赤星たみこの「がんの授業」

【第二十三時限目】内視鏡手術 飛びつく前に見極めよう、内視鏡手術の光と影

監修●吉田和彦 東京慈恵会医科大学附属青戸病院副院長
構成●吉田燿子
発行:2005年9月
更新:2019年7月

  

赤星たみこ(あかぼし・たみこ)●漫画家・エッセイスト

1957年、宮崎県日之影町(ひのかげちょう)のお生まれです。1979年、講談社の少女漫画誌『MiMi』で漫画家としてデビュー。以後、軽妙な作風で人気を博し、87年から『漫画アクション』で連載を始めた『恋はいつもアマンドピンク』は、映画化され、ドラマ化もされました。イラストレーターで人形作家の夫・新野啓一(しんの・けいいち)さんと、ご自身を題材にした夫婦ギャグをはじめ、あらゆるタイプの漫画で幅広い支持を得ていらっしゃいます。97年、39歳の時に「子宮頸がん」の手術を受けられ、子宮と卵巣を摘出されましたが、その体験を綴ったエッセイ『はいッ!ガンの赤星です』(『はいッ!ガンを治した赤星です』に改題)を上梓されました。

迫真の映像に感激

最近、「腹腔鏡手術」や「胸腔鏡手術」という言葉を耳にすることが多くなりました。

お腹に数カ所の穴を開け、先端にカメラやハサミのついた長い器具を挿入。お腹の中の様子をモニター画面に映し出し、その映像を見ながら手術をする。これが、腹腔鏡手術と言われるものです。

この方法は、お腹を20センチ以上も切る開腹手術と比べると、傷が小さいので体への負担がかなり少ないのだとか。手術後の痛みも少ないし、回復も早いとなれば、できることなら腹腔鏡手術をやってほしい!……そう思うのが人情というものです。

以前にもお話ししましたが、私も知人にチョコレート膿腫の腹腔鏡手術のビデオ映像を見せてもらったことがあります。ライトで煌々と照らされたお腹の中で、電気メスからは煙がシュシュシュッ、ノズルからは洗浄用の生理食塩水がシュワーッ……NHKの医療ドキュメンタリーのような迫真の映像を目の当たりにして、「今はなんてすごい時代なんだろう」と感激したのを覚えています。

ところが、新しい技術にはリスクがつきもの。中には執刀医の経験不足などさまざまな理由から、医療事故につながったケースもあるとか。

そこで、今回は腹腔鏡手術について学びたいと思います。

内視鏡手術と内視鏡治療の違い

腹腔鏡手術とは、腹部に「腹腔鏡」と言われるカメラ(CCD)を挿入して行う手術のことです。同じように、胸部にカメラを入れて行う手術のことを胸腔鏡手術といい、この2つをまとめて「内視鏡手術」と総称しています。

「あー、内視鏡手術ってアレでしょ。胃カメラを飲んだついでに、粘膜の表面のポリープにワイヤーをかけて焼きとったりするやつ」

んー、チョットちがいますね。それは「内視鏡的処置」とか「内視鏡治療」とか言われるもの。内視鏡手術とちがって腹部にまったく穴を開けずに行う治療なので、同じ内視鏡を使うといっても、手術のやり方がまったくちがうのです。ま、たしかにまぎらわしいですよね。

腹腔鏡手術では、腹部に小さな穴を3~5箇所開け、カメラや鉗子類などの処置具を入れて、モニター映像を見ながら手術を進めます。このとき、十分な視野をとるために気腹装置というのを使います。

せっかく内蔵の中にカメラを入れても、ペシャンコのままでは内部がどうなっているのかサッパリわからない。そこで手術の間中、お腹の中に炭酸ガスを入れて「東京ドーム」のように膨らませておくのです。ちなみに腹腔鏡手術は全身麻酔で行われるのが普通です。

最も多い腹腔鏡手術は大腸がん

ここで、腹腔鏡手術の歴史について簡単におさらいしておきましょう。

腹腔鏡手術が初めて行われたのは20世紀前半のこと。当時すでにヨーロッパでは、産婦人科で卵管をしばるなどの簡単な腹腔鏡手術が行われていたんですね。その後、1987年にフランスの医師フィリップ・ムーレが腹腔鏡による世界初の胆嚢摘出手術を行ったのを機に、腹腔鏡手術は世界中に普及していくことになります。

90年代には手術器具やビデオ装置の進歩もあって、腹腔鏡手術は大いに発展。これを応用して、胸の中にカメラを入れて手術をする胸腔鏡手術も行われるようになりました。

こうして内視鏡を使った手術法はめざましく進歩し、がんの摘出手術も含めて、かなり複雑な治療ができるようになったのです。

現在、腹腔鏡手術が最もよく行われるのが大腸がんです。また早期の子宮がんでも腹腔鏡手術はよく行われています。胃がんの腹腔鏡手術も医師によっては熱心に取り組んでいますが、一般に胃がんのD2郭清(第2群リンパ節までの郭清)は腹腔鏡下では難しいといわれているそうです。また肺がんや食道がんなどの治療では、胸腔鏡手術がよく行われます。

内視鏡手術のメリット

では、内視鏡手術には、開腹手術と比べてどのようなメリットがあるのでしょうか。

最大のメリットは、なんといってもそのQOLの高さです。お腹の健常な組織を20~30センチも切って行う開腹手術と比べると、内視鏡手術では傷口のサイズはわずか5~10ミリ。傷口が小さいので手術後の痛みも少なく、治りも早くなります。このため開腹手術をした場合よりも、早く退院して社会復帰できるという利点があるのです。

手術後の癒着や腸閉塞などの合併症も出にくくなるし、手術の跡が目立たないのでビキニの水着だって着られるかも(?)となれば、「もう内視鏡手術しかない!」という気持ちにもなろうというもの。

でも……早計は禁物です。内視鏡手術もいいことづくめではないのです。

たとえば開腹手術では、執刀医は肉眼で患部を確認することができます。ところが内視鏡手術では、医師はモニター映像を見ながら、テレビゲームの感覚で特殊な手術器具を器用に使いこなさなければなりません。なにしろ3次元の体の内部を2次元の映像で確認するわけですから、奥行きの感覚だってつかみづらい。

それに、自分の手の感触を頼りにできる開腹手術とちがって、内視鏡手術では長い手術器具を通して「感じ」なければならない。とにかく諸事万端にわたってコツがいる。「習うより慣れろ」の世界なのですね。

しかも、内視鏡手術ががんの治療に使われだしたのは、ごく最近のこと。つまり初期の内視鏡手術には、がんの治療を行う上でいくつかの問題点があったのです。

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