抗がん剤の副作用対策 PART1
その軽減法と乗り切り方
がん化学療法看護認定看護師の
中島和子さん
なかじま かずこ
1988年国立療養所兵庫中央病院付属看護学校卒業後、同病院外科病棟、千葉県がんセンターの勤務を経て、02年静岡県立静岡がんセンター呼吸器科病棟副主任。
同年がん化学療法看護認定看護師取得。
03年同センター呼吸器科病棟副看護師長、05年血液幹細胞移植・小児科病棟勤務。
抗がん剤治療の現状は?
抗がん剤や吐き気止めの開発が進み、外来化学療法が増えている
この数年の間に、抗がん剤治療は急速に進歩し、大きく様変わりしているといわれています。静岡がんセンター・がん化学療法看護認定看護師の中島和子さんは、最近の傾向についてこう話します。
「最近では、通院で抗がん剤治療を行う“外来化学療法”が増えてきました。現在、当センターでは、入院して化学療法を受ける方が約4割で、6割の方が外来(通院治療センター)で治療を受けています。初回(1コース目)は入院して治療し、副作用などの様子をみて、2コース目からは外来にシフトしていく、というケースも多いですね」
- 虫歯の治療を済ませておこう
- 栄養と睡眠を十分にとって、体力を温存
- 医師、看護師、友人など、気持ちを出せる相手を見つける
- 当日は、腕を出しやすく、リラックスできる服装で
- 外来治療中、持参したおにぎりやサンドイッチを食べてもOK
- 点滴中は、CDやMD、好みの本で気分転換
- 1日1リットル程度を目安に、スポーツドリンクなどで水分補給を
- 点滴当日も入浴OK。骨髄抑制があるときは1番風呂に
- 食欲がないときは、食べたいものを食べたいときに
従来は、吐き気などの副作用が強く出る場合、副作用ケアのために入院する必要がありましたが、近年、新しい抗がん剤や制吐剤の開発が進み、レジメン(組み合わせ)や投与方法なども工夫され、副作用をコントロールしやすくなったため、通院での治療が可能になってきたといいます(注1)。
「たとえば、1カ月に1回のマンスリー投与では強い副作用が出る抗がん剤でも、週1回ずつ分割して行うウィークリー投与なら副作用も緩和され、自宅で体調を整えながら日常生活を送ることができます」
入院か通院か、1回の治療にどのくらいの時間がかかるのかは、抗がん剤の種類やレジメンなどによって異なります。
乳がんの術前・術後の補助療法などは、ほとんど外来で行われています。所要時間はおおむね3時間前後。全行程30分から1時間程度の短時間で終わる治療法もあります。
「白血病などの血液疾患や大量化学療法の場合は入院治療となります。このほか、食道がんの場合(約7~15日間)や、大腸がん治療で最近よく用いられるようになったFOLFOXで治療する場合、初回治療では点滴管理(静脈ポート管理)をかねた短期の教育入院が約7日間程度必要となる治療法もあります」
シスプラチン(商品名ブリプラチン等)という抗がん剤は、「切れ味がよい」といわれ、いろいろながん治療のキードラッグ(ベース)として使われていますが、強い吐き気を生じやすく、さらに腎臓にも負担をかけるので、大量の水分を点滴で補給し、腎臓に抗がん剤が蓄積されないよう、尿中に排泄させる予防的なプロセスが欠かせません。そのため、以前は入院しなければ使いにくい抗がん剤の代表格でしたが、最近では、制吐剤の効果や、新しい抗がん剤との組み合わせなどによって、入院期間が短縮されているそうです。
「肺がんの化学療法で、シスプラチンをキードラッグにして、新規抗がん剤のジェムザール(一般名ゲムシタビン)、タキソテール(一般名ドセタキセル)、ナベルビン(一般名ビノレルビン)などを加える治療法があります。最近は、制吐剤で吐き気をかなり抑えることができるようになったため、シスプラチン投与時だけ、水分補給の点滴のために4日間入院し、8日目(または15日目)のジェムザールの投与(1時間)は外来で行っています(図1参照)」
また、シスプラチンと同様のプラチナ製剤で、腎臓への負担が少なく、大量の水分補給の不要なカルボプラチン(商品名パラプラチン)も登場。シスプラチンの代わりに用いることで、通院治療がより容易になっています。
注1外来化学療法は診療報酬が加算される制度があり、医療機関にとってもメリットになる
点滴中はずっと抗がん剤を入れるの?
吐き気止めや水分補給も含まれる。抗がん剤の投与は、短いケースも
「初めて抗がん剤治療を受ける方は、これからどんな治療が行われるのか、どんな副作用が出るのか、不安を感じることが多いので、当センターでは、医師、看護師、薬剤師の3者がそれぞれの立場で説明しています。治療が予定されている方は、使われる抗がん剤名、投与方法、投与スケジュール、副作用のことなどを担当医や看護師さんに確認し、正しく理解しておくとよいですね。余分な不安や恐怖感を解消し、副作用を軽減する第1歩になります」
点滴をするときは、抗がん剤だけを24時間続けて投与するものだと思っている患者さんも多いとか。
「点滴には、吐き気止めや水分補給用の輸液など、いろいろな薬剤が用いられるため、点滴全体の時間が長いものでも、抗がん剤自体の投与時間は短いケースが多いのです」
どういう薬剤をどのような順序で点滴するのかはレジメンによって違いますが、ご参考までに具体例を2つご紹介します。
●シスプラチンとジェムザール併用療法
前述の「シスプラチンとジェムザールの併用療法」(図1、図2参照)では、1日目に入院し、10本のボトルを続けて点滴。全行程に約11時間かかり、総点滴量は4リットル弱ですが、そのうち抗がん剤はジェムザール30分、シスプラチン60分の合計1時間半だけ。あとは、水分補給のための輸液や吐き気止め、利尿剤などです。
入院2、3日目は吐き気止め(30分)と水分補給(3時間)を点滴で行うのみで、抗がん剤の投与はありません。4日目に副作用の状態などをチェックして退院となることが多いそうです。8日目(または15日目)は外来で吐き気止め(30分)とジェムザール(30分)を計1時間点滴して終了。
2コース目以降も入院治療と外来治療で行います。
「11時間点滴、4日間入院、という情報だけでは、不安が増したり、ひるんだりしがちですが、薬剤の種類や投与スケジュールなどを知って、きちんと理解していれば、余計な不安や恐怖心を持たずにすみます」
●毎週投与タキソール+ハーセプチン療法
乳がん等を対象によく行われている、毎週(ウィークリー)投与の治療法です。タキソール(一般名パクリタキセル)によるアレルギー症状(後述)を予防するため、まず錠剤(レスタミン錠)を飲み、吐き気と胃症状を緩和しながらアレルギー予防にも効果のある点滴(デカドロン注射液)を10分行い、吐き気止め(カイトリル)を20分間点滴。この後、タキソールを1時間~1時間半、分子標的薬のハーセプチン(一般名トラスツズマブ)を1時間~1時間半行います。3~4時間で終了。
静岡がんセンターの取り組み
医師、看護師、薬剤師が連携し、患者さんをサポート
4年前の開院当初から、患者さんの視点を重視してがん医療に取り組んでいる静岡がんセンターでは、抗がん剤治療を受ける患者さんにも、医師、看護師、薬剤師の3者が協力して治療前からサポートしています。
「患者さんの多くは、抗がん剤治療への不安が強いものですし、初めてがんと診断されてショックを受けている時期に、そのまま抗がん剤治療に入っていく場合などはとくに1回の説明だけではなかなか受け止めきれないことが多いものです。そこで当センターでは、医師、看護師、薬剤師が連携してそれぞれの専門分野から十分に説明し、治療に臨んでいます。治療がスタートしてからも、がん専門看護師(化学療法専門領域2名、緩和ケア担当1名)や、がん化学療法認定看護師(1名)が、副作用対策について助言しています。
初回から外来で化学療法を受ける方や、不安の強い方などには、通院治療センターで面談によるコンサルテーションを行うほか、自宅で副作用が現れた場合に備えて、24時間電話相談を受けつけ、夜間は当直の看護師が相談にあたっています」(中島さん)
同センターでは、電子カルテの導入により、患者さんのID番号とがんの種類や治療法、症状などを伝えるだけでカルテを呼び出すことができ、即刻対応することが可能です。
どこの医療機関でも、いつでも副作用の相談に乗ってもらえるようになれば、患者さんも心強いのではないでしょうか。
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