副作用対策を十分行い、治療を遂行しよう
早期発見で対処する分子標的薬特有の副作用
腫瘍化学療法部副部長の
市川度さん
分子標的薬は、今まで治療が難しかった患者さんに希望をもたらす一方で、今まで知られていなかった特有の副作用があることも 徐々にわかってきました。副作用対策を十分に行い、きちんと治療を続けることが大切です。
大腸がん分子標的薬のいま
大腸がん治療の中で、化学療法の果たす役割は、近年とみに大きくなっています。
抗がん剤の種類やレジメン(組み合わせや投与方法)のレパートリーも増え、5-FU(一般名フルオロウラシル)とロイコボリン(一般名ホリナートカルシウム)をベースとして、エルプラット(一般名オキサリプラチン)をプラスしたFOLFOX療法や、カンプト/トポテシン(一般名イリノテカン)をプラスしたFOLFIRI療法などが、再発・転移の治療に多く使われるようになりました。
さらに、07年に分子標的薬のアバスチン(一般名ベバシズマブ)、08年にアービタックス(一般名セツキシマブ)が承認され、FOLFOX療法やFOLFIRI療法にプラスされて、臨床現場で使われています。
分子標的薬は従来の抗がん剤とどう違うのか、防衛医科大学校病院腫瘍化学療法部副部長の市川度さんは、こう話します。
「従来の抗がん剤は、薬を作った後でがんのどの部位に効いているかが研究されてきました。一方、分子レベルの研究が進んできた近年、がん細胞だけで活発に働いている分子がいろいろと発見されています。このような、がんに特有に発現している分子をあらかじめ標的に定め、ここに効かせよう、と的を絞って作った薬が分子標的薬です」
大腸がんの分子標的薬としては既存のアバスチン、アービタックスに続いて、近々新たにベクティビックス(一般名パニツムマブ)が発売される予定です。
「アバスチンは、腫瘍細胞のまわりの血管に発現している血管内皮増殖因子(VEGF)を標的とする薬です。がんに栄養や酸素を送る新しい血管を作りにくくして、がんを兵糧攻めにします。また、アービタックスとベクティビックスは、腫瘍細胞表面に発現している上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とする薬で、がんの増殖を抑えます」
これらの分子標的薬の治療効果は、生存期間を延長させたり、肝臓などに転移した腫瘍を小さくして手術を可能にしたり、腫瘍の縮小によって痛みをとることなどが知られています。
従来の抗がん剤とは違った副作用
当初、夢の薬のように言われた分子標的薬も、最近は、従来の抗がん剤とはまったく違った副作用が起こることがわかってきました。
「従来の抗がん剤は、細胞増殖の早い細胞に作用するため、がん細胞だけでなく、正常細胞まで障害します。そのため、白血球や血小板が減少する、貧血が起こるなどの血液毒性、嘔気・嘔吐、下痢などの消化器症状、末梢神経症状のしびれ、脱毛などの副作用が起こります。分子標的薬を抗がん剤と併用した場合は、抗がん剤の副作用は当然出ますが、併用したからといって従来の抗がん剤の副作用が強く出ることはどうやら少ないようです。むしろ、分子標的薬に特有の、予想外の副作用がしばしば起こることに注意する必要があります」
分子標的薬はがん細胞にある特定の分子を標的としているので、正常細胞への副作用は少ないことが期待されていました。
「ところが、分子標的薬が標的にしている分子が、がん細胞だけでなく正常細胞にも発現していたり、別の標的をもっている場合があることもわかってきました。その結果、的外れな効果として副作用が起こることが明らかになってきています」
アバスチンの副作用と対策
「アバスチンでは、高血圧、出血、蛋白尿、血栓症、傷の治りが悪い、消化管穿孔などが起こることがあります。副作用の発現時期は、治療を始めて早期の場合もありますし、数カ月経ってからということもあり得ます。これらの副作用をなるべく起こさないように、病院で定期的に検査をしながら、副作用の予兆を早めに発見するのがなによりの対策になります」
高血圧
アバスチンに特有な副作用の中でも、比較的頻度の高いのは高血圧です。
「重篤なケースは少ないものの、高血圧は13パーセントに見られるという報告があります」
予防策としては、家庭で毎日、朝晩血圧を測定してグラフなどに記録し、標準血圧135/85より高い場合は、医師に記録を示して相談し、降圧剤を処方してもらいます。
「血圧が高くなったからといって、アバスチンを中止するのではなく、積極的に降圧剤を使用して血圧をコントロールします。最近では、アバスチンの治療中に血圧が高くなるほどよりよい治療効果が得られるという報告も出てきています」
出血
「出血の頻度は12パーセント程度で、その半分以上が鼻血です。鼻血なら、ティッシュなどでおさえて対処しましょう」 いつまでも出血が止まらない、大量の出血がある場合は、主治医に連絡します。
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