私が目指すがん医療 11
~専門職としての取り組み、患者さんへの思い~

薬剤師も看護師も医療秘書も――チーム全員の高いレベルの仕事が最良の治療をもたらす

川口英俊 松山赤十字病院乳腺外科部長
取材・文●植田博美
発行:2015年4月
更新:2019年7月

  

かわぐち ひでとし 1994年佐賀医科大学医学部卒業。宗像医師会病院、九州大学病院、九州大学大学院、社会保険仲原病院、壱岐公立病院副院長、米国MDアンダーソンがんセンター、貝塚病院、国立病院機構九州がんセンターを経て、2012年松山赤十字病院乳腺外科勤務、2013年同部長。日本外科学会指導医、日本外科学会専門医、日本乳癌学会乳腺専門医、日本乳癌学会認定医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医等

全国でもまだ珍しい全科統一のCDTM(医師と薬剤師による共同薬物治療管理)を実施している松山赤十字病院(愛媛県)の乳腺外科医・川口英俊さんは、このシステムをさらに発展させた〝薬剤師外来〟などの様々なアイデアでチーム医療を推進、成功させている。取り組みの内容や、チーム医療への思いなどを伺った。

患者さんの命(予後)を延ばす

今治市のゆるキャラ「バリィさん」のピンクリボンバッチを考案。松山赤十字病院の多職種スタッフとともに参加した2013年のP-1コンテストで見事1位を獲得

同科では、川口さん、放射線科医、病理医、乳がん看護認定看護師、外来化学療法専任薬剤師、検査技師ら20数人によるチーム医療が行われている。

「チーム医療の明確な目的は、患者さんの命(予後)を延ばすことです。乳がん患者さんの予後は20~30年前と比べて劇的に改善しました。現在、再発乳がん患者さんの5年生存率は50%超と推測されています。しかしこれは治療を継続すればの話。乳がん患者さんに多い40~50歳代の女性は、子育てや仕事、家庭など様々な理由で最も治療を続けにくい世代なので、あらゆる面でのサポートが必要です。それにはチーム医療が欠かせません」

例えばどんな取り組みなのだろうか。

「1つは就労支援。再就職ではなく〝辞めさせない〟ことが目的です。がん告知を受けた患者さんの約30%が仕事を辞めるというデータがあります。私は仕事をもつ患者さんにがん告知をするとき、必ず次の3つを伝えます。①自らの退職判断は先送りにすること、②再就職は非常に困難なこと、③会社から退職を勧告された場合は主治医が会社側に説明を行うことも可能であること、です。その後、今後の治療などの情報提供を行います。この支援を始めて1年半になりますが、仕事を辞めたのは2人だけです。今後は医療秘書に詳しい就労内容の確認にかかわってもらう予定です」

CDTMをさらに発展させた『薬剤師外来』

CDTMは、医師と薬剤師が契約を結び、プロトコール(手順書)に従う範囲で、薬剤師の処方・検査オーダーが可能となるシステムです。当院では、がん化学療法部会が推進し、全科統一で契約しています。

昨年(2014年)からそれをさらに進めて、薬剤師の診察前面談、いわゆる『薬剤師外来』を開始しました。医師の診察の前に薬剤師が患者さんと面談して副作用などを聞き、処方提案まで行います。アメリカでは一般的に行われている方法ですが、日本ではまだ少数でしょう。

私は薬剤師が積極的に患者さんと接することで、薬に関する責任と仕事に対するモチベーションアップにつなげて欲しいと思っています。また、心のサポートが必要な患者さんのために、医師の診察の前後に認定看護師が対応する『がん看護外来』があります。どの患者さんにどう対応するかは、朝のミーティングで、医師、薬剤師、看護師の3人で相談します。

チームメンバーには、高いレベルの仕事を要求します。成功すれば褒め、失敗したら私が責任を負う。それが、患者さんにとって最良の治療につながると信じています」

CDTM=Collaborative Drug Therapy Management

『前つんのめい』で仕事する

「私の信条は『前つんのめいで仕事する』。故郷の鹿児島の言葉で、前につんのめるようにがむしゃらに泥臭く頑張るという意味です。私が前つんのめいで頑張る姿勢を周囲に示すことが大事と思っています」

前つんのめいで仕事する川口さんのバックグラウンドには、家族の姿がある。

「3歳の頃、リウマチで寝たきりの祖母がいました。母に病気には治るものと治らないものがあると聞き、僕が医者になっておばあちゃんを治すと言ったそうです。その母も今は末期の胃がんです。私は祖母に何もできなかった上に、母にもまだ何もできていない。

医者になった目標の1つは、より良い新しい治療法を見つけることです。私が実行委員長を務める臨床試験で良好な結果が出ればようやく半歩、目標に近づけるのではないかと思っています。母が生きている間に何かを成し遂げたい、それが今、私を支えているものです」

いまHOTな話題 ― 煩雑な薬剤費がすぐにわかる計算ツールを開発

「モノを買う時は値段を確かめる。治療費だって同じではないか」と、チームの看護師が提案したのが最初です。薬剤費の計算は非常に難しく、医師は治療法を説明する際も薬剤費の提示はしませんでした。レジメンや投与量を知らない医療事務員も計算は困難です。そこで、メンバーの薬剤師が簡単に計算できるツールを苦労して作ってくれました。計算ツールは、その薬剤師と私とによる監修のもと、日本ケミファ株式会社が開発し、春ごろから提供される予定です」

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