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皮膚障害が出るのは薬が効いている証拠。前向きにとらえてケアしよう
タルセバによる皮膚障害は正しい治療とセルフケアで乗り越えよう

監修:金児玉青 聖路加国際病院皮膚科・形成外科外来アシスタントナースマネージャー
発行:2011年4月
更新:2013年4月

  

久米春喜さん 聖路加国際病院皮膚科
・形成外科外来
アシスタントナースマネージャーの
金児玉青さん

タルセバなどのEGFRチロシンキナーゼ阻害剤には、副作用として皮膚障害がみられます。しかし、これは治療効果が表れている証。
ここでは皮膚症状を上手にコントロールするための治療法やセルフケアの方法について解説します。


皮膚障害は治療効果の証

分子標的薬の1つに上皮増殖因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤があります。その代表的なものがタルセバ()で す。タルセバは、がん細胞の増 殖にかかわるEGFRというタ ンパク質を標的とした薬で、EGFRの働きを抑える役割を果たしています。

しかし、EGFRは、がん細胞の増殖にかかわっているだけではありません。皮膚の1番外側の表皮を構成する細胞である表皮基底細胞や脂腺細胞、さらには爪の元になる爪母細胞にも分布していて、皮膚や爪の代謝にも関与していることがわかってきました。

このため、タルセバがしっかりと働いて、がん細胞の増殖を抑え込めば、当然その働きは皮膚などの細胞にも及んで、健康な皮膚や爪にも影響を与えることになります。

しかし、これまでの臨床試験の結果から、皮膚障害が強く出る患者さんほど、生存期間が長くなることが明らかになっています。つまり、がんの増殖抑制と皮膚障害は同じメカニズムで起きているので、がんによく効くということは、皮膚障害も強く出てしまうのではないかといわれているのです。

だとしたら、皮膚障害についての考えを改める必要があります。タルセバによる皮膚障害は、副作用というよりも抗腫瘍効果の表れともいうべきものなので、「起こるべくして起こる症状」といえます。

そうはいっても、患者さんにとっては不快でつらい症状であり、QOL(生活の質)低下にもつながり、「効いているのだから我慢しなさい」というのは酷な話です。

EGFR阻害剤による皮膚障害は、吐き気や脱毛を伴う従来の抗がん剤の副作用と比べれば軽いものが多いといわれています。それでも患者さんからすればつらいですし、皮膚のケアにかかわる立場からしても、従来の抗がん剤と比べてかなり多彩な症状が出るので、「軽いから」と済ますわけにはいきません。なかには、「こんな副作用が出るなら治療を受けたくない」と訴える患者さんもいらっしゃいます。抗腫瘍効果を引き出すためにも、いかに皮膚症状を悪化させないようにするかの管理が重要です。

タルセバ= 一般名エルロチニブ

皮膚や爪にどんな症状が起こるのか?

[ざ痩様皮疹の症例]
写真:ざ痩様皮疹の症例
[爪囲炎の症例] 写真:爪囲炎の症例
提供:静岡県立静岡がんセンター皮膚科部長 清原祥夫氏
(「タルセバ錠 Rash Management」第3版より)

タルセバによる皮膚障害には次のようなものがあります。

■にきびのような発疹が現れる「ざ瘡様皮疹」
■顔や頭などの皮脂の分泌が活発な箇所に炎症やかゆみを引き起こす「脂漏性皮膚炎」
■皮膚がかゆくなる「そう痒症」
■皮膚が乾燥して亀裂などを生じる「乾皮症」
■爪の周りが赤く腫れて痛くなる「爪囲炎」

金児さんによると、こうした症状はタルセバによる治療を受けたほとんどの人に起こるといいます。

ただし、いくつもの症状を引き起こす人、1つだけの人などと違いがあり、部位も顔だけの人、胸や背中、頭などにも現れる人など、さまざまです。

症状が現れる時期は共通していて、にきびのような発疹が現れる「ざ瘡様皮疹」や皮膚がかゆくなる「そう痒症」は、タルセバによる治療開始から1?2週間以内に起こります。また、2週間後ぐらいから皮膚の乾燥、亀裂が起こり、さらに4週間後ぐらいに爪の周りの炎症「爪囲炎」が起こりやすくなります。

治療は、ざ瘡様皮疹には外用剤治療としてステロイド剤、内服剤治療は抗生物質が基本となります。

タルセバが使われ始めた当初、欧米では最初から比較的強めのステロイドの外用剤を使うことが推奨されました。確かにステロイド剤は炎症を抑制する効果が大きいのですが、顔面ににきびなどがある場合、かえって症状を悪化させることもあり、当院では顔面には最初から強いステロイドを使うことには慎重です。部位や症状に応じてステロイド外用剤のランクを使い分けています。

脂漏性皮膚炎では、外用剤治療はステロイド剤や非ステロイド性消炎鎮痛剤を、内服剤治療はビタミンB2、B6の内服を行い、そう痒が強い場合は抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤を追加します。皮膚乾燥を伴うそう痒の場合は保湿剤も有効です。

また、頭にできるとフケ症のようになるので、スキンケアに硝酸ミコナゾール配合のシャンプー(持田ヘルスケアのコラージュフルフルシリーズ)を勧めています。

乾皮症に対しては、基本は保湿剤。ウレパールなどの尿素入り軟こうは皮膚に潤いを与える塗り薬として有効。ほかに、ビタミンB2、B6の内服も勧められますが、炎症が起こっている場合はステロイド軟こうが勧められます。

爪囲炎に対しては、タルセバの投与開始と同時に保湿剤を使用することを推奨しています。保湿剤は爪が薄くなったり弱くなったりした場合や、爪周囲の乾燥・亀裂の予防に有効です。症状が出てきたら、指サックや医療用テープで保護したり、ステロイド軟こうや抗生剤の内服などで治療します。

[EGFR阻害剤による皮膚障害の典型的な時間経過]
図:EGFR阻害剤による皮膚障害の典型的な時間経過

Potthoff K et al.: Ann Oncol. 2010より改変
(「タルセバ錠 Rash Management」第3版より)

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