえてこの薬剤を取り込んだが最後、ここぞとばかり、DNAの合成を邪魔してやっつけてしまいます。抗いがたい魅力でがん細胞を虜にし、すっかり油断させたところでトドメを刺す。いわば、“華麗なる女諜報部員”といった役どころでしょうか。

その他の抗がん剤としては、がん細胞のDNAの二重螺旋と結合して、DNAやRNAの合成を邪魔する「抗がん性抗生物質」や、植物の毒性を利用してがん細胞の中の微小管の働きを妨げ、細胞分裂を抑えてがん細胞を殺すタキサン系などの「植物アルカロイド」があります。

また、性ホルモンとの関わりが深い生殖器系のがんでは、性ホルモンの働きを妨害してがん細胞の増殖を防ぐ「ホルモン剤(または抗ホルモン剤)」も使われています。

「インターフェロン」は、白血球やリンパ球など免疫に関与している細胞から作られる物質をもとに開発された薬剤です。がん細胞の増殖を抑えるのを助けたり、免疫反応を間接的に引き起こしてくれます。がん細胞を直接攻撃するというより、他の細胞を激励していくので、応援団長とか、チアリーダーのようなものかもしれません。

この他に、最近注目されている抗がん剤としては、「分子標的薬」があります。この薬剤は、がん細胞に特有のタンパク質分子をターゲットにして、ピンポイント攻撃を加えるのが特徴です。ゆえに、正常な細胞には影響をあまり及ぼさず、副作用も軽くてすむというスグレモノ。代表的なものに、乳がんに効く「ハーセプチン」や、慢性骨髄性白血病に効く「グリベック」などがあります。ハーセプチンは、がん細胞を攻撃する抗体を人工的に大量生産する「抗体製剤」で、遺伝子工学の発達で可能になりました。

また、がんが成長するために新生血管を作るのを妨げる「血管新生阻害剤」は、がんとの闘いに新たな光を当てる画期的な抗がん剤として期待されています。

新しい抗がん剤が開発されれば、それだけ患者さん1人ひとりにとっての選択肢も広がります。だからこそ、いままさに抗がん剤治療に取り組んでいる患者さんには、ぜひ希望をもっていただきたいものです。

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