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悪性胸膜中皮腫、軟部組織肉腫に対する温熱化学放射線治療
抗がん剤、放射線と天秤にかけ、より効果が望めるがんに限定して行うべき

監修:唐澤克之 東京都立駒込病院放射線診療科治療部部長
取材・文:町口充
(2006年9月)

  

唐澤克之さん
東京都立駒込病院
放射線診療科治療部部長の
唐澤克之さん

どんながんにも効く治療法として温熱療法をバラ色に描くのではなく、明らかに効果が確認されている疾患に限定して、電磁波温熱療法(ハイパーサーミア)を行っているのが東京都立駒込病院だ。

その疾患とは、悪性胸膜中皮腫と軟部組織肉腫。

放射線や抗がん剤が効かず、手術にも限界があるという場合でも、なかなかの効果が得られているという。

第1選択肢は放射線や抗がん剤

「温熱療法は今から20年ほど前に流行し、当時は数多くのがん治療に応用されました。一方で、この20年の間に放射線治療技術の進歩、新規抗がん剤の開発、さらには放射線・抗がん剤の併用療法の進歩も著しいものがあります。その結果、これらの治療成績が向上して、温熱療法のメリットは以前ほどではなくなってきました。そこで、この療法から撤退する施設が多くなってきたのも事実です」

と語るのは、都立駒込病院放射線診療科治療部部長の唐澤克之さん。同病院では、放射線治療を受ける新患者数が年間900人を超え、症例数は全国でもトップクラス。中心となっているのが唐澤さんで、温熱療法でもエキスパートとして知られる。

唐澤さんによると、現在のところ、温熱療法が有効であるとの科学的根拠、すなわちエビデンスのある疾患はなく、したがって、標準治療とはなっていないのが現状。温熱療法に過剰な期待を抱くのは危険で、放射線や抗がん剤が有効なら、むしろ、そちらを選んだほうがいいという。

しかし、悪性胸膜中皮腫と軟部組織肉腫はいずれも、残念ながら今のところ治癒に至る治療法が確立していない疾患。放射線による治療が難しく、抗がん剤も有効なものが少ない。両者を併用して行う化学放射線治療もあまり有効ではなく、手術もできないケースが多い。

ところが、放射線や化学療法に温熱療法を加えると、「なかなかいい効果が出る」と唐澤さん。成功率は7~8割で、放射線や抗がん剤、手術単独、あるいは放射線と抗がん剤を組み合わせた治療法と比べて、格段に成績がいいという。そこで同病院では、温熱療法の存続と、エビデンスの確立を目的に、2つの疾患に限って前向きに治療を行っている。

電磁波を用いるサーモトロン-RF8

悪性胸膜中皮腫は、胸膜表面を覆う中皮やその下の結合組織の未分化な間葉細胞に由来する腫瘍であり、悪性度が高く、全般的に予後不良な疾患。アスベスト(石綿)曝露との関連が強く、社会的にも問題となっている。

もともと希な病気といわれていたが、日本での死亡者数は近年増加傾向にある。2004年には死者は1000人近くに達しており、10年後は現在の倍にまで増えるとの予測もある。

外科手術や化学療法、放射線治療などほとんどの治療法に対して抵抗性があり、その上、ほとんどの場合、患者は悪性胸膜中皮腫に罹患していることに気がつかず、手遅れになることが多い。

放射線や抗がん剤であまり効果のない悪性胸膜中皮腫が、温熱療法を併用すると効果があらわれるのはなぜなのか。唐澤さんは次のように説明する。

「1つは、効く対象が違うということがあります。がん細胞は分裂を繰り返していますが、すべてが同じ状態にあるわけではなく、盛んに分裂しているものもあれば、休眠しているものもある。放射線は、盛んに分裂を繰り返している細胞によく効きます。これに対して温熱は、休んでいる細胞に効く。それから、細胞周期的にいって、放射線は分裂をしているときに効果がいちばん高まるが、温熱はDNA合成が行われているときに1番効く。ターゲットが別だから、そのあたりをうまく組み合わせると、相乗効果も大きいことになります」

同病院に設置されているのは、「サーモトロン-RF8」という装置。治療部位を2枚の平板電極で挟み、電磁波による加温によって浅い部分から深部臓器まで治療できるという。

治療は次のように行われる。

まず、がんのある部分に1回2グレイの放射線を照射し、続いて温熱療法を行う。所要時間は1時間ほど。仰向けに寝たままで、その間、患者はサウナに入っているときのような暑さを感じるという。サウナが苦手な人は多少暑苦しく感じるかもしれないが、好きな人は逆に心地よいとか。

最後に抗がん剤を投与するが、同病院ではブリプラチン(ランダ、一般名シスプラチン)やパラプラチン(一般名カルボプラチン)といった白金系の薬を用いている。

この治療を、週1回の頻度で2回~5回行う。

進行を抑え症状緩和にも効果

[悪性胸膜中皮腫に対する温熱化学放射線治療の全生存]
図:悪性胸膜中皮腫に対する温熱化学放射線治療の全生存
[温熱化学放射線治療の治療結果]
No.年齢病期最高到達温度
(℃)
効果生存期間
(月)
1344.2PR68.0
2143.2PR27.4
3342.3PR27.1
4143.7SD14.1
5140.1SD7.6
6343.0SD6.5
7342.8PD6.5
8341.2PD4.1
PR=有効(50%以上の縮小)、SD=不変、PD=進行

唐澤さんらの研究グループは03年、「当科における悪性胸膜中皮腫の温熱化学放射線治療の治療成績」についてまとめ、翌年、日本ハイパーサーミア学会誌に発表している。

それによると、8人の患者(男性5人、女性3人、年齢は48~85歳で平均年齢約65歳、病期は1期が3人、3期が5人)に温熱化学放射線治療を実施。結果は、腫瘍が一時的でも50パーセント以上縮小した人が3人、25~50パーセント縮小した人が2人、不変だった人が3人で、腫瘍が大きくなった人は1人もいなかった。生存期間では68カ月生存した人もいて、平均生存期間は14.1カ月だった(右の表、グラフ参照)。

数字にはあらわれていないが重要な評価事項としては「症状の緩和」があげられ、唐澤さんは次のように述べている。

「悪性胸膜中皮腫は、進行すると大量の胸水が溜まり、それによって呼吸困難や胸痛が起こりやすくなるのですが、このような症状が強く出ている場合、当面の目標はその緩和にあります。これが成功すれば腫瘍の消滅を狙うことになりますが、温熱化学放射線治療を行ったところ、ほぼ全例で胸水が止まり、症状緩和につながっています」

64歳の男性の例。原発は右肺で病期は3期だった。症状が強く、ほかの医療施設で治療を受けたものの効果がなく、「何とか胸水を止めてほしい」と駒込病院を受診。温熱化学放射線治療を行うことになり、初回の放射線治療では2グレイを照射し、温熱療法は治療目標が43℃だったところ最高44.2℃まであげることができた。抗がん剤はカルボプラチンを投与。

1回目の治療から1週間後に2回目の治療が行われたが、抗がん剤と放射線の副作用により白血球数と血小板数の減少がみられた。そこで、これを改善するG-CSF製剤などを投与して、3回目の治療は休止。すると、その間に胸水は止まり、痛みはかなり軽減。初回治療から1カ月後にCTで調べると、わずか2回の治療にもかかわらず、5センチ弱もあった腫瘍がほぼ消えかかっていた。

男性はその後、社会復帰を果たし、3年後に再発して温熱放射線治療を行い、それから2年後に死亡。生存期間は5年8カ月に及んだ。診断時に病期が3期の場合、1年未満で亡くなる人が多いのに、大幅な延命といえる。

[悪性胸膜中皮腫に対する温熱化学放射線治療の効果]
写真:悪性胸膜中皮腫に対する温熱化学放射線治療の効果
ステージ2、64歳男性。左が治療前、右が治療後3カ月の様子

軟部組織肉腫に対する著効例

一方、筋肉や脂肪、血管、神経など体の軟部組織にできた悪性腫瘍が軟部組織肉腫で、抗がん剤や放射線は効きにくい。第1選択肢は切除だが、切除不能の場合、放射線と組み合わせた温熱療法が効果をあげた例が多く報告されている。

ある40歳男性の場合。軟部組織肉腫が再発し、切除不能で来院した。放射線+温熱療法の併用療法を6回実施したところ、腫瘍は縮小し、腫瘍の中心部は壊死。3カ月に1回ごとの経過観察を行い、社会復帰を果たした。

[軟部組織肉腫に対する温熱放射線治療の効果]
写真:軟部組織肉腫に対する温熱放射線治療の効果
脂肪肉腫、49歳女性。左が治療前、右が治療後

ところで、ひところ盛んに行われた温熱療法を実施している施設が少なくなっていることについて、唐澤さんは次のように語る。

「多くの施設がなぜやめたかというと、効かないからやめたというのではなく、治療すべき対象を間違っていたからだと私は思います。何でもかんでも治療対象にするのではなく、放射線や抗がん剤とどちらがいいか天秤にかけ、より効果が望めるものだけに限定すべきです。また、科学的には証明されていないが、遠隔転移があるケースでは、むしろ温熱によって血流がよくなり、転移がどんどん進んでしまう恐れがあります。この点についても、今後、解明していくべき課題だと考えています」

また、温熱療法は保険の対象になっているが、保険点数の低さにも問題があると唐澤さんは指摘している。温熱療法を行うと、コストの割には保険点数が低いので、本格的に温熱療法を行うと病院は赤字になってしまうという。1回でも5回やっても同じ点数なので、1日いくら頑張って行っても、温熱療法は9000点。これに対して放射線治療だと、大きな病院の場合、1日合計で20万点に達することがある。このあたりも、温熱療法が下火になっている原因の1つといえるかもしれない。

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