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患者ケア特集
薬剤の特徴や副作用、対処方法を知っておけば、外来化学療法は怖くない
外来化学療法の副作用対策はセルフチェックが何より大事

監修:後藤功一 国立がん研究センター東病院呼吸器内科外来医長
取材・文:半沢裕子
発行:2011年8月
更新:2019年7月

  

後藤功一さん 外来化学療法ホットラインの
普及に奔走する
後藤功一さん

入院で行われる抗がん剤治療が減り、外来で治療を受ける人が増えている。
外来化学療法の副作用対策のポイントは、患者さん自身が自分の体調の変化をよく知り、対処方法を知っておくこと。
そこで、それぞれの副作用に対する対処方法をまとめた。


現実のものになった外来での抗がん剤治療

[国立がん研究センター東病院における外来化学療法件数の年次推移]
国立がん研究センター東病院における外来化学療法件数の年次推移

「日本では長い間、がんの化学療法(抗がん剤治療)は入院で行われてきました。しかし近年、外来化学療法にとても速いスピードで移行しています」

そう語るのは、国立がん研究センター東病院呼吸器内科外来医長の後藤功一さんだ。外来化学療法とは名前のとおり、患者さんが通院しながら、がん治療のための飲み薬をもらったり、あるいは、日帰りで点滴を受ける診療の形だ。

後藤さんはその安全なシステムの確立を目指す厚生労働省の研究班の班長だが、日本の外来化学療法の現状をこう説明する。

「国立がん研究センター東病院では、1日平均65件、年間1万5000件の外来化学療法を行っています。ほかに1万件を超える病院が全国で約10施設ほどあり、さらにベッド数を増やしたり、新たに外来治療センターをつくる病院が引きも切りません。外来化学療法がこれからの抗がん剤治療の主流になるのは、間違いないと思います」

入院せず、家で普段どおりに生活しながら、がんの治療が受けられたら──というのは、がんの患者さんの切なる願いだったが、それは早くも現実のものになりつつある。患者さんや家族にとって、大きな福音ということになるだろう。

[国立がん研究センター東病院における外来化学療法の
診療科別割合(2007年1月~2010年10月)]

国立がん研究センター東病院における外来化学療法の診療科別割合

その一方で心配なのは、「入院しなくて、本当に大丈夫?」ということだ。抗がん剤はがん細胞を叩く治療だが、正常な細胞にもダメージを与える。その結果、さまざまな体調不良が現れる。これが副作用だ。副作用が心配なため、日本ではこれまで入院治療が行われてきた。

事実、抗がん剤の副作用の中には、気づいたときは深刻な事態になるものもある。医療者が身近にいない自宅で、本当に大丈夫なのだろうか? これに対して、後藤さんは言う。

「日本の外来化学療法は非常に安全です。『入院が必要となるような重篤な有害事象』の発生 率はわずか2~3パーセント。薬剤の特徴や副作用、そしてその対処方法をきちんと知っておけば、まず問題ありません。ただし、そのためにも、患者さんは自分の体調をよく把握し、異常にすぐ気がつくよう、日ごろからセルフチェックをすることが大切です」

治療に先立ち、抗生剤を患者さんに渡す試みも

[国立がん研究センター東病院における重篤な
有害事象の内訳(2007年10月~2010年10月)]

国立がん研究センター東病院における重篤な有害事象の内訳

国立がん研究センターでは、患者さんがセルフチェックをし、異常に気がついたとき、迅速に相談を受け、対応できるよう、外来化学療法ホットラインを2008年から開設している。この電話を受けるために交代で常駐しているのは、看護師と薬剤師だ。とくに今後、「薬剤師さんの役割は大きい」という。

「当院では『重篤な有害事象』の第1位は発熱性好中球減少(白血球の1種が急に減り、抵抗力が低下したのに伴い、感染症を発症し熱が出る状態)ですが、その対策として、患者さんにあらかじめ抗生剤と解熱剤をお渡ししています。熱が出ると、ホットラインに連絡が入りますが、患者さん自身の電子カルテを確認しながら、そのときの患者さんの全身状態を把握して、抗生剤や解熱剤を飲むよう指示するのは薬剤師です。法律的な壁をクリアして、こうした対応ができるようになりました」

抗がん剤の影響は数日。薬は体内に残らない

役割はほかにもたくさんある。

「患者さんの状態によっては、モルヒネを併用している場合など、ほかの薬との兼ね合いが心配になることも。そうした疑問にも答えてもらえます」

米村雅人さん

がん専門薬剤師の米村雅人さん

実際に、ホットラインの対応にも当たっている国立がん研究センター東病院薬剤部薬務主任で、がん専門薬剤師 の資格を持つ米村雅人さんはこう語る。

「薬剤師は副作用がなぜ起こるかといった説明も行います。患者さんからよく、『わからないことが不安だ』と聞きますが、理由がわかると必要以上に悩まないので、体調があまり悪くならなかったりします。

たとえば、患者さんに多い誤解の1つに『抗がん剤は3週間に1度の投与だから、抗がん剤が3週間体内に残っているのでは?』というものがあります。実際には、多くの抗がん剤が体内に残存しているのは数日間。残りの期間は体が回復するために必要な期間です。多くの抗がん剤は、がん細胞と正常な細胞へのダメージの違いを利用しており、がん細胞のように増殖が活発な細胞に対してより大きなダメージを与えます。逆に正常な細胞は、がん細胞ほどのダメージを受けていないため、回復期間で正常な状態まで回復できるのです。

吐き気やおう吐もいつまでも続きません。なぜなら、薬が体内から排出されるからです。そういったことを知ってもらうと、治療により前向きに取り組めるようになるようです」

自分の体調を毎日手帳などに記録する

市川智里さん

がん看護専門看護師の
市川智里さん

一方、看護師は患者さんの体調の訴えを聞いて医師に伝えるだけでなく、「化学療法を乗り切る知恵」も一緒に考えてくれる。同じくホットラインを担当しているがん看護専門看護師の市川智里さんは、「化学療法を受ける患者さんは、異常をきちんと把握して医療者に相談することが大切です。普段から、手帳などに毎日ご自分の体調をぜひ記録してください。この記録があれば、看護師は患者さんと一緒に体調を振り返ることができます。これによって、化学療法による自分の体調変化パターンがわかるので、『3日目から食欲が落ちるので、3日目の朝から吐き気止めを飲もう』というような対策を考えることができます」

残念ながら、こうしたサポート・システムが完備している病院は、まだ非常に少ない。しかし、希望があれば、自分の病院に相談してみるといいだろう。最近は前述の研究班に参加している全国のがん診療連携拠点病院を中心に、ホットラインを取り入れる病院が増えている。

また、3人の専門家のアドバイスを、ぜひうまく利用していただきたい。すなわち、外来化学療法を受ける心構えとしては、

①自分の体調を毎日セルフチェックする。できれば、手帳などに記録をつける。
②わからないことは遠慮せず、医師・看護師だけでなく、薬剤師、理学療法士などの専門家にも聞く。知識は大きな武器だ。
③異常に気づいたら、早めに相談・診療を。

などのポイントがあげられるが、では、外来化学療法ではどんな副作用が起こるのだろうか。それぞれの副作用には、どう対処したらいいのだろうか。3人のお話をまとめてみた。

[外来化学療法ホットラインのしくみ(国立がん研究センター東病院)]
外来化学療法ホットラインのしくみ
[外来化学療法ホットラインに寄せられたがん種別件数(国立がん研究センター東病院)]
外来化学療法ホットラインに寄せられたがん種別件数


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