非浸潤性小葉がんは経過観察でいい?
妻(52歳)が、エコー検査やマンモグラフィなどの検査で、胸にあやしい影が見つかり、針生検の結果、非浸潤性小葉がん(LCIS)と診断されました。主治医からは経過観察を勧められています。
治療をせずに経過観察をするのは心配だと妻は言っています。医師の指示通り経過観察をしていいのでしょうか。
(56歳 男性 長崎県)
A 経過観察をしながら、将来の乳がん発症に注意を!
上野貴史さん
非浸潤性小葉がんとは、乳腺組織の中の小葉という部位に腫瘍細胞が見られる状態です。結論から言いますと、主治医が経過観察と言ったのは妥当な判断です。
非浸潤性小葉がんは、それ自体が治療を要するがんに進展することは少なく、前がん病変ではなく、将来乳がん発症のリスクが高まるマーカーと考えられています。非浸潤性小葉がんがみつかった人は、将来乳がんが発症するリスクが、1年に約1%あると言われています。前がん病変ではなくマーカーと考えられるのは、乳がん発症のリスクが、病変がみつかった側だけでなく、左右の乳房で同程度であることがわかっているからです。しかも小葉がんだけでなく通常の乳管がんのリスクも高くなります。20年経てば、約20%のリスクがありますし、30年経てば約30%のリスクを生じます。奥さまの場合は52歳ということですから、将来20~30%程度乳がんを発症するリスクがあると考えてください。
予防的にホルモン療法として*ノルバデックスを服用することや、両側の乳房を切除するという選択肢がありますが、前者には子宮体がんの発症リスクが増える副作用があり、後者はあまり現実的ではないと思います。定期的に検診を受けていれば、乳がんが発症しても早期に発見されることが多く、治療で治癒する確率が高いと考えられます。
ただ1点気になるのは、針生検しか施行されておらず、外科生検で組織をきちんととった診断ではないことです。通常、非浸潤性小葉がんが画像検査で影を作ることは稀なため、針生検のみでは主な病変を取れていないことがあり、他の病変がひそんでいる可能性もあります。外科生検を追加で行い、きちんと非浸潤性小葉がんと診断されたのであれば、治療の必要はありません。
*ノルバデックス=一般名タモキシフェン