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悪性線維組織球腫 CT検査
骨の位置がずれているのは巨大な腫瘍に押された証し
もりやま のりゆき
1947年生まれ。1973年、千葉大学医学部卒業。米国メイヨークリニック客員医師等を経て、89年、国立がん研究センター放射線診断部医長、98年、同中央病院放射線診断部部長で、現在に至る。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発で通商産業大臣賞受賞、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。専門は腹部画像診断
患者プロフィール
62歳のYさん。1年ほど前から左背部が痛み出す。そのうちよくなると思っていたが痛みが増強し、痛む範囲も広がり、満足に歩けなくなった。近くの病院を受診したところ、がんの疑いがあると国立がん研究センターを紹介された。CT検査後、生検を行ったところ、骨や軟部組織などにできる悪性線維組織球腫と判明。大腿から下の下肢、および骨盤の一部を除去してがんを取り除く手術を受けた
エックス線検査でがんが疑われた
Yさんは最初に受診した病院で整形外科に回されました。臀部の痛み、歩行困難の症状などからして、腰椎ヘルニア、あるいは坐骨神経痛などの疑いもあったからです。
整形外科では症状やその経過を詳しく聞かれ、ただちに臀部や骨盤付近のエックス線検査を受けました。
「しかし、その写真を見て、すぐに担当医は悪性腫瘍を疑ったはずです。腫瘍と思われる巨大な影があり、その影響と思われる骨への影響が顕著な形で現れていたからです」(森山さん)
整形外科では、Yさんががんに侵されていることはわかっても、それがどんながんなのかわからなかったと推測されます。というのも、悪性線維組織球腫は非常に珍しいがんだからです。
国立がん研究センターではCT(コンピュータ断層撮影)で腫瘍の存在を確認する検査が行われました。CT画像でも、左足の付け根付近ががんに侵され、非常に目立つ特徴となって、写っていました。
左右対称の骨に位置のずれ
CT検査画像に写し出された悪性線維組織球腫
CT画像をご覧ください。下腹部をくまなく触っていくと性器の上部に恥骨が触れます。そのやや上の位置を輪切り(横断)にしたのがこの画像です。
足の付け根の位置といったほうがわかりやすいかもしれません。足の付け根は大腿骨頭といい、骨頭の3分の2はクッションの役割と関節としての働きをしている大腿臼に包み込まれるようになっています。
CT画像では、ひと目で本来左右対称であるはずの大腿骨頭の位置がずれているのがわかります。なぜ、ずれているのでしょうか?
「向かって右が左足の付け根で、点線で囲まれているのががんです。直径は約11センチで、大腿臼は飲み込まれるようになくなっています。がんが広がっていくとき、周囲の組織や臓器に侵食していくことを浸潤といいますが、骨に浸潤が起こると骨も破壊されます。これを破骨といいます。破骨が広範に起こると骨は溶けてなくなります。これを溶骨といい、骨に発生するがんでは、よく起こる現象です」(森山さん)
Yさんの場合、股関節を形成する大腿臼などに破骨や溶骨が起こり、その進行にともなって、巨大な腫瘍に押されるように大腿骨頭の位置がずれたと思われます。
破骨や溶骨では強い痛みを伴う
これを見て、森山さんは首を傾げます。よくこれまで我慢できたな、と。
というのも、破骨や溶骨が起こるときは、強い痛みを感じるはずで、Yさんはひたすら耐え続け、いよいよ我慢できなくなって受診したことが読み取れるといいます。
それにしても、がんがここまで骨を溶かすとは驚きです。森山さんによると、がんに限らず、周辺で強い炎症が起こると、骨は溶けるといいます。歯槽膿漏(歯周炎)がよい例です。
Yさんの股関節の破骨や溶骨は大腿臼の他でも起こっています。左足の大腿骨頭の左斜め上に白い影があります。
「これが恥骨なのですが、反対側の恥骨と比較すると、形が非対称です。がんに侵されて破壊され、一部が溶けているからです」(森山さん)
さらによく見ると、恥骨にあたかもがんが食い込むように侵入している様子も写っています。ただし、直腸や膀胱などの臓器には、がんはぎりぎりのところでとどまっている感じで、詳しい検査をしても浸潤が認められませんでした。
そこで、Yさんは大腿骨、そして骨盤の3分の1程度を切除して、がんを取り除く手術を受けました。
手術から3年が経ちましたが、局所の再発、遠く離れた臓器への転移は認められず、元気に暮らしています。
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