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治療不能だった難しい場所のがんにも、切らずに対処できる 肝臓がんや肺がんの最新の武器、CT透視下ラジオ波凝固療法の威力

監修●保本 卓 市立吹田市民病院放射線科医師
取材・文●塚田真紀子
発行:2005年12月
更新:2019年8月

  

やすもと たく
放射線科医師の保本卓さん

やすもと たく
1974年1月生まれ。放射線科医。
1998年岡山大学医学部を卒業後、同年5月より大阪大学医学部付属病院放射線科にて研修。
大阪労災病院放射線科、大阪警察病院、箕面市立病院を経て、2002年より現職。
日本医学放射線学会専門医。専門は腹部画像診断とIVR、肝臓がんの非手術療法(動脈塞栓術、ラジオ波凝固療法)、肺がん・腎がんのラジオ波凝固療法。
モットーは「切らずに治す」


三浦捷一さんの再発体験

みうら しょういち 1936年2月生まれ。医師。済生会中津病院産婦人科医であった85年12月、過労で倒れるとともに、C型肝炎が肝硬変に進んでいることを知る。その後、1年間の休養を経て、88年に三浦クリニックを開業。内科診療に携わる

「そらぁ、再発はショックですよ。初めてがんと言われた時と同じようなもんや。特に今回は、治療法がないのではと、余計にショックが大きかった。がんが、治療の非常に難しい肝臓の奥と、肺の胸膜にへばりつくようなところに見つかったから」

2005年5月30日。大阪で三浦クリニックを開業している医師の三浦捷一さんは、肝臓がんがまたも再発し、しかも初めて肺へ転移していることを知った。

肝臓がんの発病は、約6年前の1999年12月だった。以来、何度となく再発とリンパ節転移に直面しながらも、三浦さんは「癌治療薬早期認可を求める会」という患者会を立ち上げ、未承認抗がん剤の早期認可を求めて、国会請願を始めとする積極的な活動を展開してきた。

2005年5月28日には大阪で、第1回の「がん患者大集会」を実行委員会の代表として、実現させた。これは、がん患者とその家族ら約1,800人が一堂に会し、「患者の視点」でがん医療について意見を出し合うという、かつてない試みだ。その場で、三浦さんらは尾辻厚生労働大臣に直接、「患者主体のがん情報センターの早期設立」を要望した。

この準備のため、その頃の三浦さんの生活はとても慌ただしかった。検査を受けに行く時間さえない。3~4カ月間、まったく病院に行かなかった。“どうせ再発が見つかったとしても、今は入院して治療を受ける時間などない”と諦めていた。

治療できない2つのがん

この大集会が終わった2日後、ようやく三浦さんは入院した。検査の結果、肝臓への再発と肺への転移が判明。直ちに治療が始まったのである。

肝臓のがん(4センチ)は、大血管、門脈、胆管などに囲まれた難しい位置にできていた。周囲に危険物が多すぎて手術はできないし、深部なので超音波も届かない。三浦さんは、わずかに可能性のある動脈塞栓術(TAE)を受けた。

これは、がんに栄養を運んでいる血管へ、動脈を塞ぐ薬や抗がん剤を注入する治療法だ。がんの増殖を兵糧攻めや薬漬けによって鎮める。


マルチCTという装置を駆使して治療を行なう保本卓さん

しかし、細い血管が絡み合う難しい場所なので、その方法も思うようにはいかなかった。

一方、肺のほうは、中心部分と胸膜のそばの2カ所にがんができていた。中心部分は放射線治療のピンポイント照射で治療したものの、胸膜に接したがん(5ミリ)にはそれができない。放射線が皮膚や肋骨に強く当たり過ぎて、壊死や骨折が起きる可能性が大きいからだ。まだ小さいものの、がん性胸膜炎を引き起こす恐れもあって、三浦さんは落ち着いていられなかった。

退院後、“治療できない”2つのがんを抱え、治療情報を探し求めた。すると、知り合いの放射線科医から「まだ治療できるかもしれませんよ」と朗報がもたらされた。それが「CT透視を用いたラジオ波凝固療法」だった。

CT透視には死角がない

肝臓がんの治療法の1つ、「ラジオ波凝固療法」は、超音波で腫瘍を見ながら、そこに皮膚から針を刺し、針の先端から電磁波(450キロヘルツ)を流してがんを焼く方法だ(「ラジオ波焼灼術」とも言う)。針(3~4センチ)の周囲の組織は70~80度に温められ、ラグビーボール状に焼かれる。

手術と違って、身体を切らずに治療できるのが大きなメリットだ。1回の治療で確実な効果がある。身体への負担が小さく、短期間の入院で済む。しかも化学療法や動脈塞栓術などとの併用もできる。

ただ、超音波でがんがはっきり見えなければ、治療はできない。針先がどこを刺してしまうか、わからないからだ。

たとえば、正面から見て、肝臓の左上の、横隔膜がかぶさっている部分。横隔膜上の肺(空気)がじゃまをして、超音波はそれ以上に進めず、その先にあるがんは見えにくい。また、今回、三浦さんが経験した肝臓の中心にできたがんは、超音波が届きにくい深部で、はっきり映らない。その他、肝臓の外側に突出した腫瘍も見えにくく、肋骨の陰という「超音波の死角」にできたがんもうまく映らない。

ところが、超音波の代わりにCTを使うと、画像が鮮明になる。しかも、最新の機器には、画像をテレビモニターでリアルタイムの「動画」として見ることのできる透視機能が搭載されている。

このようなCT透視を利用したラジオ波凝固療法には、超音波の欠点をカバーする、次のようなメリットがある。

(1)死角がない。超音波で見えない場所でも、正確に針を進めることができる。

(2)情報に客観性がある。超音波の場合、どの方向から画像を見たのかは、正確には検査をした本人にしかわからない。CT画像の場合、誰が見ても腫瘍の位置が明らか。

(3)息を止めるのがつらい人でも、受けられる。肝臓が呼吸の動きで上下しても、その瞬間を動画として見られるので、超音波の場合と違い、針を刺している間も患者は無理に息を止めなくてもいい。

(4)がんを焼いた直後によく小さな泡が発生するが、それが出ても、腫瘍がはっきり見える(超音波の場合は、視界が悪くなる)。そのため、2度、3度と続けて針を刺すことができる(大きいがんの場合)。

ただし、デメリットとして、医師の被曝量が多いことが挙げられる。

難しい位置だが、治療します


ラジオ波凝固療法の装置

この針の先端から電磁波が放出されがんを焼いていく

ラジオ波では一定の範囲を確実に焼くことが可能。
肝臓がんは被膜も含めて周りも十分に焼くことが重要

「CT透視を用いたラジオ波凝固療法」は、画像応用治療(IVR)と呼ばれる、画像を見ながら放射線診断技術を治療に応用する分野(動脈塞栓術、動注療法、血管形成術、ドレナージ術、ステント留置術など多くの治療が含まれる)の中でも、最も新しい治療法だ。CT画像を細かく読み解く能力と、画像を見ながら正確に針を進める技術が必要なこともあり、まだわずかな医療機関でしか行われていない。

装置としては、CT透視の機能のついたマルチCT(従来のCTよりも画像がたくさん得られる装置)があればできる。

三浦さんは「市立吹田市民病院の放射線科医がこの治療をやっている」という情報を得た。大阪府内の病院だ。

肝臓だけでも治療ができればと、三浦さんは9月初め、同病院を受診した。この治療法は放射線科医の保本卓さんが担当している。彼は、三浦さんのCT画像を示しながら詳しく説明し、「難しい位置ですが、なんとか治療します」と言った。その瞬間、三浦さんの口元がほころんだ。

「へぇー、こんなことができるんか! と驚いた」と、三浦さんは当時を振り返る。

いったい“どんなこと”ができるのだろうか。


血管に近いがんにも針が刺せる

マルチCTという装置を使えば、3つの画像を同時に見ることができる。針を刺す位置を映したものと、その上下の画像だ。その画像の厚みは1ミリ単位で自由に変えられる。画像の精度が高いので、血管に近いがん、胆嚢や胃などに接しているがんも安全に治療できる。

[CT透視を用いたラジオ波凝固療法]

CT透視を使えば、超音波では見えなかった場所のがんも治療できる

まず身体を輪切りにするCT画像を撮り、どこに腫瘍があるのかを確認する。次に、数本のカテーテル
で作った格子(「グリッド」と呼ばれる)を皮膚に貼って、再度、CTで撮影する。すると、カテーテルが皮膚上に点線のように映り、針を刺す目印になる。



腫瘍の位置を確認するための、
カテーテルで作ったグリッド

グリッドが点で描出される。
これが針を刺す目印になる

あとは、画像で血管や神経、他の臓器など障害物を避けてがんに到達する「安全なルート」を決める。

その道筋が正確かどうかは、実際に針を進めながら確認することができる。がんのある方向に針を少し刺したところで、CTを撮影。すると、針の延長線上に、黒い影のような線が映る。これはX線が金属(針)に吸収されてできた線だ。この線の延長線上にがんがあれば、この方向ががんに至るルートだ。

「がんにしっかりと針を刺し、がんの周囲まで確実に焼くのが、ラジオ波凝固療法のいちばんのポイントです」と、保本さんは言う。でないと、焼けきらずに残った部分から再発してしまう。この場合も、画像が鮮明なCT透視は有用だ。


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