赤星たみこの「がんの授業」

【第十二時限目】放射線治療Ⅱ 進化を続ける放射線治療は有力な治療選択肢の一つ

監修●山下浩介 神奈川県立がんセンター放射線治療科医師
構成●吉田燿子
発行:2004年10月
更新:2019年7月

  

赤星たみこ(あかぼし・たみこ)●漫画家・エッセイスト

1957年、宮崎県日之影町(ひのかげちょう)のお生まれです。1979年、講談社の少女漫画誌『MiMi』で漫画家としてデビュー。以後、軽妙な作風で人気を博し、87年から『漫画アクション』で連載を始めた『恋はいつもアマンドピンク』は、映画化され、ドラマ化もされました。イラストレーターで人形作家の夫・新野啓一(しんの・けいいち)さんと、ご自身を題材にした夫婦ギャグをはじめ、あらゆるタイプの漫画で幅広い支持を得ていらっしゃいます。97年、39歳の時に「子宮頸がん」の手術を受けられ、子宮と卵巣を摘出されましたが、その体験を綴ったエッセイ『はいッ!ガンの赤星です』(『はいッ!ガンを治した赤星です』に改題)を上梓されました。

精密な治療計画が放射線治療の鍵

今回も前回に続いて放射線治療について学んでいきましょう。

放射線治療はめざましく進歩し、治療成績もどんどん上がっています。しかも手術とちがって体の形や機能を損なうことがなく、排尿障害やリンパ浮腫などの後遺症も起こらない。さらに抗がん剤と比べると副作用も少ない――とくれば、こんなに優れた治療法を利用しない手はありません!

放射線治療を受けた患者さんの中には「放射線治療は怖いと思っていたけど、思い切って受けてみてよかった! 治療が終わった今は、とても快適に過ごしています」。

このような感想を持つ人が確実に増えています。

しかし、放射線治療に対する一番の不安は、放射線による正常細胞や他の正常な臓器へのダメージだと思います。

今では、どの臓器がどのぐらいの放射線に耐えられるのか(耐用線量)、正常細胞へのダメージを減らすにはどうすればいいのかが、かなりの程度までわかってきています。

放射線治療の理想は、「体への負担は最小限にとどめ、がん細胞だけを効果的にやっつける」こと。

これを実現するために重要なのが「治療計画」です。最近は、「放射線治療計画装置」と呼ばれる専用コンピュータも登場し、高度な計算にもとづいて、精密な治療計画を作ることができるようになりました。

放射線治療というのは、科学の恩恵をもっとも受けている医療分野かもしれませんね。コンピュータや応用物理学と医学の世界が手をたずさえて、総力戦で私たち患者の治療に当たってくれているのです!

次に、放射線治療のやり方を見ていきましょう。

放射線を照射する前に、まず、CTやMRIでがんの位置を確認し、コンピュータ解析でがんの大きさや形を特定します。それにあわせて金属製の遮蔽物を作り、その上から照射するのです。こうすれば、がん細胞の周囲に放射線が当たらない。そんな工夫をしながら、慎重に照射していくのです。

放射線治療のほとんどは、体の外から体内の病巣へ放射線を当てます。これを「外部照射」と言います。このとき、治療に必要な放射線をいっぺんに当てるのではなく、何回かにわけて1回あたりの放射線量を少なくして照射するのが普通です。

どうしてそんなことをする必要があるのでしょうか。それは、「放射線による体へのダメージを最小限に食い止めて、がん細胞だけをやっつけるため」なんです。

前回もふれましたが、がん細胞というヤツは、意外にひ弱なところがあるんですね。

正常細胞なら少しぐらい放射線を当てても、翌日には平気な顔でピンピンしている。なのに、がん細胞はなかなか回復しない。この弱みにつけこんで、少量の放射線を何度も照射する方法が考え出されたのです。がん細胞と正常細胞の回復力の差を利用して、がんが弱っているうちに叩いてしまえ、というわけです。

副作用が軽く、治療のコントロールもしやすい

放射線治療のメリットとして、よく「副作用が軽い」ということが言われます。

これは抗がん剤がどうしてもがん細胞以外の細胞にも作用してしまう可能性が高いのに比べて、放射線治療はがん細胞だけに照射するという治療特質によるものでしょう。

とはいうものの、もちろん全く副作用がないというわけではありません。

照射後にすぐに表れる急性の副作用としては、むかつきや嘔吐、脱毛、皮膚の炎症、口内炎などがあります。

また、がん細胞の周りに、放射線に弱い臓器がある場合も要注意です。たとえば腹部に放射線を照射すると、胃潰瘍や膀胱炎、直腸炎などを併発して苦しむケースも珍しくないのです。

これ以外にも、治療後かなり経ってから表れる晩期障害があります。口の中が乾いてものがうまくかめない、肺活量が減って肺腺症を起こすなど。

しかし、副作用にばかり目をむけておびえてはもったいない! 放射線治療には、もう一つ大きなメリットがあるのですから。

それは、「患者さんの状態をみて治療をコントロールしやすい」ということ。

抗がん剤の場合は、一度体内に入れると、自然に代謝されるまでは、どんなに苦しくても排出することができない。その点、放射線なら、患者さんが副作用で辛そうにしていれば、照射量を少なくすることもできる。

つまり、患者さんの様子をチェックしながら、「治療に手心を加えることができる」というわけです。だからこそ、放射線治療は体力のない人や高齢者でも受けることができるのです。

「治療がきちんと正しくコントロールされてさえいれば、放射線治療は意外と体に優しい!」

このことは、声を大にして言いたいところです。

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