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赤星たみこの「がんの授業」
【第二十六時限目】痛みケア(1) 痛みは我慢しない。きちんと痛みを取り除いてもらおう
赤星たみこ(あかぼし・たみこ)●漫画家・エッセイスト
1957年、宮崎県日之影町(ひのかげちょう)のお生まれです。1979年、講談社の少女漫画誌『MiMi』で漫画家としてデビュー。以後、軽妙な作風で人気を博し、87年から『漫画アクション』で連載を始めた『恋はいつもアマンドピンク』は、映画化され、ドラマ化もされました。イラストレーターで人形作家の夫・新野啓一(しんの・けいいち)さんと、ご自身を題材にした夫婦ギャグをはじめ、あらゆるタイプの漫画で幅広い支持を得ていらっしゃいます。97年、39歳の時に「子宮頸がん」の手術を受けられ、子宮と卵巣を摘出されましたが、その体験を綴ったエッセイ『はいッ!ガンの赤星です』(『はいッ!ガンを治した赤星です』に改題)を上梓されました。
前号に引き続き、80代の義父が肺がんの手術を受けたときの話から――。
がんの摘出手術が終わった後、「痛かったら言って下さいね」と、看護師さんは義父に何度も優しく念を押してくださったそうです。ところが義父は、我慢してなかなか痛みを訴えようとしない。その話を聞いて、「ああ、父も日本人だなあ」と、思わずため息をついてしまいました。
日本には古来「我慢の文化」があり、高齢の方になればなるほど痛みを我慢してしまいがちです。患者さん本人だけならまだしも、家族までが「痛いなんて言っちゃ、先生や看護師さんに迷惑でしょ」と、患者さんに我慢を強いるようなことを言ってしまう。「我慢は美徳」「忍耐は美徳」……これって、武士道精神の名残りでしょうか!?
一方、医療機関のほうはどうでしょうか。QOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)という考え方が普及する以前は、大方のお医者さんが「これぐらいの痛みを我慢できなくてどうする」「命が助かるほうが先だろう」と思っていたのではないでしょうか。しかし最近は緩和ケアに対する認識も広まり、以前よりもはるかに痛みのケアの大切さが知られるようになってきました。とはいうものの、実際に医療の現場で痛みのケアが十分に行われているかといえば、話はまったく別。緩和ケア医がいる1部の病院を除けば、「がんは治療が先決。この程度の痛みはしかたないのでは」という考え方の医師が、まだまだ多いのが現状ではないでしょうか。
しかし! 耐えがたい痛みに歯を食いしばって耐えていたら、免疫力が下がって病気と闘うこともできなくなってしまう。だからこそ、患者さんとしても痛みのケアに対する正しい知識を身につけることが必要なのです。
そこで、今回は身体的な痛みのケアについて学んでみたいと思います。
痛みはがんを悪化させる原因にもなる
がんの痛みは比較的早い時期から出始めて、末期に近づけば近づくほど痛みが激しくなるのが普通です。初期がんでは3分の1、末期がんでは3分の2以上の人が痛みを感じ、全体では70~80パーセントの人が痛みを感じると言われています。末期がんの患者さんでも痛みを感じない人もいるそうなので、がんは人によって千差万別と言いますが、痛みも千差万別なんですね。
がんにともなう身体的な痛みは、(1)がんが筋肉や軟部組織を圧迫することで起こる内臓痛、(2)骨転移などによって起こる体性痛、(3)がんが神経を損傷することで起こる神経因性疼痛、の3つに大別されます。
内臓痛では痛む場所がはっきりしないことが多く、締め付けられるような鈍い痛みが起こります。骨転移の場合は、がんが骨の中の神経を刺激するため、動いたときに痛みが増す場合が多くみられます。これに対して神経因性疼痛では、神経そのものが傷つけられるので痛みも激しく、焼けるような、もしくは電気が走るような痛みに襲われます。
では、がんの痛みを放置すると、どのようなデメリットがあるのでしょうか。
痛みを過度に我慢していると、患者さんは不眠や食欲不振に悩まされるようになります。また怒りを感じたり、抑うつ症状に悩まされたりする患者さんも少なくありません。痛みそのものが、がんの病状を悪化させる原因になってしまうのですね。逆に、痛みがとれるだけで患者さんの免疫系が大幅にアップ! よりよい状態で治療に専念することができるのです。
「でも、がんの痛みをとるためにモルヒネを打つんでしょ。モルヒネ中毒になっちゃうんじゃないの?」
うーん、よくある誤解ですね。では、じっくりご説明しましょう。たしかに、がんの痛みケアではモルヒネがよく使われます。ところが世間では、まだまだ「モルヒネ」=「麻薬」というイメージが強いのですね。「がんの痛みをとる」というと、「モルヒネ漬けにする」=「麻薬中毒になる」、という連想がピピピ! と働いて、コワイと思い込む人も少なくないのです。
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