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保湿ケアと早めの休薬・減量で症状は改善
早めの対策が治療継続につながる!手足症候群の予防と対策

監修:浅子恵利 千葉県がんセンター薬剤部上席専門員
取材・文:池内加寿子
発行:2011年4月
更新:2013年4月

  

浅子恵利さん 千葉県がんセンター
薬剤部上席専門員の
浅子恵利さん

抗がん剤の影響で、手足に炎症や痛みが集中的に起こる手足症候群。「重症化すると物を持てなくなったり、歩けなくなったりして、 日常生活が困難になります」。こう指摘するのは千葉県がんセンター薬剤部上席専門員の浅子恵利さん。
早めに対処することが、翻って抗がん剤治療の継続につながると浅子さんは話しています。


手足の炎症や痛みで持てない、歩けない!

抗がん剤の影響で手や足の皮膚の細胞が障害され、手足に炎症や痛みが集中的に起こる副作用を手足症候群といいます。

「手足症候群は重症化すると物を持てなくなったり、歩けなくなったりして、日常生活が送れなくなり、治療が継続できなくなることもあります。重症化を防ぐには、薬剤の開始と同時にスキンケアなどの予防に努め、痛みを感じる症状が出たら無理はせず、早めに抗がん剤の休薬や炎症の積極的な治療など、適切な対処をすることが大切です」

こう注意を呼びかけているのは、千葉県がんセンター薬剤部上席専門員で、がん薬物療法認定薬剤師の浅子恵利さんです。

浅子さんによると、手足症候群を起こす代表的な抗がん剤には、大腸がんや乳がんなどに使われるゼローダ()をはじめとするフッ化ピリミジン系の抗がん剤( TS -1()、5-FU()、UFT()など)、卵巣がんに使われるドキシル()、広範囲のがんに対して使われるタキソテール()、腎がんなどに使われる分子標的薬のネクサバール()、スーテント()などがあります。

発症頻度は、ゼローダでは約51~78パーセント(投与法や投与量によって異なる)、ドキシルでは約78パーセント、ネクサバールでは約55パーセントと報告されています。

[手足症候群の症状の程度]
手足症候群の症状の程度

出典:千葉県がんセンターで配布されている『「手足症候群」対処の手引き』より一部改変

「多くの場合、抗がん剤の投与開始直後から1~2カ月の間に症状が出始めます。初期症状は、手のひらや足裏が赤くなり、ピリピリする、チクチクするといった表面的な知覚異常や腫れなどの軽度なもの(グレード1)です。腫れが顕著になり乾燥や炎症が進んで皮がむけたり、皮膚内部からはっきりとした痛みを伴うようになると中等度(グレード2)です。そのまま治療を継続していると、水ぶくれや亀裂、強い痛みが現れ、物がつかめない、歩けないなど日常生活が困難になる(グレード3)こともあります。どの抗がん剤の場合も、日常生活でよく使う手や足の圧力や負荷のかかる部分に症状が現れやすいです」

[代表的な手足症候群の症状(ネクサバール、スーテント)]
代表的な手足症候群の症状(ネクサバール、スーテント)

抗がん剤の種類によっても症状が異なります。ゼローダでは手のひらや足の裏全体が炎症を起こします。これに対し、分子標的薬のネクサバールやスーテントでは部分的に角質が厚く硬くなり、出血や痛みが起こります。とくに、足の裏の地面に接する部分や手指の関節など、負荷がかかるところが肥厚しやすいのが特徴です。

発症のメカニズムは抗がん剤によって異なりますが、手足だけに起こる理由などまだ解明されていない部分も多いと浅子さんは言います。

「ゼローダなど殺細胞性の抗がん剤は、表皮の製造元である基底層の細胞分裂を障害し、汗腺や皮脂腺の分泌を妨げるために、皮膚の正常なターンオーバー(新陳代謝)が妨げられます。その結果、正常な皮膚細胞は少なくなり、汗と皮脂で作られる皮脂膜による表皮のバリア機能が損なわれるため、水分がどんどん蒸発して乾燥し、細菌なども侵入しやすくなり、炎症や亀裂などの症状が起きると考えられます。ドキシルの場合は、物理的な刺激によって手足の毛細血管が一部破壊され、そこからドキシルが侵入するために炎症が起こるのではないかと言われていますが、詳しくはまだわかっていません」

ゼローダ= 一般名カペシタビン
TS-1 = 一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
5-FU = 一般名フルオロウラシル
UFT = 一般名テガフール・ウラシル
ドキシル= 一般名ドキソルビシンリポソーム
タキソテール= 一般名ドセタキセル
ネクサバール= 一般名ソラフェニブ
スーテント= 一般名スニチニブ

予防には保湿ケア治療開始から始めよう

手足症候群の予防について、浅子さんは次のように話します。「どの抗がん剤の場合でも、手足症候群の予防や治療の基本は保湿ケアです。治療を始めたら症状が出る前からしっかり保湿をして、皮膚のバリア機能を補っておきましょう」

表皮が乾燥するとバリア機能が損なわれ、外敵の侵入によってますます皮膚が壊れやすくなります。そこで、十分な保湿でバリア機能を補い、皮膚を守るというわけです。

「予防に使う保湿剤は、アルコールや香料が含まれていない刺激の少ないものなら、ふだん使い慣れている市販品でかまいません。保湿剤は、水分が多いものほど皮膚に浸透しやすく、油分が多いものほど皮膚表面に膜を作ってカバーする効果があります。ですから、まずモイスチャーローションなどで水分を補給し、その後ナイトクリームやワセリンなどでカバーします。入浴後は、皮膚にたっぷり水分が含まれているので、保湿剤が浸透しやすく効果的です」

入浴後、保湿のタイミングを逃すと、湯気とともに皮膚の水分まで抜けてかさつきの原因になるので、体を軽くタオルで拭いたら、すぐに保湿剤をつけて水分を閉じ込めるのがポイント。「かかとなどの皮膚が硬いところは、入浴後に角質がふやけた状態で保湿剤を塗るのがベストです。入浴できないときは足浴してから塗るといいでしょう。寝るときは、靴下や綿の手袋をするとさらに効果的ですね」

症状が出たら保湿を強化グレード2でステロイドを

手のひらや足の裏などにピリピリした違和感、痛みのない赤みや腫れなどの症状が出てきたらグレード1です。さらに症状が進み、炎症で痛みを伴い、日常生活に支障が出てくるとグレード2です。

「グレード1になると病院処方の保湿剤を使って保湿を強化することもあります。より入念に保湿ケアを続けましょう。当センターでよく使っているのは、角質の水分保持機能を補うヘパリン含有の軟膏やローション、皮膚の新陳代謝を高めて乾燥を防ぐビタミンAまたはビタミンC含有の軟膏、油膜効果の高い白色ワセリンなどです」

保湿ケアは予防と同様に、入浴などで角質の中まで水分を浸透させ、乳液やクリームで保湿を維持し、その後軟膏やワセリンで水分の蒸散を防ぐ、という手順で行います。

「グレード2以上では、基本の保湿ケアに加えて、ステロイド外用薬(軟膏)による治療が必要です。副作用への恐れから弱いタイプのステロイド薬を少量使いがちですが、手のひらや足の裏は、顔の皮膚などに比べると皮膚が厚くステロイドの吸収率が非常に悪いため、強いタイプのステロイド軟膏を患部にたっぷり塗って、短期間でガツンと炎症を抑え、なるべく早く痛みのない状態に戻すのがポイントです」

ステロイド外用薬は、強力なタイプから弱いタイプまで5段階に分類されています。最初から最も強いタイプのものをしっかり使って、1~2週間で炎症を抑えて保湿剤に切り替えれば副作用の心配はありません。

「保湿剤とステロイドを併用するときには、保湿剤を先に塗って皮膚の環境を整えてから、炎症の出ている部分だけにステロイド軟膏を塗ります。ティッシュが貼り付くくらいたっぷりと使って、靴下や手袋で保護しましょう」

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