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治療を完遂するためにも、1人で悩まずきちんと医療者に伝えて
セルフケアが重要!末梢神経障害はこうして乗り切ろう

監修:矢ヶ崎 香 慶應義塾大学看護医療学部 助教・がん看護専門看護師
取材・文:伊波達也
発行:2011年8月
更新:2019年7月

  

矢ヶ崎香さん 患者・医療従事者間相互の
情報提供が大切と語る
矢ヶ崎香さん

抗がん剤の副作用の中でも、今最もやっかいな末梢神経障害。
患者さんのQOL(生活の質)に大きく関係し、その後のがん治療にも大きく影響を及ぼす。
軽視できないこの副作用の対策法を見直してみたい。


本人以外はわかりにくい副作用

[図1 末梢神経細胞]

図1 末梢神経細胞

神経線維:微小管は細胞分裂に関するほか、神経細胞では細胞体で作られたタンパク質を神経末端方向へ運ぶ役割を持っています。またその逆の輸送もします

がんの抗がん剤治療における副作用は、がんをたたくという目的のためには、ある程度やむを得ないと考えられてきました。しかし、骨髄抑制、間質性肺炎といった命に関わるものや、吐き気、脱毛など、第3者からもつらいとわかる副作用についてはその対処法が発展したり、注目されてきています。

一方、はたから見たらわかりにくい症状を有する副作用は、その対応が軽視されがちでした。そんな副作用の代表格が末梢神経障害です。

末梢神経障害とは、体に張りめぐらされた末梢の神経などが損傷したり、炎症を起こしたりなどして起こる、しびれや痛みを伴う副作用です(図1)。

この副作用を引き起こす抗がん剤は、ビンカアルカロイド系、タキサン系、プラチナ系と呼ばれる、比較的、治療によく使われるもので、神経細胞そのものや微小管の働きを阻害することによって、がんが成長しないようにする薬です。

がんを叩くという観点に立てば、神経障害は、むしろ主な作用と考えられるため、医療者も患者さんも仕方がないと思われがちでした。しかし、昨今、QOL(生活の質)重視の考え方に立ち、医療者は副作用を重視し、患者さんも症状の軽減を求めるようになってきました。

しびれや感覚障害を伴うつらい副作用

[図2 末梢神経障害による症状]
図2 末梢神経障害による症状

末梢神経障害の具体的な症状は、足の先や下腿、大腿、手・指先の感覚の鈍麻や、しびれや痛みです。患者さんは、手足に力が入らずじれったい、手がしびれて物が持てない、ボタンがはめられない、包丁が持てない、手足の皮が厚くなった感じ、健康サンダルを履いているみたいな感覚、感覚が鈍く歩くとつまずく、など多様な表現で症状を訴えます(図2)。

「医師からは、抗がん剤治療の前に、症状について詳しい説明があり、患者さんは言葉としては理解していると思います。しかし、実際に症状が現れてみると、日常生活を送るにあたって著しくQOLに影響するつらい症状だと思います」

そう話すのは、慶應義塾大学看護医療学部助教で、がん看護専門看護師の矢ヶ崎香さんです。

「症状が強くなると、包丁が持てずにはさみで野菜を切らなければならない、お風呂の湯加減をみてやけどをしてしまう、地面に足を着いたときにひねって捻挫をするなどといったことも起こります」

このような症状は、料理人、大工さん、タクシー等の運転手、システムエンジニア、音楽家のほか、日常生活で手足を頻繁に使う職業の人には、何らかの影響や困難さを感じることになるかもしれません。

「ですから、治療の前には必ず職業や生活習慣などを医療者へ伝えていただいて、場合によっては、末梢神経障害の出ない、他の治療法を選択することなども考える必要が出てきます」

日常生活に支障が出る前に対処を

[図3 末梢神経障害を引き起こす主な抗がん剤]
図3 末梢神経障害を引き起こす主な抗がん剤

さらに、末梢神経障害がやっかいなのは、乳がん、肺がん、胃がん、大腸がんなど患者数の多いがんの、最初の治療(ファーストライン)に使われる抗がん剤でよく出る副作用だということです(図3)。薬によって症状の出方や出る時期も違います。

「たとえば、大腸がんで処方されるエルプラット()は、治療直後に、口やのど、手足にしびれが出ます。冷たいものを飲んだり、触ったりすると出やすくなったり強くなったりします。時期が経ってから出る場合もあります。

乳がんなどで処方されるタキソール()は、ストッキング-グローブ型といって、手袋や靴下の着用部分にしびれや感覚異常や痛みが現れます。

そして、蓄積毒性といって、投与量が増えるにしたがって症状が強くなっていきます。数カ月、1年と長期にわたる場合もあります」

末梢神経障害は、患者さんに前述したような症状が強く現れ、日常生活に支障が出る前に対処することが重要だと、矢ヶ崎さんは話します。

[図4 有害事象判定基準(CTCAE)]
図4 有害事象判定基準

出典:有害事象共通用語基準v4.0:日本語訳 JCOG/ISCO版-2010年3月

「その見極めをする指標となるのが、米国立がん研究所(NCI)が出している有害事象共通用語基準(CTCAE・日本語訳JCOG版)です(図4)。症状が、グレード2(中等度の症状)からグレード3(重度症状)へと進む前に対処することが大切なのです。症状が日常生活に支障をきたす前に、ストップ&ゴーといって、抗がん剤の投与を一時中断して、症状を見ながら再開するようにします。1回の投与量を減らして、細く長く続ける方法もあります」

この症状の変化を見逃して、抗がん剤治療を継続してしまうと、症状がエスカレートして、元に戻らなくなってしまうことがあるといいます。抗がん剤治療が始まったら、医師や看護師と患者さん本人が症状に対する情報をできるだけ詳しく共有することが大切なのです。

エルプラット=一般名オキサリプラチン
タキソール=一般名パクリタキセル


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