治療を乗り越えるための患者5人による体験的極意
私はこうしてつらい抗がん剤治療を乗り切った

取材・文:常蔭純一+がんサポート編集部
発行:2009年11月
更新:2013年8月

  

長期間にわたる抗がん剤治療はつらいもの。少しでもつらさを軽減し、治療を乗り越えていくにはどうすればよいのだろうか。
副作用をうまくコントロールする方法や精神面の対策など、抗がん剤治療を上手に乗り切ることに成功した患者さんにそのポイントを聞いた。


「抗がん剤なんてちっとも怖くない」という体験談に背中を押されて……
片木美穂さん(スマイリー代表) 卵巣がん

医師に八つ当たりしていた

写真:片木美穂さん
片木美穂さん

私の抗がん剤治療は、おせじにも順調といえるものではありませんでした。主治医はもちろん、同室の患者さんやその担当医、病院内の教会のチャプレン(教会に属さない施設や組織で働くキリスト教聖職者)など多くの人に支えられていたにもかかわらず、副作用の過酷さに私は混乱した日々を送っていました。

今、思い返すと、私自身が病気や副作用、病院についてもっと理解していれば、状況は違っていたに違いありません。

自らの体に異常があることを知ったのは、6年前の冬のことでした。

近所のクリニックで妊娠を告げられたすぐ後に大量の出血があり、検査で卵巣に小さな良性の腫瘍が発見されたのです。

その後、腫瘍はどんどん膨張し、妊娠時の危険を回避するために翌年4月、生まれ育った大阪の病院で腫瘍の摘出手術を受けることにしたのです。

しかし、実際に手術を受けると、卵巣にできていた腫瘍は実は悪性のがんであることが判明しました。その結果、子宮と両方の卵巣が摘出されました。子どもを産むための手術でがんとわかり、子どもを産めなくなった。そのことで私は混乱し、人間不信に陥りました。

それで再発予防のために主治医から抗がん剤治療を提案されたときも、副作用の怖さもあって二の足を踏まずにいられませんでした。

そんな私の背中を押してくれたのが、同じ卵巣がんで入院していた同室の女性患者さんでした。

「抗がん剤治療なんてちっとも怖くないよ」と、自らの治療の一部始終を私に見せてくれました。主治医と冗談を交わし、笑いあいながら点滴を受ける姿を目の当たりにして、私もタキソール(一般名パクリタキセル)とパラプラチン(一般名カルボプラチン)といった抗がん剤を併用するTC療法による治療を受けることにしたのです。

しかし、実際に治療を始めると、私を待ち受けていたのは予想を上回る副作用でした。

治療後3日たつと味覚障害のために食事が摂れなくなり、5日目頃からは1週間ほど両足がペンチで締めつけられるような関節痛が続きます。

その痛みの激しさに私は心がすさみ、主治医に「先生も1度、この痛みを味わってみればいい」と罵倒することもあったほどでした。

そんな私を主治医や同室の患者さん、チャプレンらが支え、励ましてくれました。でも3クールの抗がん剤治療期間中は、私は自分自身をコントロールすることができませんでした。

心を開いて医師と向き合う

写真:スマイリーの東京オフ会

患者やその家族が参加しておしゃべりをするスマイリーの東京オフ会

写真:リレーフォーライフにスマイリーで参加

9月に芦屋で開催されたリレーフォーライフにスマイリーで参加。写真は小倉恒子医師による講演会

その私が自分の非を理解するようになったのは、退院後しばらくたってからのことでした。

私と同じ卵巣がんを患っている患者さんから「もう使える抗がん剤がなくなった」と伝えられたのです。

同じ患者として何かできればと考えた私は、卵巣がん治療の世界標準薬として用いられているドキシル(一般名ドキソルビシン塩酸塩)という薬剤がまだ日本で承認されていないことを知り、ドラッグラグ(日本と海外との新薬承認の時間差)解消のために患者会、卵巣体験者の会スマイリーを立ち上げ、活動を始めることにしたのです。

そして、その過程で卵巣がんという病気やその治療法について勉強するうちに、自分がいかに無知であったかを痛感させられました。

私は副作用が起こるたびに、感情的になり、どうすれば副作用が抑えられるのかを考えようともしなかった。

たとえば関節の痛みは石鹸を溶かしたお湯でマッサージすれば和らぐし、しびれも薬で緩和できる場合もあります。抗がん剤について書かれた小冊子を見ればわかることもあるのですが、治療中当時の私はそんな情報源があることさえ知りませんでした。もっと心を開いて、素直に窮状を伝えれば、担当医も相談に乗ってくれたと思います。

同じことは、看護師さんや薬剤師さんとの関係にも当てはまります。病院には医師以外にも、さまざまな職種のスタッフがいます。その人たちの力を借りれば、もっと楽に抗がん剤治療を乗り切ることができたでしょう。

ネットで患者同士の情報を交換

「ティールリボンノート」

スマイリーが作成した小冊子「ティールリボンノート」

スマイリーは、会員同士がネット上で情報交換ができる仕組みを整えました。ネット上で会員の方から寄せられる情報には、抗がん剤治療に関するものも少なくありません。

たとえば卵巣がんの治療には、カンプト、トポテシン(一般名イリノテカン)という抗がん剤が用いられることもありますが、この薬は稀に重篤な体調不良を引き起こすことが知られています。そこでこの薬を使う場合には、抗がん剤の効果と副作用を予測するバイオマーカーを利用すればいいこと。また、しびれを抑えるためには、漢方薬を上手に使いこなす方法も考えられる――など、ネット上では、こうした患者同士のやり取りが絶えず行われ続けているのです。

また、スマイリーでは入会した患者さんにがん治療体験者からのアドバイスをまとめた小冊子を提供しています。この闘病ガイドには、自身の病状の把握ができる「自己管理表」もついていて副作用の記録もできます。

副作用をうまくコントロールしながら、抗がん剤治療を上手に乗り切るには、医師や病院との関係を良好に保つとともに、同じ病気と闘う患者同士のコミュニケーションも不可欠です。 自分1人ですべてを背負おうとはせずに、周囲の人たちの声や体験話にも素直に耳を傾け、ともにがん治療に闘う姿勢をもってもらえればと思っています。

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