がんのチーム医療・施設訪問10
がん・感染症センター都立駒込病院(東京・文京区)

患者さんの期待に応えるために院内スタッフ全員が唱える「ルール遵守と確認行動」

取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2015年4月
更新:2016年9月

  

ヒューマン・エラーを最小限にするために
黒井克昌さん がん・感染症センター都立駒込病院副院長(乳腺外科)

患者さんに最適な医療を提供したいというのが我々医療者の願いですが、その土台となるものが「安全」です。

患者さんたちは医療体制、医療者に完全を求め、それを前提に治療を受けます。我々はそれに応えなければなりませんが、残念ながら医療者も人間である以上、ヒューマン・エラーは起こり得ます。そして、誤解や思い違いが大きな部分を占めています。それをいかに減らすか、それが安全対策室の存在意義です。

「ひょっとして」という意識

東京都では、1999年度より都立病院全体で共通のスローガンを掲げて活動しており、2014年は本文にもありますが、「ルールを理解し、確認行動を徹底する」です。当院では、これまでもテーマを毎年設定して安全の徹底を図ってきました。例えば「診察録監査」と称して、記載内容が適正かどうかをチェックした年もありました。そのような取り組みの重要性を再認識しています。

安全の徹底を薬剤の処方を例に見てみます。名前の似た医薬品は思わぬ取り違えが生じかねない部分。まずはオーダーする医師が間違わないこと、次に薬剤師が気づくこと、入院中なら看護師がチェックする機会もあります。医療側ではこのようにどの時点でも、「ひょっとして間違っているかも」というスタンスでチェックを繰り返していますが、最後には受け取った患者さんにも注意していただきたいと思います。

患者さんとのコミュニケーションが第一

私は乳がんの手術をしますが、この領域で最も注意が必要なのは左右の取り違えと術式の間違えです。私は思い込みを避けるため、初診時から身体所見と画像所見を何度も見て確認を続けます。患者さんへの説明でも丁寧にお話しし、カルテにその都度記載します。手術前日に手術部位と術式のマーキングを行い、手術室でも直前の確認をします。当たり前のようですが、このようなことの積み重ねが患者さんの信頼に応えることになります。

安全の基礎は、患者さんとのコミュニケーションにあります。スタッフには、常に患者さんの顔を見て話をするように注意喚起しています。人間関係が何よりも大切で、その密接さによって誤解や思い違いを解消できると思っています。患者さんもご自身の「安全」を意識いただき、細かな確認活動などにご協力いただければと思います。

医療安全対策室の独自の取り組み

患者さんの信頼を得た上での治療を行うときに土台となるのが「安全」だ。がん・感染症センター都立駒込病院では、ある〝ヒーロー〟の力を借りて、「安全」の確立・徹底に努めている。同院医療安全対策室の独自の取り組みを紹介する。

腕章を巻いて、院内パトロール開始スタンバイ

黒井さんらの質問に答える看護師の加藤仁美さん

「こまごめセーフマン」が訴えること

「この5人が私たちのヒーローです。格好いいでしょう?」

「こまごめセーフマン」発案者の看護師 阿部貴子さん

「こまごめセーフマン」のバッチと腕章

都立駒込病院の看護師たちは、5色のスーツをまとった「こまごめセーフマン」のバッチを付けている。その名は、指差しレッド、声出しブルー、立ち止まってグリーン、深呼吸ピンク、そして What’s your name? イエロー。2008年から同病院の安全を守っている。発案者で看護師の阿部貴子さんは、「患者さんを確認する行動をそれぞれがポーズで表現しています。5人で患者さんの〝誤認〟を防いでくれるように願いを込めました」と説明した。

患者さんの本人確認は、安全な治療の基本中の基本だ。半年に1度はセーフマンたちの力を借りて院内でキャンペーンを張り、スタッフへの周知徹底を図っている。その取り組みは2010年の日本予防医学リスクマネジメント学会で優秀賞を獲得するほどのインパクトだ。5人のうち、グリーンの役割が気になる。

「動作をするだけでは不十分です。いかに本人が注意を払っているかが大切なので、何かをしながらではなくて、『立ち止まって確認作業に集中しよう』と呼びかけているのです」

阿部さんはさらに、セーフマンの働きぶりを続けた。

「患者さんに『何、それ?』って興味を持っていただけます。本人確認を徹底していることを説明するきっかけにもなり、患者さんたちの協力が得られやすくなります」

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