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赤星たみこの「がんの授業」
【第二十四時限目】PET検査 今話題のPET検査のメリット・デメリット
赤星たみこ(あかぼし・たみこ)●漫画家・エッセイスト
1957年、宮崎県日之影町(ひのかげちょう)のお生まれです。1979年、講談社の少女漫画誌『MiMi』で漫画家としてデビュー。以後、軽妙な作風で人気を博し、87年から『漫画アクション』で連載を始めた『恋はいつもアマンドピンク』は、映画化され、ドラマ化もされました。イラストレーターで人形作家の夫・新野啓一(しんの・けいいち)さんと、ご自身を題材にした夫婦ギャグをはじめ、あらゆるタイプの漫画で幅広い支持を得ていらっしゃいます。97年、39歳の時に「子宮頸がん」の手術を受けられ、子宮と卵巣を摘出されましたが、その体験を綴ったエッセイ『はいッ!ガンの赤星です』(『はいッ!ガンを治した赤星です』に改題)を上梓されました。
「形」による診断、「働き」による診断
最近、リゾート地でのPET検査ツアーが秘かなブームになっています。PETとはご存知のとおり、がんの画像診断法のひとつ。1度の検査で全身のがんをチェックできるとあって、世間の注目を集めています。
ところが、実際にPET検査が受けられる医療機関は全国でも限られている。どうせ遠方に行くなら、ついでに観光も楽しんじゃえ! というわけで、PETツアーが春爛漫の花盛り。
そこでインターネットで検索してみたら……あるある。「沖縄でPETがん検診」「PET検診ツアー北海道・帯広3日間」「ソウルがんPET検診」……優雅にリゾート気分を満喫しながらPETでがんを総点検。これなら私も行ってみたーい! と、ついついテンションが上がってしまいます。
では、今注目のPET検査とはどんなものなのでしょうか? 今回はPETについて学んでみたいと思います。
「PET」とはPositron Emission Tomographyの略で、別名「ポジトロン(陽電子)放出断層撮影法」ともいいます。PETは、広く撮影方法を示す用語ですが、用いる検査薬によって様々な病気の診断ができます。現在は「FDG」と言われる検査薬を用いる方法が広く行われています。これは、がん細胞がブドウ糖を大食いする性質を逆手にとった検査法なのです。
PET検査のプロセスはちょっと複雑です。まず(1)サイクロトロンという装置で、プラスの電気を帯びた陽電子を放出する放射性物質F-18を作ります。次に、(2)F-18をブドウ糖(によく似た化合物)と結びつけ、検査薬FDGを合成します。(3)このFDGを患者の体内に静脈注射すると、FDGは体内の細胞に取り込まれて陽電子を放出し、周囲の電子と結合してガンマ線を出します。(4)このガンマ線をPETのカメラで撮影し、コンピュータで画像化する。これがPET検査の手順です。
では、こうして撮影した画像から何がわかるのでしょうか。
CTやMRIなどの画像診断法では、がんの有無を「形」によって診断します。これに対してPETでは「細胞の働き」からがんの有無を診断する。ここが、他の画像診断法との大きなちがいです。
PETの画像では、ブドウ糖の代謝が活発なところが鮮明に見分けられます。多くのがん細胞は正常細胞の3~8倍もブドウ糖を消費するので、FDGが多く集まり、多量のガンマ線が放出される。その結果、体内のどこにがん細胞が巣くっているかが一目瞭然でわかるのです。
食い意地のはったがん細胞がブドウ糖をガツガツかっ込んでいるところを現行犯逮捕。ま、がん細胞もバカ食いでつかまるなんて、自業自得。がんのそういう意地汚い性質を利用する人類の知恵って、素晴らしい!
欧米で普及する“PET, First!”
さて、他の画像診断法と比べた場合のPET検査のメリットとは何か。それは何といっても、「たった1度の検査で全身のがんを一網打尽にできる」という点につきるでしょう。
通常、MRIやCTでは、がんの疑いがある体の一部のみを撮影します。部分的に非常に鮮明な画像が得られるという点ではいいのですが、撮影しなかった箇所にがんがあっても見つけ出すことはできない。たとえば肺のCT検査でどんなに鮮明な肺の画像が得られたとしても、脳に転移があるかどうかはわからない。その点、PETなら「どこにがんがあるかわからない」ときでも、たった1度の検査で全身からがん病巣を見つけ出すことができる。これがPETの最大のメリットです。
ムム、これってかなりオイシイ。「今、がんがあるかどうかわからないけど、念のため全身を点検したいわ」という人には本当に便利ですよね。なんでも欧米では“PET, First!”といって、がんの診断の最初にPET検査をすることが推奨されているとか。
とはいうものの、PETもいいことづくめではありません。PETのデメリットのひとつに、画像がややピンボケ気味であることが挙げられます。
このため、PETでは初期のがんや、直径1センチより小さいがんを見つけるのはむずかしいこともあります。CTやMRIと比べると場所を正確に特定しにくい、という弱点もあります。
それから、進行速度が遅いがんもPETではわかりにくい。がん細胞の元気がない分、病巣へのFDGの集まり方にも勢いがないためです。逆に、進行が速く活発な悪性のがんほどPETでは見つけやすいんですね。だから、チビッこいくせにやたらキラキラ輝いているがんは、要注意。放っておくとどんどん広がる可能性があるので、早めに積極的に精密検査をしてがんかどうか診断を確定し治療をしたほうがよさそうです。
また、PETはすべてのがんに対して万能というわけではありません。PETが苦手とするがんには、膀胱がんや腎臓がん、前立腺がん、肝臓がん、尿管がん、胃がん、白血病などがあります。いずれにせよ、がんの種類によってはPET検査の有用性が低い場合もあるので、検査を受けるときには医師とよく相談したほうがよさそうです。
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