わたしの町の在宅クリニック 3 ケアタウン小平クリニック

ホスピスケアからコミュニティケアへ

取材・文 ●黒木 要
発行:2014年6月
更新:2020年1月

  

ケアタウン小平クリニック院長の山崎章郎さん
在宅療養支援診療所 ケアタウン小平クリニック
 
〒187-0012 東京都小平市御幸町131-5
TEL/FAX:042-321-7575
URL:caretownkodaira.net/clinic/
 


市民病院の外科医だった山崎章郎さんは、人が最期を過ごす場所として一般の病院はふさわしくないと考えるようになり、その後14年間は聖ヨハネ会桜町病院(小金井市)のホスピス医として仕事をした。さらにそこで経験したケアを地域社会の中に広げていきたいと思うようになり、2005年にケアウン小平クリニックを開設した。自らが掲げた地域の人とつながった在宅ホスピスケアはどこまで実現したのだろうか。

現状のホスピスケアから課題を見つける

ケアタウン小平クリニックは都心近郊の有名ゴルフ場に隣接する住宅地の一角にある。建物は3階建てで、1階には山崎さんのクリニック(常勤医3人)やNPO法人が運営する訪問看護ステーション、デイサービスセンター、居宅介護支援事業所が軒を並べている 。在宅ケアを支える基本的な支援事業が壁ひとつ隔てて同じ建物に集約されているのだ。

2階と3階には建物全体の管理をしている有限会社が運営するバリアフリーアパートがある。計21戸で1室は約10畳のワンルームが基本。車椅子でアプローチできるトイレやシャワー室があり、床暖房も付いている。

これらは、どれもが明確な意図を持って当初から設計プランに組み込まれていた。なぜこのような〝寄り合い所帯〟のような〝場〟が必要だったのだろう?

「我が国のホスピスは制度上、病院の一部である緩和ケア病棟として位置づけられています。各施設、患者さんやご家族が療養しやすい環境やケアを提供しようとしていますが、どうしても医療の視点になってしまいがちです。ホスピスケアの第1の目標は患者さんやご家族の生活支援・人生支援です。すなわちホスピスは生活の場であり病棟ではないのです」

ホスピスケアと在宅ケアの融合を目指す

山崎さんは続ける。

「また施設ホスピスは医療保険の制度上の縛りもあって、結果的にその対象のほとんどが、がん患者さんになっています。しかしホスピスは本来、人生の困難に直面する全ての人を支援する普遍的なケアです。この優れたケアをもっと広めるには、私たちが施設という枠を出て、支援を必要とする人々のお宅に訪問する、在宅ホスピスケアがよいのではないか、そう思うようになりました。幸いその主旨に賛同する仲間との出会い等があり、ケアタウン小平プロジェクトがスタートしたのです」

山崎さんの頭の中には、ホスピスケアと在宅ケアが融合した新しいケアのイメージがあった。そのケアをするには、高度なレベルのチームケアを実践する必要があった。「そのためには、チームはいつでも顔を合わせ、直接、生の言葉や想いを交わすことができる距離にいて、意思疎通を図ることが望ましいのです」

在宅の力、地域の力

こうしてケアタウン小平クリニックがスタートした。患者さんや家族の生活・人生を支援するというコンセプトを貫くために、スタッフ数との兼ね合いを考え、支援対象エリアはおおよそ半径3キロとした。3キロといっても人口密度の高い住宅地である。オープンから8年、在宅でのがん患者看取り数は500件に達しようとしている。年平均70~80件である。

本格的に在宅医療を行うようになって、山崎さんが驚くような出来事があった。それは、痛みの緩和への対処の仕方である。施設ホスピスではモルヒネの持続皮下注入法をよく行っていた。ところが在宅では飲み薬や貼り薬、座薬で間に合うようになり、現在までのところ1件も持続皮下注入法を施行していない。理由を聞くと山崎さんは「住み慣れた家の力、家族の力、安心感、信頼感……」と思いつく言葉を挙げ、笑みを浮かべて首をかしげた。

家族の変貌ぶりにもよく驚かされる。ケアの開始早々は何か不安げだったのが、日が経つにつれ頼もしくなっていく。家族でできるケアだけでも症状はだいぶ緩和できるし、「何より最期は家で過ごしたいという患者さんの思いに応えることができた、という達成感が自信になっているのでは」と山崎さんは見ている。

その遺族がボランティアとして手を挙げ、デイケアサービスなどをサポートしてくれるケースも多い。利用者とボランティアがご近所で顔見知りのこともある。それが利用者にとって安心感や親しみやすさにつながる場合もあるようだ。

無論その逆で、顔見知りでないほうがよい場合もあり、そこはうまく調整している。しかしそういった蓄積が、今は決して濃いつながりとはいえない地域のコミュニティを形成し、やがては強いつながりになる。そうなれば在宅ホスピスをさらに延長させた地域によるコミュニティケアができるようになる、と山崎さんは思っている。

ケアタウン小平応援フェスタの様子。地域の人々に呼びかけ交流をはかるこのフェスタは、毎年恒例となっている

ボランティアの人たちとの交流会。クリニックでは、遺族がボランティアとしてサポートしてくれるケースも多いという

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