赤星たみこの「がんの授業」

【第二十五時限目】病理診断 「がん」の診断を確定するために不可欠な組織診「生検」

監修●吉田和彦 東京慈恵会医科大学附属青戸病院副院長/外科診療部長
構成●吉田燿子
発行:2005年12月
更新:2019年7月

  

赤星たみこ(あかぼし・たみこ)●漫画家・エッセイスト

1957年、宮崎県日之影町(ひのかげちょう)のお生まれです。1979年、講談社の少女漫画誌『MiMi』で漫画家としてデビュー。以後、軽妙な作風で人気を博し、87年から『漫画アクション』で連載を始めた『恋はいつもアマンドピンク』は、映画化され、ドラマ化もされました。イラストレーターで人形作家の夫・新野啓一(しんの・けいいち)さんと、ご自身を題材にした夫婦ギャグをはじめ、あらゆるタイプの漫画で幅広い支持を得ていらっしゃいます。97年、39歳の時に「子宮頸がん」の手術を受けられ、子宮と卵巣を摘出されましたが、その体験を綴ったエッセイ『はいッ!ガンの赤星です』(『はいッ!ガンを治した赤星です』に改題)を上梓されました。

先日、知人が肺がんの手術を受けたときのことです。がんの確定診断をつける目的で肺の生検を受けたのですが、これが痛かったのなんの。「もう、ここで死んでもいいから、やめてくれ!!」と、思わず心の中で絶叫してしまったそうです。

生検といえば、がんかどうかを確定するために組織の一部をとって行う病理検査のこと。でも、何の目的でどのようにやるのかと聞かれると、私自身、よくわかってないんですね。

「でも赤星さんだって、子宮頸がんの手術をしたときに生検は受けたんじゃないですか?」

ウーン、それそれ。生検と細胞診の違いがよくわからないんです。

私の場合、がんが発見されたのは、子宮頸部にポリープが発見されたのがきっかけでした。ポリープを内視鏡で切除したときに、患部の周囲の細胞を綿棒でこすりとって病理検査に回したところ、異常細胞が出てがんが発覚したのです。このとき受けた検査が「細胞診」。

じゃあ生検はいつやったのかというと……たしかその後に「精密検査を受けてくれ」と言われてやった検査があって、すごくイターイ思いをしたんですよね。その痛さたるや、今思い出してもいやーな気持ちになるような激痛でした。思えば、あれが生検だったんでしょうね。

あのとき「精密検査」としか聞いていなかったと思います。「生検」という言葉が使われたかどうか記憶がありません。でも、自分がどんな検査を受けるのかを知っておくのは、がんと付き合う上でとても大切なこと。そこで、今回は病理検査、病理診断について勉強してみたいと思います。

がんは見かけで判断する

病理検査は、がんの診断を確定するために行うものです。

がんの検査は、ふつう、患者がなるべく負担を感じないような方法で始められます。最初は医師の視触診や聴診から始まり、次に超音波検査やCT、MRIなどの画像検査、内視鏡検査などに進みます。検査費用もなるべく安価で、患者が苦しい思いをしなくてもすむような検査から徐々に進めていくわけです。

しかし最終的には、がんかどうかをハッキリ見きわめなくてはならない。それを見きわめて、がんの診断を確定するための方法が、病理検査なのです。

病理検査には、大きく分けて「細胞診」と「組織診(生検)」の2つがあります。

「細胞診」とは、細胞の1つひとつを顕微鏡で調べて、がんかどうかを調べる検査です。というのも、がん細胞というやつは正常な細胞とちがって、実に凶悪な顔つきをしているのですね。たとえば細胞の形がいびつだったり、細胞の中の核がやけに大きかったり、核小体が多かったり、細胞質に比べて核の比率が異様に高かったり……。

つまり、採取した細胞の顔つきが、指名手配中のがん細胞に似ていればクロ、全然似ていなくて整った顔立ちをしていればシロ。「がんは見かけで判断すべし!」の精神でビシバシ診断を下すのが「細胞診」なのです。細胞診のために検体を採る方法は、いろいろあります。尿や乳汁、胸水や腹水、胆汁、肺の喀痰などから採ることもあれば、子宮頸部の粘膜表面をこすって細胞を採ることもあります。また乳がんや甲状腺がんなどの疑いがあれば、針を刺して患部から細胞を吸い出すこともあります(穿刺吸引細胞診)。

さて、首尾よく細胞が採取できたら、ここからが本番。細胞診では検査結果に応じ、5段階の「クラス」で悪性度を診断しています。

一般にクラス1と2は「正常」、クラス3は「要経過観察」、クラス4と5は「悪性」とされています。ここでよく混同されるのが「クラス」と「ステージ」。「クラス」とはあくまで「がんであるかどうか」の目安であって、がんの進行度を表す「ステージ」とはちがいます。ヘタに勘ちがいして取り越し苦労しないよう、注意したいものですね。

では、細胞診にはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。

細胞診のいいところは、検査の方法が手軽で痛みも少ないこと。その反面、分析結果があまり正確とはいえません。

たとえば、せっかく尿や腹水を採取しても、その中に必ずがん細胞が含まれているとはかぎらない。また穿刺吸引細胞診でも、針を刺した場所に必ずがん細胞があるとはかぎらないわけです。子宮頸部の細胞診では、なんと4割もの子宮頸がんを見落とす可能性があるとか。これじゃ、細胞診でシロになったからといって、おちおち安心してられませんよね。

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