抗がん剤治療を上手に乗り切るための患者サポート
意味のある人生を送るためにも、医療者と二人三脚で取り組むことが必要
小迫冨美恵さん
整ってきたがんの化学療法を受ける態勢と医療者からの援助
最近、がんの化学療法の現場が大きく変わりつつある。「がん看護専門看護師」や「がん化学療法看護認定看護師」が活躍し始め、がん患者とその家族へ温かい援助の手が積極的にさしのべられるようになってきた。
ご存じのようにがんの化学療法は手術や放射線、あるいは他の病気の薬物療法と大きく異なる。なによりもがん細胞を攻撃する抗がん剤などは正常細胞にも大きな影響を与えるため、副作用による心身の苦痛を伴うことが多い。
数回にわたる入院や長期にわたる投与が必要とされ、治療期間が長いことに加え、かならずしも十分な効果が期待できるとは限らず、治療に対する不安を募らせたり、効果が得られなかったときは悲嘆に暮れたりする患者が後を絶たないという事情から、がん患者への独自の援助が切実に求められてきた。
抗がん剤の点滴シーン
「がんの化学療法はその治療効果をはじめ、抗がん剤の副作用などが個々の患者さんごとに非常に異なっています。臨床試験で確認された奏効率や効果持続期間などの数値はあくまでも平均値であり、副作用として現れる症状は患者さんによって異なってきます。
『はたして私の場合にはどうなのか』という1人ひとりの患者さんの、切実な疑問にあらかじめ的確に答えることはできません。化学療法の途中で不安と迷いを募らせる患者さんは少なくありませんが、そうした患者さんを支援し闘病を支えていく環境は1歩1歩整えられてきています」
と語るのは横浜市立市民病院のがん看護専門看護師の小迫冨美恵さんだ。
同病院は今年の8月、神奈川県の「地域がん診療連携拠点病院」の指定を受けた。小迫さんのほかに化学療法看護認定看護師とがん性疼痛看護認定看護師、創傷・オストミー・失禁ケア(WOC)認定看護師、精神看護専門看護師がそれぞれ1人ずつ配置されているのも、がん患者とその家族を支援する環境づくりの一環だといえる。
医療者も積極的に取り組み始めた抗がん剤の副作用対策
- 嘔吐
- 悪心
- 脱毛
- 治療に対する不安
- 治療期間の長さ
- 注射による不快感
- 呼吸が速くなる呼吸速拍
- 全身倦怠感
- 睡眠不足
- 家族へのさまざまな負担
- 仕事ができないことによる焦燥感
- 心のよりどころがないこと
- 不安と緊張感
- 抑うつ感
- 体重の減少
[副作用の発現しやすい時期]
抗がん剤スタート | |
投与直後 | アレルギー反応、めまい、発熱、血管痛、耳下腺痛、悪心・嘔吐 |
2~3日 | 全身倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐 |
7~14日 | 口内炎、下痢、食欲不振、胃部重感、骨髄抑制 |
14~28日 | 臓器障害(骨髄、内分泌腺、生殖器、心、肝、腎、膵)、膀胱炎、皮膚の角化・肥厚、色素沈着、脱毛、神経衰弱、免疫不全 |
2~6カ月 | 肺線維症、うっ血性心不全 |
5~6年 | 2次発がん |
がん化学療法で患者がもっとも悩むのは、抗がん剤による悪心・嘔吐・脱毛・不快感などの副作用だ。とりわけ悪心や嘔吐は70~80パーセントの患者に出現するといわれ、生理的・心理的不快から闘病の意欲を失わせかねないので深刻だ。
悪心・嘔吐は発症時期によって、(1)抗がん剤投与開始後約1~2時間で現れる嘔吐(急性嘔吐)と、(2)抗がん剤投与後遅れて24~48時間ぐらいで発生する嘔吐(遅発性嘔吐)、(3)抗がん剤投与が近づいてくると現れるような嘔吐(予測性嘔吐)の3つのタイプに分けられる。
近年はグラニセトロン(5-HT3受容体拮抗薬)などの優れた制吐剤やデキサメタゾンなどのステロイド薬などでかなり急性嘔吐を抑えられるようになったが、依然として遅発性嘔吐や予測性嘔吐はきちんと抑える対処法が確立されていない。
率直にいって悪心・嘔吐だけでなく、痺れや全身倦怠感、口内炎、下痢、味覚の変化など、抗がん剤の副作用から生じるさまざまな症状の多くに現代医療はこれまで手つかずの状態だったといえるが、最近は医療者が積極的に取り組み解決の道を探り始めている。
「抗がん剤の投与日になると決まって気持ち悪くなったりする予測性嘔吐は、リラックスすることが予防に役立つといわれます。リラックスする方法は個々の患者さんごとに異なるので、患者さんは自らの希望をはっきりとナースなどの医療者に申し出ることが大切です」(小迫さん)
抗がん剤の投与中、愛用の使い慣れたクッションに身を任せたり、好きな音楽をCDで聴いたり、ゲームに集中して気を紛らわせるなど、患者の希望は積極的にかなえられるようになってきた。
もともと抗がん剤の副作用を考えるうえで重要なのは、1人ひとりの患者によって副作用の大小やその出方が異なるなど個別性が非常に高いということだ。
たとえば、制吐剤の投与によって急性嘔吐のすべてが抑えられるというわけではなく、患者によってはわずかな効果しか得られないこともある。患者ごとにアレンジして制吐剤の投与を工夫することが大切なのであり、そのためには患者自身が医師や看護師に自らの悪心・嘔吐に関して細かな情報を伝えていく必要がある。
「その症状を体験している患者さんにしかわからない痺れやだるさなどは、日常生活の中でとくに困るのはどのようなときか、強くなったり、軽くなったりするのはどのようなときかなど、患者さんの訴えが非常に重要なデータとして蓄積され、適切な対処法を確立するためのヒントになる可能性が大きいのです」(小迫さん)
医療者は患者からの副作用情報を積極的に求めており、患者も遠慮しないでナースや医師に副作用で困っていること、対処していることなど、主体的に話し合っていくことが必要とされている。
- 少しずつゆっくり食べる
- よく咀嚼する
- 無理した量を食べない
- 少量のスナックを食べる
- 食後は休息する。横になる場合は、必ず頭部が足より10cmほど高くなるようにする
- 頻回に水分を補給する
- 戸外の新鮮な空気を吸う
- 熱い食べ物、においの強い食べ物、脂肪性の食品は避ける
- 悪心を感じたら、音楽など、自分が楽しめることをする
- 悪心が起きたときは、クラッカーや堅いキャンディを食べる
- 嘔吐したら、口をすすぎ、カリウムを補給する(オレンジ、アンズ、イチジク、ミルクなど)
- 皮膚や口の渇きなどを指標に、脱水症に注意する
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