わたしの町の在宅クリニック 5 ふじもと在宅緩和ケアクリニック

その人らしく生き切るために全力でサポート

取材・文●黒木 要
発行:2014年8月
更新:2020年1月

  

ふじもと在宅緩和ケアクリニック
院長の藤本 肇さん
ふじもと在宅緩和ケアクリニック
 
〒359-1113 埼玉県所沢市喜多町16-7 第1武井ビル4階
TEL:04-2925-0782 FAX:04-2925-0781
URL:www.zaitaku-kanwa.jp/
 


埼玉県所沢市に、がんの在宅緩和ケアに特化したクリニック「ふじもと在宅緩和ケアクリニック」がある。院長の藤本肇さんは、大学病院の外科医勤務時代に、再発患者さんの診療を担当することが少なくなかった。当時、在宅緩和ケアを提供する医療機関は少なく、最期は家で過ごしたいと患者さんが希望したとき、受け入れ先を探すのに苦労した。そんな経緯もあり、藤本さんは2005年にクリニックを開設した。※平成27年3月を以って閉院

消極的ではなく 積極的な理由で選択を

埼玉県所沢市にあるふじもと在宅緩和ケアクリニック。医師1人、看護師3人と少ないスタッフながら、常に10~15人の在宅がん患者さんの支援を行っている

クリニックは開設以来、訪問を主たる業務として、常時10~15人のがん患者さんの在宅療養を支援している。併せて、訪問診療に入る前の患者さんや、自院で看取った患者さんの遺族に対して、グリーフケア(悲嘆からの回復)を兼ねた外来診療も行っている。開設から8年半の間に訪問した累計患者数は624人、うち518人を在宅で看取った。現在、訪問を担当するスタッフは医師1人(藤本さん)と看護師3人だ。

診療の過程で藤本さんが最も大切にしているのが、受け入れ時の初回面談だ。患者さん本人と、在宅療養の選択や介護の意思決定に関わる家族を交えて、90分以上かけて関わり方や治療方針について話し合う。面談の場では、それまで家族の間でも伝え合えていなかった本音や病状に関する情報が飛び出すこともある。

「このようなやり取りを通じて在宅医療に対する本人と家族の合意形成を支えます。これは、在宅療養を『病院から出されたからやむなく在宅にする』という消極的な理由ではなく、『家に帰りたいから』『家族で看たいから』という積極的な理由で選択してもらうためです」

この作業は大変だが、患者さんと家族、そして医療者の皆が在宅療養の目的を共有することができるようになり、以降の関わりがスムーズになるという。

療養中の思い出が 自然と語られる看取り

実際の訪問診療は、1人の患者さんに対し1週間あたり医師と看護師が各2回ずつ計4回の定期訪問を行い、緊急時には24時間対応を基本としている。看護師は介護職との連携を活かし、身体的なケアよりも患者さんや家族との対話に重点を置き、全人的な問題点を抽出する。そうして医師と協働し、その問題点の解決に取り組む。

藤本さんのクリニックでは、看取りの経験がない家族でも落ち着いて最期を見守れるように、家族としての接し方や看取りまでに予測される患者さんの状態などを事前に伝えておく。

「そうしておくとほとんどの場合、看取った後に、家族から落ち着いた声で電話連絡がきます」(藤本さん)

それから医師が訪問し、死亡確認後に、家族が希望すれば看護師が家族と共に最後の身支度を行う。医師も時間が許す限り身支度の終了まで立ち会い、その時間を家族と共有する。

「そこでは療養中の思い出が自然と語られ、グリーフケアの入り口としても重要な時間となっています」(藤本さん)

いかに最期まで その人らしく生き切るかをサポート

肺がんで3カ月間在宅療養した80歳代の女性患者さんと一緒に。
患者さんの笑顔が印象的だ

藤本さんが診療の過程で力を注ぐ比重は、「受け入れ」「症状緩和」「看取り」の順に、5対2対3だと言う。通常、大きな比重が置かれると思われがちな症状緩和の値が低いことが独特だ。ここにふじもと在宅緩和ケアクリニックの考え方がよく表れている。

「医療や介護の訪問スタッフは家族が何もせずに済むように対応するのではなく、むしろ家族が患者さんを支えることにやり甲斐を感じながら過ごせるように配慮しつつ支援していきます」

残される家族の〝その後〟も念頭に置いてケアをするのだ。

「患者さんや家族は、死に向かっているから苦しい、悲しいというイメージを初めは抱きがちですが、決してそうではありません」と藤本さんは話す。関わる過程で、限られたときをいかに大切に過ごすかを考えられるようになる患者さんや家族が少なくないと言う。

「その大切な時間を、生活の場で実現しよう、というのが私たちのテーマなのです。私たちは患者さんの希望をどのように実現していくか、死へ向かうというよりいかに生き切るのか、という視点で患者さんと一緒に考えていきます。そして、患者さんの生き様をご家族の心の中に残していくことも、緩和ケアの大きな役割だと思います」

残された時間をいかにその人らしく生き切るのか、そして残された家族もそれをいかに心に留めておくか――。藤本さんをはじめ訪問スタッフは、日々患者さん・家族と向き合い、全力でそのサポートを行っている。

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