鎌田 實「がんばらない&あきらめない」対談
「鎌田 實の諏訪中央病院へようこそ!」患者・ボランティア編――植物の生きる力が患者さんに希望を与えている
初秋のさわやかな風が吹きわたる、長野県茅野市の諏訪中央病院――。「がんばらない&あきらめない対談」のホスト役、鎌田實さんはこの病院の名誉院長である。この日は、この対談の特別版として、鎌田さんに緩和ケア病棟を案内してもらいながら、そこに関わるボランティアや患者さん、医師らと語り合ってもらった。題して「鎌田實の諏訪中央病院へようこそ!」その患者・ボランティア編をお届けする――。
かまた みのる 1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、高齢者への24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数
地域に開かれた病院の庭で グリーンボランティアが活躍
鎌田さんはまず、病院内の庭園を散策しながら、作業をしているグリーンボランティアの人たちと挨拶を交わしていく。「おはよう、病院祭では何やるの?」「バザーで売る花束をつくります」、「ボランティア、面白い?」「身体はしんどいけど、やり甲斐があります」、「あなた、茅野の人?」「茅野の人のようなもの。いつもここに来ていたい」
ボランティアの中に、埼玉県熊谷市から来ている坂本さんという60代男性がいた。木材関連の商売をしており、病院の庭園を造るときに、壁などの材木を寄付した人だ。材木を運ぶ配送業者の西濃運輸に、「諏訪中央病院に寄付するんだよ」と言うと、ボランティアで運んでくれたと言う。
そもそも坂本さんは、15年ほど前に、鎌田さんにセカンドオピニオンを求めて来た患者さんだった。鎌田さんの診断は、「余計なことはしないで、このまま経過を見よう」。病状は進むことなく、15年が過ぎた。その間、毎年、諏訪中央病院で人間ドックに入っている。
坂本さんは「体調は良く、もう元気一杯です。諏訪中央病院へ来てよかった。仕事にもつながっている。鎌田先生のおかげです」と嬉しそう。最近では、病院に近い原村に移り住んだらどうかと、ボランティア仲間から誘われているのだそうだ。
グリーンボランティアがスタートしてから20年ほどになる。現在、70名前後のメンバーがいて、毎週水曜日、40~50人が集まって、庭園の保守管理などに汗を流す。
庭園にはサンルームがあり、冬場には患者さんが降りてきて、ボランティアが淹れてくれるハーブティーを楽しむ。ボランティアが作ってくれた花飾を病室に飾っている患者さんもいる。
「病院は社会化して、地域に開かれたほうがいい」という鎌田さんの理念を、背後から支えているのがグリーンボランティアだ。
鎌田さんの独白――
景観や環境は必ず人間に影響を与えると思う。この病院をつくるとき、「病床から自然のグリーンが見える病室の患者さんと、隣のビルの壁しか見えない病室の患者さんとでは、同じ疾患でも退院までの時間が違う」というアメリカの論文を読んだ。だから、どの病室からでも自然の緑や庭が見えるようにした。病気を治す上で環境はものすごく大きな要因になる。
この病院で最期を迎えようと、ホスピスに入院してきた患者さんでも、PT(理学療法士)やOT(作業療法士)の指導で歩けるようになると、「庭へ出たい」と言う。それがさらに、「スーパーへ買い物に行きたい」「蓼科の旅館の温泉に入りたい」と、希望が膨らんでくる。
先日も、他の病院でさんざん無理な治療を受けて疲れ果て、このホスピスに転院してきた末期がんの患者さんが、「ここへ来たら庭が見えるので元気になれた。それで上諏訪温泉の『浜の湯』に一泊し、松茸懐石を食べてきた」と、嬉しそうに話してくれた。
この病院はもともと八ヶ岳山麓の恵まれた自然環境にあり、加えて2つの大きな庭園、2つの中庭があり、さらに5階のホスピス病棟のベランダにも小さな庭園を備えている。言ってみれば、諏訪中央病院は緑の力を借りて医療を行っている病院である。
緩和ケア病棟の患者さんに 生きている花に触れてほしい
▼ボランティア&ハーバリスト 萩尾エリ子さん
鎌田 このホスピスのベランダの庭も、グリーンボランティアの人たちにお任せしていますが、萩尾さんがリーダーですね。この庭に関しては何か戦略はあるの?
萩尾 ここはヘリポートがあるので、ヘリコプターの風が強いんです。そのために、土が固くなくてはならないし、植物の蔓が伸びないという制約がありました。しかし、*緩和ケア病棟が庭園から遠くなってしまったので、植物の生きる力を緩和ケア病棟の患者さんに見ていただくには、庭をここに造るしかなかったんです。
鎌田 植物の生きる力は、患者さんたちに生きる力を与えますね。
萩尾 ここにはいのちが生きてる時間がそのままある。私はそう思っているの。建物の中だと、病院の時間だとか、治療の時間とか、いろんな事情があるじゃないですか。でも、ここにあるのは、空気だとか、四季だとか、その日の天気という事情だから、本当にいのちがそのままある。だから、いいんだと。
鎌田 この場所は、まず見て美しいように考えるの?
萩尾 まず見て美しいことと、じかに花が摘めること。庭園が遠くなってしまったから、患者さんにここで、じかに花に触れてほしいの。
鎌田 ここの花は摘んでいいの?
萩尾 もちろん、全部!下の庭もそうだけど、ここも、そう。
鎌田 ボクも、ここは土が良くないから、植物は生えないんじゃないかと心配してたけど、すごく立派な庭になったね。
萩尾 これは愛だと思うの。
鎌田 愛なの(笑)。
萩尾 そう。ボランティアの仲間たちが、患者さんたちのことを思いながら、一生懸命、この庭の世話をしている。それに、ここは風が吹くと、花々のとてもいい香りがする。この花はパイナップルセージといって、触るとパイナップルの香りがする。お茶にしても飲めます。
*病院の増改築で、緩和ケア病棟の場所が移り、これまでの庭をながめたり、庭に出ることができなくなり、5階のホスピス病棟のベランダに庭が設けられた
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