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医師との連携を絶やさず、早期発見・早期手当てを
腎がん分子標的薬の副作用「手足症候群」を上手に乗り切る

監修:久米春喜 東京大学医学部付属病院泌尿器科・男性科准教授
取材・文:半沢裕子
発行:2011年1月
更新:2013年4月

  

久米春喜さん 東京大学医学部付属病院
泌尿器科・男性科准教授の
久米春喜さん

進行・再発腎がんの薬物治療は、分子標的薬の登場により大きく変わりつつある。しかし、つらい副作用に耐えられず、治療を断念してしまう患者さんも少なくない。副作用と上手に付き合いながら、治療を続けていくコツを伺った。


進行腎がんの治療を一変させた分子標的薬

超音波やCTなどの検査の普及によって、近年、腎がんが小さい段階で見つかることが多くなった。ほとんどは手術により根治し、再発や転移を起こすことなく経過する。しかし、一部には転移で発見されるものや、治療中に転移が発生する症例がある。このように転移した症例では完治は難しくなる。

腎がんの治療は、肺などほかの臓器への転移が見られる場合でも、腎臓の摘出手術や転移巣(腎がんの細胞が転移した場所で増殖したもの)の摘出手術が基本となっている。取り切れない病巣部や転移巣に対しては、インターフェロンα、インターロイキン2などを投与するサイトカイン療法()が行われてきた。腎がんの場合、放射線や抗がん剤による治療に大きな効果が見込めないためだ。

しかし、東京大学医学部付属病院泌尿器科・男性科准教授の久米春喜さんは「08年に分子標的薬のネクサバール(一般名ソラフェニブ)とスーテント(一般名スニチニブ)が登場し、転移のある腎がんの治療は大きく変わりました」と話す。分子標的薬とは体内の特定の分子を狙い撃ちする薬。がんを根治させることは難しいが、小さくしたり、進行を遅らせたりする効果が見込めるため、今日、進行・再発腎がん治療の第1選択となりつつある。

「確かに、みるみる病変が小さくなってびっくりした経験は何度もあります」

サイトカイン療法=サイトカインは人体で働く生理活性物質の1種。サイトカイン療法はこれを使って免疫機能全体を強化する治療法

[ソラフェニブの効果(偽薬との無増悪生存期間の比較)]
図:ソラフェニブの効果(偽薬との無増悪生存期間の比較)

Escudier B, et al. N Engl J Med 2007;356:125-34

ネクサバールとスーテントの使い分け方

この2つの薬はどちらも、がんの増殖を抑制する働きと、がんの血管新生(がんの増殖に必要な栄養と酸素を運ぶための血管を、がん細胞がつくりだす働き)を抑制する働きを持っている。スーテントは効果が優れている一方、副作用が強く、ネクサバールは副作用が穏やかな分、効果が少し劣るとされる。

「一概には言えませんが、比較的元気で体力があり、がんが大きいため薬をしっかり効かせたい患者さんにはスーテント、比較的体力がなく、がんが小さい患者さんにはネクサバール――という使い分けが一般に行われていると思います」

どちらも飲み薬なので扱いが簡単で、通院が少なくてすむという利点もある。ただし、問題はまさしく副作用。ネクサバールには手足症候群や高血圧、スーテントには手足症候群や高血圧に加えて、血液症状(血小板減少や白血球減少)、甲状腺の機能低下、心機能低下などの副作用がわりあい強く出る。

そのため、ネクサバールもスーテントも厚生労働省承認条件として、製造販売後、一定数の症例のデータが集積されるまでの間は、全症例を対象に使用成績調査を実施することが明記されている。

治療をやめる人が出るほどつらい手足症候群

なかでも、一見重篤に見えないが、患者さんの生活の質(QOL)をいちじるしく低下させるのが手足症候群だ。手足の皮膚が厚くなり、赤くなったりカサカサになったりして痛み出し、圧力が加わると皮がむけてしまう。何かに触れて圧力がかかる箇所に症状が出やすいため、手のひらのふくらんだ部分や指先、足の裏の床や靴に触れる部分などによく現れる。

悪化すると手を使った作業が行いにくくなったり、歩けなくなったりする。せっかく在宅で治療を受けられるのに、今までどおりに生活するのが難しくなってしまうのだ。

[手足症候群の症例]
写真:手足症候群の症例

左の症例は手のひら全体が赤くなって少し腫れており、中指の指先が水ぶくれの状態。右の症例は、とくに床に当たる部分が赤くなって腫れており、ところどころ皮がむけている
画像提供:昭和大学病院皮膚科

この症状は、ネクサバールではほとんどの患者さんに見られ、スーテントでも少なからず発症する。

久米さんは、東大および関連病院における全例調査(ネクサバール80例、スーテント25例)の結果を集計し、2010年の日本癌治療学会で発表したが、「手足症候群はやはりつらい副作用という印象がありますね」と語る。

「スーテントでは、血小板が減少する副作用が多く出る。血小板が減ると出血しやすくなり、脳や消化器官で大きな出血が起きると死亡する可能性もあるため、医師がこれを恐れ、1、2カ月で投薬中止にするケースもありました。しかし、意外にもこの時期を乗り切れば、その後治療を長期間続けられる傾向にありました。その患者さんにとっての副作用の少ない適量が分かるためだと思います。しかし、当然ですが、安易な減量は薬剤の効果の減少につながりますので、よく担当医と相談する必要があります。
一方、ネクサバールを内服した患者さんは、逆に副作用による投薬中止が少しずつ増えてくるようです。投与直後、手足症候群が強く出て治療を中止する人がまず出ます。そのあと、薬が効いているうちは手足症候群のつらさを我慢できるのでしょうが、薬の効果が落ちてくるころには手足症候群以外にもいくつかの複数の副作用が出現するようになり、結局は中止するケースが増えるように思われます」

これらの副作用による理由で治療をやめてしまう患者さんは、約2割にのぼるという。

[ソラフェニブとスニチニブの副作用による治療継続率の比較]
図:ソラフェニブとスニチニブの副作用による治療継続率の比較

ただし、ネクサバールが認可され、多くの患者さんに使われるようになるにつれ、「医師も患者さんも副作用に慣れ、上手にコントロールできるようになってきたようで、最近は『困った』という話を聞くことはかなり減っている」とのこと。

では、どのようにすれば、手足症候群とうまく付き合っていくことができるのだろう。

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