放射線治療最前線――免疫チェックポイント阻害薬併用で「上乗せ」効果も 機能温存重視で放射線治療を選択する患者が増えている
放射線治療には根治を目指すものと、痛みなどの症状緩和を目的とした治療など状況に応じて対応ができる。根治を目指す治療では病巣の局所制御をすることで臓器機能を温存でき、一般的に体への負担も少ないため、その必要性は高まる一方であり、それを支える技術の進歩も著しい治療法だ。
現在、どんな放射線治療があるのか。放射線治療を第1選択として考えたいがん種やその条件はどのようなものか。そして、新たに放射線治療が保険適用されるのはどんながん種や条件なのか。がん放射線治療の最前線について国立がん研究センター東病院副院長/放射線治療科長の秋元哲夫さんに伺った。
大きなメリット、機能が温存できて体への負担が少ない
手術、化学療法、放射線治療の3大がん治療の中で、放射線治療が持つメリットは、「何といっても臓器の機能と形状が残せること。そして、侵襲(しんしゅう)つまり体への負担が少ないことですね。高齢だったり、手術をしたくない人、体力があまりない患者さんにも安全に、根治(こんち)的に治療できることだと思います」と、国立がん研究センター東病院副院長・放射線治療科長の秋元哲夫さんは語る。
しかし、がんの治療で放射線が重視されるようになったのは、「ここ15年くらいでしょう」
「強度変調放射線治療(IMRT)が保険適用になって10数年。それ以前は放射線治療の普及や治療選択の機会は充分とは言えませんでした。最近、やっと放射線治療が普通に行われるようになってきたと思います」
日本放射線腫瘍学会(JASTRO)が刊行している「放射線治療計画ガイドライン2016年版」に、第1版が刊行された2004年当時は、多くの施設でX線シミュレータによる2次元治療計画が行われていたと記述されている。
その後ガイドラインは4年ごとに改訂され、急速に普及したIMRTなどの高精度治療に対応できるよう内容を発展させてきた。つまり、短期間に急激に進歩してきたのが放射線治療なのだ。
まずは、知っておきたい放射線治療について簡単に見ておこう(図1)。
最も普及したIMRT。X線でも可能になったピンポイント治療
●3次元原体照射(3D-CRT)
がんの放射線治療は「できるだけがん細胞にだけ放射線を照射し、正常な細胞には照射しないこと」を追求してきた。3D-CRTはコンピュータとCT、MRI、PETなどの画像を用いてがんの大きさや形などを特定し、がんのある部位を立体的に再現し、がんに正確に放射線を照射する方法。多くの病院で用いられているが、最近ではIMRTに徐々に移行しつつあるようだ。
●強度変調放射線治療(IMRT)、強度変調回転放射線治療(VMAT)
3D-CRTでは1本1本の放射線の強度を変えることができないが、これを可能にしたのがIMRT。専用のコンピュータと連動してがんの大きさや形に合わせて照射方向ごとに放射線の強度を変え、がんの複雑な形状に沿った高線量を照射できる。多様ながん種で行われている放射線治療。2004年に先進医療、2007年に保険適用された。
なお、VMATはIMRTを回転させながら行うIMRTの1種であり進化形。また、トモセラピーとはIMRT専用の放射線治療装置の1つの商品名だ。
●画像誘導放射線療法(IGRT)
治療前に放射線治療計画を立てるが、実際の治療では内臓の位置や呼吸などの動きによって病巣の位置が計画とずれることがある。そこで、放射線をより正確に病巣に照射するために、治療時に腫瘍の位置を画像で確認して位置を微調整するための技術。
「最近は非常に精度が上がっています。新しい機器が出てくるというより、従来の機器がよりハイスペックになり価格も安くなり、普及してきていると感じます」
●定位放射線治療(SRT)、体幹部定位放射線治療(SBRT)、定位放射線手術(SRS)
SRTはがん病巣に対し、多方向から集中して高線量を照射する方法で、体幹部に行う場合をSBRTと呼ぶ。ピンポイント照射ともいい、1回に高線量を照射でき、正常組織への線量を極力抑えることができる。1回の照射で終わる場合をSRSと呼び、小さな病巣に有効。
最も知られた商品が「ガンマナイフ」で、文字通りγ(ガンマ)線を用いている。ただし、放射線治療で最も普及しているのはX線を発生させる「直線加速器」で、リニアック(ライナック)という通称で呼ばれている。リニアックでも定位放射線治療は可能であり、早期肺がんや肝臓がんで実施されている。定位放射線治療を専用に行う治療機器がサイバーナイフだ。
●粒子線治療(陽子線、重粒子線)
陽子線や重粒子線は体内でも表面近くではエネルギーを出さず、停止する直前にエネルギーを放出する。その放出地点を「ブラッグ・ピーク」と呼ぶが、がん病巣にブラッグ・ピークを持ってくるのが粒子線による治療法の原理だ。そのため、がん病巣に高い線量を照射でき、周辺への被ばくも少なく抑えられるため、頭頸部がん、骨軟部腫瘍、前立腺がんなどに保険適応された。被ばく低減の効果から小児がんにも保険適用されている。先進医療でこれが受けられるがん種も増え、民間保険の先進医療特約の対象にもなっているため、以前よりずっと身近になっている(図2)。
●内部照射(密封小線源治療、非密封放射性同位元素による治療)
放射線の照射方法には外部照射(体の外側から照射)、内部照射(体内に放射線の線源を留置して照射)の2つがある。内部照射の代表的な治療が、密封小線源治療(組織内照射、腔内照射)だ。組織内照射は放射性同位元素(イリジウム192、セシウム137、ヨウ素125など)を針状、粒状の容器に密封し、がん組織やその周りに埋め込む方法。また、腔内照射は子宮などの腔内に細い管を入れておき、その管から線源を送り込む方法。ほか、放射性同位元素(RI)を経口薬や注射で体内に投与して治療を行うRI内用療法もある。
発語、嚥下などの機能はもちろん、「見た目」も維持できる頭頸部がん
では、どのがん種にどんな放射線治療が保険適用されているのか。保険で使えなくても、今後可能性のある治療は何か。まず頭頸部がんについて。
「臓器が残せるメリットの大きな場所です。声を温存できるし、嚥下(えんげ:飲み込み)も悪くない。顔という整容性が重視される部分を損ねることなく治療できます。IMRTだけでなく、昨年(2018年)から陽子線治療も保険で受けられるようになりました。眼球や多くの重要な神経を避けて放射線が照射できるので、非常に効果的です。頭頸部がんは手術も難しく、一般的に抗がん薬だけはで治りにくいので、放射線治療が非常に有効ながんだと思います」
数が少ない転移性脳腫瘍については、ガンマナイフや定位放射線治療などのピンポイント治療が中心という。また最近は、転移性脳腫瘍に対して行う全脳照射でも、海馬(かいば)などの大切な部位を避けるためIMRTを行うところが多いという。
「脳の海馬は記憶や感情などを司る中枢ですが、海馬を除けて全脳照射を行えます。その結果、放射線障害である記憶力などの低下を抑えることがわかってきています」
最近、タレントの堀ちえみさんが手術を受けたことが報道された舌がんでは、T1、T2といった早期なら舌を温存するため小線源治療を行うことが多い。また、食道がんは食道を切除すると治療後の食事に影響が大きく、また、手術自体が広範囲で大きなもの。70〜80代の高齢者でも罹患するので、手術と共に放射線と抗がん薬の併用が標準治療になっているという。
同じカテゴリーの最新記事
- 化学・重粒子線治療でコンバージョン手術の可能性高まる 大きく変わった膵がん治療
- 低侵襲で繰り返し治療ができ、予後を延長 切除不能膵がんに対するHIFU(強力集束超音波)療法
- 〝切らない乳がん治療〟がついに現実! 早期乳がんのラジオ波焼灼療法が来春、保険適用へ
- 肝がんだけでなく肺・腎臓・骨のがんも保険治療できる 体への負担が少なく抗腫瘍効果が高いラジオ波焼灼術
- 大規模追跡調査で10年生存率90%の好成績 前立腺がんの小線源療法の現在
- 心臓を避ける照射DIBH、体表を光でスキャンし正確に照射SGRT 乳がんの放射線治療の最新技術!
- 2年後には食道がん、肺がんの保険適用を目指して 粒子線治療5つのがんが保険で治療可能!
- 高齢の肝細胞がん患者さんに朗報! 陽子線治療の有効性が示された
- 腺がんで威力を発揮、局所進行がんの根治をめざす 子宮頸がんの重粒子線治療
- とくに小児や高齢者に適した粒子線治療 保険適用の拡大が期待される陽子線治療と重粒子線治療