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膵島腫瘍(膵内分泌腫瘍)CT検査
影の白っぽいのが、膵がんと見分けるポイント
もりやま のりゆき
1947年生まれ。1973年、千葉大学医学部卒業。米国メイヨークリニック客員医師等を経て、89年、国立がん研究センター放射線診断部医長、98年、同中央病院放射線診断部部長で、現在に至る。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発で通商産業大臣賞受賞、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。専門は腹部画像診断
患者プロフィール
45歳の男性Sさん。人間ドックの腹部超音波検査で、膵臓に腫瘍と思われる影があり、国立がん研究センター(現国立がん研究センター)を紹介される。CT検査にて、膵臓の内分泌器官に良性と悪性の中間の性質を持つ膵島腫瘍があることが確認され、手術による切除を希望した
悪性度は中間の膵島腫瘍
膵臓にできる腫瘍というと、悪性度が高く、難治がんの1つとして知られる膵がんを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。しかし、Sさんのケースは違いました。
「Sさんに見つかった膵臓の腫瘍は、膵がんではなく、良性と悪性の中間に位置するもので、膵島腫瘍と呼ばれるものです」(森山さん)
膵がんと膵島腫瘍は発生する細胞が違います。
膵がんのほとんどは、膵外分泌腺といって、膵管表面の上皮細胞にできます。一方の膵島腫瘍は、膵内分泌器官であるランゲルハンス島にできます。ランゲルハンス島は、血糖を調整するインスリンや消化液のグルコガンなど内分泌液(ホルモン)を分泌する細胞が集まった器官。膵島腫瘍の名はそこから来ています。
「膵島腫瘍はホルモンを過剰に産生するものと産生しないものに分けられます。前者の中で最も有名なのはインスリンを過剰に産生するタイプ。この腫瘍では血糖値が極端に低くなって、眩暈や昏倒などの症状が頻繁に起こるので、比較的早く発見されます。Sさんの場合は、ホルモンを過剰産生しない後者に属する腫瘍で、大きさは約2センチと小さく、自覚症状は皆無でした。人間ドックの検査によって、たまたま発見された珍しいケースといえます」(森山さん)
診断は画像検査でつけることが多い
ホルモンを過剰産生しないタイプの腫瘍は、一般に無症状なのですが、腫瘍が大きくなると周辺組織を圧迫して痛みが出ることもあります。場所によっては、十二指腸へ胆汁を排出する総胆管を塞いで黄疸が出たり、十二指腸を塞いで吐き気や嘔吐などの症状が出たりすることもあるそうです。
膵臓にできる腫瘍は、あまり心配のない良性の腫瘍もあれば、性質の悪いもの(がん)も、その中間のタイプもあります。Sさんの腫瘍は、どのようにして中間のものと診断されたのでしょうか。
「一般に、腫瘍の良性・悪性の診断は、細胞や組織を採取し、顕微鏡で覗いて細胞の型などを調べる病理検査によってつけることがほとんどです。しかし、膵島腫瘍は病理検査を行っても、良性・悪性の診断をつけるのが困難なことが多いのです。それに、腫瘍の細胞や組織を採取する検査は体への負担が軽いとはいえず、膵島腫瘍ではあまり行いません。画像検査の所見によって診断するのが普通です」(森山さん)
それでは、膵島腫瘍と診断するにはどんな画像所見があるのでしょうか?
Sさんの検査画像をご覧ください。矢印で指したところが腫瘍です。
膵がんは血流が乏しい
「周囲と比べて、やや白く写っている円形の影が腫瘍。ボリューム感というか、塊を示す質感があって、腫瘍の存在がわかります。がんの場合は、こんなに白くはなく、黒っぽく写るので、比較的容易に区別ができます」(森山さん)
森山さんによると、このCTの設定では血流が豊富なほど白く、血流が乏しいほど黒く写るようにしてあります。
一般に、がんは自らの栄養ルートを確保するため、周囲の組織から血管を引っ張り込んだり、新しい血管を盛んに作ったりするので血流が多く、CT画像では白く写るのだそうです。ところが、膵がんは血流の乏しい稀有ながんで、黒っぽく写るのだそうです。栄養状態からすれば、悪い環境に自らを置いているわけで、なぜそうなのか理由はよくわかっていません。
「膵がんは、膵島腫瘍と比べても血流は乏しく、したがって、画像では膵島腫瘍より黒く写ります」(森山さん)
膵島腫瘍の治療は、手術によって切除するのが基本ですが、Sさんの場合のように小さいときは様子を見ていく方針もありえます。
「ただし、腫瘍のタイプによっては、いきなり肝臓などに転移するリスクが高くなります。Sさんはそのことを了解して、手術をすることを希望されました」(森山さん)
手術後2年が経過しますが、再発はなく、Sさんは元気に暮らしているそうです。
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