わたしの町の在宅クリニック 1 三つ葉在宅クリニック

イメージは料亭のおもてなし。患者さんに合わせた個別在宅医療を

取材・文 ●黒木 要
発行:2014年4月
更新:2020年1月

  

医療法人三つ葉代表の
舩木良真さん
三つ葉在宅クリニック
 
〒466-0015 名古屋市昭和区御器所通3-12
御器所ステーションビル3F
TEL:052-858-3281 FAX:052-858-3282
URL:www.mitsuba-clinic.jp/
 
●受け持ち在宅患者さん数……約750人
●定期訪問数……約1,780回/1カ月
●緊急往診数……約180回/1カ月
●自宅での看取り人……130人
 


がん患者さんには自宅での療養を望む人が少なからずいる。その要望に応え、患者さんの〝居宅〟に医師が訪ねて診療を行うのが「在宅医療」だ。名古屋市の医療法人三つ葉代表・舩木ふなき良真さんは「在宅医療の根本は、患者さんご本人の意思を尊重し、その人らしく生きるためのサポートをすることです」という。

患者さんと対話を尽くし要望を聞く

名古屋市にある三つ葉在宅クリニックが、開業時の2005年から最重要理念として掲げているのが、「患者さん中心」の在宅医療である。

患者さんはどんな医療を受け、どんな療養生活を送りたいのか――疼痛管理、呼吸管理、重篤な持病管理などの医療上の要望はもとより、残された時間を家族と楽しく過ごしたい、家族に負担をかけずに1人で安らかに過ごしたい、やり残したことを成し遂げたい、というような個人の価値観・信条や死生観に基づく要望、スピリチュアルな要望まで様々だ。

「私たちのクリニックには8人の常勤医、11人の非常勤医がいて負担をシェアしながら24時間365日を可能にしています。その中で、患者さん1人ひとりの病状を、毎日2回のカンファレンスによって、関わる医師全員が把握し、容体の急変などの緊急時の呼び出しにも対応するほか、患者さんやご家族がどんな治療や過ごし方を望んでいるのかなども共有して、どの医師でも同じ対応ができる体制をつくっています」と舩木さんは話す。

また連携する訪問看護ステーションは約80カ所、ケアマネジャーは約200人に上り、患者さんの病状や生活環境、要望に可能な限り答えるべく、すべての患者さんに対し、個別のプロジェクトを組んでいる。

同院では訪問や往診の度に、その場で診療記録を患者さんや家族に渡すようにしている。診療記録はその後、訪問した介護スタッフも見られるので、患者さんを中心とした在宅医療に必須である情報共有の有力なツールとなっている。

■当院利用患者さんの疾患
■患者さんを中心とした医療連携

意思決定のサポートも

患者さんの居宅で診療する舩木さん(右)。「患者さん中心の在宅医療」が三つ葉在宅クリニックの信条だ

患者さんやご家族にはどんな医療を受け、どんな療養を送りたいかを言葉にできない人も数多くいる。

「その原因としては、現在の病状や病気が今後時間的経過と共にどのように推移していくか、よく理解されていないことがあります。そのご理解のお手伝いをするのも私たちの役目です」

在宅医療への要望は一度聞き出しても、病状の変化によって変わることもあるので、その節目ごとでの確認も行う。

「患者さんのために」という医師の思いが強く出過ぎ、患者さんや家族が受け身になってしまったケースがかつてあった。
そのときは「患者さんやご家族を飛び越して議論しても、それは空論になる」として、患者さんの価値観を共有すべく、舩木さんは、スタッフに召集をかけ、患者さんの前で話し合った。

「患者さん中心の在宅医療は、掛け声でも謳い文句でもなく、実現すべきものとして絶えず意識していなければならないことなのです」と当時を振り返る。

在宅医療をライフワークに

舩木さんが在宅医療に進むきっかけの1つとして大学病院での研修体験を挙げることができる。医療者と入院患者さんの間に度々生じる意識の溝は何故起こるのか、研修医として、また当事者として関心を持ったからだ。

「ベッドサイドで話を聞くだけで喜ぶ患者さんがいて、症状さえ改善する場合がある。まずその事実に驚きました。同時に患者さんに頼られる喜びを感じている自分にも気づいたのです」

そんな折、学会のシンポジウムで在宅医療に携わる医師たちの生き生きとした表情を目の当たりにしたのが、医師としての進路を決める決定打となった。

その後の行動は早く、東京で良質の在宅医療を行っているクリニックを見つけ、1年間勤務した。そして志を共有する仲間と4人で旗揚げしたのが三つ葉在宅クリニックだ。学閥や地域の医師会などのコネクションには一切頼らなかったので、患者さんゼロからの開業だった。

在宅医療を上手に利用してほしい

舩木さんは患者さん中心の在宅医療を行うために、患者さんや家族も、在宅医療クリニックをうまく利用するコツを知って欲しい、と言う。

それは在宅医療に望むことを、患者さんと家族がよく話し合って明確にしておくということだ。患者さんと家族の意見が対立することがよくあって、医療者も含む3者とも満足がいかないことがあるという。

例えばQOL(生活の質)を最優先するか、一日でも長く延命をするため積極的な医療も行うか、といった食い違いである。

「3者間で目標の共有と信頼関係の構築がなければ、納得のいく在宅医療は成立しません。私が考えている在宅医療は料亭のイメージです。顧客の好みや体調に合わせて、そのとき一番の素材を最もふさわしい調理法で提供します。顧客の好みはその都度、データベースに蓄えていき、おもてなしの精度を高めていきます。双方の信頼関係がベースにあるオーダーメイドのサービスであることは、料亭も在宅医療も同じです」

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