温熱療法の治療現場を歩く
QOLの向上、延命に可能性を秘めた民間病院の新しい試み
西出病院温熱療法研究室の
バレンチナ・オスタペンコさん
岡村一心堂病院理事長の
岡村一博さん
温熱療法は魔法の杖ではない
大阪府貝塚市にある西出病院
大阪府貝塚市にある西出病院が温熱療法をがん治療に取り入れたのは1999年12月のことである。以来、現在に至るまで温熱療法を用いた治療例は385例に達しているという。当然ながら患者の大半は手術が不能の進行がん、再発がん患者である。
この病院で温熱療法の中心になっているのは旧ソ連がんセンターで放射線治療、温熱療法の研究に取り組み、その後、大阪の関西医科大学で同じ研究に取り組んでいたバレンチナ・オスタペンコさんである。そのオスタペンコさんがこの治療法の持つ意義についてこう語る。
「ヨーロッパでは抗がん剤や放射線治療の効果を最大限に高めるために温熱療法が用いられています。しかし日本の場合はがん治療による副作用を恐れて、副作用の少ないこの治療を受けたいという人が少なくない。もちろん、それが間違っているわけではありません。しかし、この治療だけでがんがよくなることはほとんどないし、状況によっては、やはり強力な抗がん剤や放射線治療が必要になることもある。温熱療法は魔法の杖ではありません。ただQOLを維持しながら、従来の治療効果を高める効果があるのは事実だし、この治療法を用いて症状が改善する人もたくさんいます。患者さんには、そのことをよく理解してこの治療を受けてもらいたいのです」
熱耐性を出さないように治療間隔をおく
では温熱療法とは、実際にどのように行われるのだろう。まずは西出病院での具体的な治療法から見ていこう。
温熱療法ではサーモトロン-RF8という機器が用いられ、患部に8メガヘルツのラジオ波が照射される。出力は最大1500。腫瘍内温度43度を目標にその人体の状態に応じて調整される。
オスタペンコさんによると、温熱療法の効果は患部の温度の上昇率、照射時間に比例するが、皮下脂肪の厚い人は体温が上がりにくく、なかなか目標の43度に達しないこともあるという。また、体温が上がると疲れるために長時間の照射は難しく、そのため、西出病院では照射時間を60分に設定している。
治療スケジュールは既存療法とのかねあいによって決められる。原則的に温熱療法による治療は放射線や抗がん剤治療を受けた直後に行われる。また西出病院では腫瘍細胞に熱耐性が生じないように、最低でも48時間の治療間隔がおかれている。
そこで、たとえば放射線治療を月曜日から金曜日まで週5回受けている人の場合なら週2回火曜日と金曜日に、また週に1度、抗がん剤治療を受けている人は、週1回のペースで抗がん剤治療を終えた直後に照射が行われることになる。
放射線、抗がん剤併用での治療成績
治療効果はどんなものだろうか。
関西医科大学医師の播磨洋子さんを中心にオスタペンコさんも参加した、37人の進行子宮頸がん患者に対する放射線の単独治療と温熱療法を加えた治療の無作為比較試験では、放射線の単独治療で腫瘍が完全消失した人は52.5パーセント。それに対して温熱療法を加えたグループでは83.3パーセントに達している。
また西出病院では手術不能の膵臓がん患者でUFT(一般名テガフールウラシル)、ジェムザール(一般名ゲムシタビン)の2剤併用、放射線治療、さらに放射線治療にイリノテカン投与を加えた放射線化学療法を、それぞれ行った患者18人に温熱療法を加えた治療結果を調べている。
それによると、腫瘍の完全消失と部分消失を合わせた奏効率は28パーセントで生存期間中央値が5.5カ月、1年生存率が50パーセントという結果が明らかになっている。もちろん、この調査は対象群が設定されておらず、これだけで結果を云々することはできない。しかしオスタペンコさんは温熱療法の効果をはかる傍証にはなるという。
「ある大学病院での手術不能の膵臓がん治療の奏効率は約20パーセント。生存期間中央値は5.7カ月ですが、1年生存率は18パーセントとずっと低い。それに加えて痛みや食欲不振など、治療による副作用を感じた人が60パーセント以上に達しています。症例数は多くないですが、温熱療法の効果をはかる目安にはなると思います」
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