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【第二十一時限目 がんの組織分類】扁平上皮がんと腺がんは何が違うの?

監修:吉田和彦 東京慈恵会医科大学附属青戸病院副院長
(2005年7月)


「扁平上皮」というのは、体の表面を覆っている平たい形をした細胞組織です。「扁平上皮がん」は発生した細胞の性質を受け継いで形も性格もよく似ているので、こう呼ばれます。主に皮膚や器官の粘膜の表面にできます。口や喉の内部、食道の内側、子宮頸部(入り口の部分)、腟、肺などです。

これに対して、「腺」というのは内臓の分泌物を出す腺組織のこと。「腺がん」はその腺組織にできます。そして、その形がプクプクと丸く、唾液腺や胃腺、乳腺のような、発生した臓器の分泌腺の組織とよく似ているものが「腺がん」です。胃や腸、子宮体部、肺、乳房、卵巣、前立腺、肝臓、すい臓、胆のうなどに発生します。

「扁平上皮がん」か「腺がん」かを判断する基準は、がん細胞を顕微鏡で見たときにどんな形をしているのか、体の細胞で言えばどれに似ているのか、なのです。

「なんだ、扁平上皮がんと腺がんは、がん細胞の形が違うだけか」なんて簡単に考える人もいると思いますが、実はこの2つ、性質も進行のしかたもちがうのです。私が子宮頸がんで入院しているとき、こんなことがありました。患者さんの集まるラウンジで、1人の患者さんが暗い調子で嘆いていました。

「私は子宮がんでねぇ……」

「あら、私も子宮がんなんですよ。子宮がんはがんの優等生ですってね、治癒率高いですし」と、私。

「あなたのは扁平上皮がんでしょ! 私のは腺がんですからね!」

「……」

さて、この会話は何を意味しているでしょうか。

私の場合は子宮頸がんで、確かに扁平上皮がんでした。そしてこの方は腺がんということで、おそらく子宮体がんでしょう。同じ子宮がんでも、腺がんは子宮体部に発生し、扁平上皮がんは子宮頸部に発生することが多いのです。

この患者さんはとても知識があったのだなぁ、と今になってわかります。そして、知識があるがゆえに、腺がんのほうがやや治りにくいということもご存知だったのでしょう。でも、なぜ治り方が違うのでしょうか?

腺がんより扁平上皮がんのほうが治りやすい?

同じ臓器のがんでも、細胞組織のどの部分ががん化するかによって、がんの性質がちがってきます。扁平上皮がんや腺がんは、形が違うというわかりやすい見分け方がありますが、ちゃんと言うと、これは「組織型」の違いによる分類法なのです。

がんを生み出す細胞組織の種類、つまり「組織型」によって、進行のしかたもちがえば、抗がん剤や放射線治療の効き方もちがってくるわけです。ですから、同じ臓器のがんでもがんの組織型によって治療法も変わってくるのです。

たとえば放射線治療に関しては、一般に扁平上皮がんには効きやすく、腺がんには効きにくいと言われています。それは、この2つのがんは進行スピードが違うからです。

扁平上皮がんは割に浸潤や転移がゆっくりと進むのに対して、腺がんはがん細胞が血流に乗って広がりやすく、浸潤や転移が進みやすい。扁平上皮がんが内気でのんびりした“おっとりタイプ”だとすれば、腺がんは外交的ですばしこい“てきぱきタイプ”。だから、ちょっと目を放した隙に、体中に悪い仲間をどんどん増やしてしまう危険がある。こうした性格のちがいが、がんの治りやすさにも影響しているのです。

しかし、ひと口に扁平上皮がんや腺がんといっても、その性質は臓器によってさまざまです。また組織型の種類だけとってみても、臓器によって本当に千差万別。私が病院で出会った患者さんのように、「私は腺がんだから治りにくい」と、すぐあきらめるのは早計です。今は研究が進んで、いい薬もたくさん出てきているのですから。

同じ臓器がんでもできる組織により異なる

ここで問題。胃がんは扁平上皮がんでしょうか、それとも腺がんでしょうか?

「胃液を分泌する胃にできるんだから、当然、腺がんでしょ?」

正解です。胃がんのほとんどは腺がんです。でも、まれに扁平上皮がんや、腺がんと扁平上皮がんの混合型である腺扁平上皮がんなどが食道の近くにできることもあります。また胃がんのほとんどは腺がんですが、さらに乳頭腺がんや管状腺がん、印環細胞がんなど細かく分類されます。

では、肺がんの場合はどうでしょうか。

肺がんは、まず小細胞肺がんと非小細胞肺がんの2つに分類されます。後者はさらに扁平上皮がん、腺がん、大細胞がんの3つの組織型に分類されます。

この小細胞がんと大細胞がんが扁平上皮がんや腺がんとちがうのは、「体の正常な組織のどれにも似ていない」というところ。それだけがん細胞が未分化な状態にあるので、顕微鏡で見ても「誰の子かワカラナイ」。誰にも似ていないので、どこの親から生まれたのか認知できない……それが小細胞がんと大細胞がんの特徴なのです。

この“誰にも似てない2兄弟”のうち、比較的細胞が小さいのが小細胞がんです。しかしコイツは小粒ながら相当のワル。悪性度が高く、あっという間に増殖し、脳やリンパ節、肝臓、副腎、骨などに転移してしまいます。しかしよくしたもので、反面、シスプラチンなどの抗がん剤が効きやすい。抗がん剤は増殖の速い細胞を狙い撃ちしますから、小細胞がんは格好の標的になるというわけですね。

個性のハッキリした小細胞がんに比べると、茫洋としてよく正体がつかめないのが、大細胞がん。「誰にも似てなくて、細胞が大きめのがん」であること以外、これと言った特徴がありません。しかし、症状が出にくい割に増殖が速いという底意地の悪いヤツなので、肺がんと診断されたときには、がんが大きくなっていることも多いとか。油断できない相手であることだけはたしかなようです。

組織型別の発生率を見ると、肺がんでは扁平上皮がんと腺がんの発生比率がそれぞれ40パーセントと最も多く、小細胞がんが15パーセント、大細胞がんが5パーセントとなります。

男女別に見ると、肺がんの扁平上皮がんは男性に多く、腺がんは女性に多いという傾向があります。

主に肺の入り口付近にできる扁平上皮がんの場合、タバコとの関係が非常に深いと言われています。タバコの煙が気管支を通って肺の入り口の上皮を傷つけ、がん化をうながしてしまうわけですから、喫煙率の高い男性のほうが扁平上皮がんが多くなる、ということらしいのです。そんな話を聞くと、以前ヘビースモーカーだった私は背筋が凍る思いです。しかし、この扁平上皮がんは放射線治療がよく効くので、比較的治りやすいがんとされています。

一方、女性や非喫煙者の多くにできるのが、肺の奥のほうにできる腺がん。こちらは従来、「抗がん剤が効きにくいがん」と言われていました。ところが近年、分子標的薬イレッサ(一般名ゲフィチニブ)が、東洋系女性の腺がんの患者さんに効力を発揮するという学説が発表され、注目を集めています。これが本当だとすると、従来は「治りにくいがん」と言われてきた肺の腺がんが、もしかすると「治りやすいがん」になるかもしれない。このことは、がんの組織型と治療法を考える上で、貴重な示唆を与えてくれます。


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