FP黒田尚子のがんとライフプラン 29

生活に困難を抱えている人をサポートする「生活困窮者自立支援制度」とは?

黒田尚子●ファイナンシャル・プランナー
発行:2016年8月
更新:2016年8月

  

くろだ なおこ 98年にFPとして独立後、個人に対するコンサルティング業務のかたわら、雑誌への執筆、講演活動などを行っている。乳がん体験者コーディネーター。黒田尚子FPオフィス公式HP www.naoko-kuroda.com/

2013年に成立した生活困窮者自立支援法をもとに、2015年4月より生活困窮者への「生活困窮者自立支援制度」がスタートしています。制度の内容や主な対象者、利用する場合のポイントや注意点などをまとめてみました。


厚生労働省の調査によると、2016年3月時点で、生活保護受給世帯のうち、65歳以上の高齢者を中心とする世帯が、初めて半数を超えました。このうち単身世帯が9割を占めるなど、いわゆる「下流老人」と呼ばれる、1人暮らしの高齢者の実態が浮かび上がってきます。

生活保護開始の主な理由をみると、「貯金等の減少・喪失」(32.2%)が最も多く、続いて「傷病による」(25.9%)、「働きによる収入の減少・喪失」(22.5%)となっています(図1:2014年度)。

図1 生活保護開始の主な理由

出展:厚生労働省「生活保護の被保護者調査」(平成26年度)

「貯蓄が底を尽いた」「職を失った」「病気や障害、高齢のため働けない」など、生活保護を受給する理由はさまざまでしょう。

ただ、もともと収入や貯金等の資産が少ない高齢者の〝おひとりさま〟が、病気による失職で、一気に生活保護を受給しなければならない状態に陥った、というのは1つの典型的な事例だと考えられます。

その一方で、「お葬式代のために加入している民間保険を解約できない」、「通院のための自動車を保有している」などの理由から、生活保護が受けられないケースもあります(ただし、自動車の保有は、障害のため必要な場合や、山間部など地域性によって所有が認められる場合もある)。

このような方々は、生活保護受給者よりも、少ない年金収入等でギリギリの生活を余儀なくされているわけです。

このような生活保護に至る前の自立支援策の強化を図るとともに、生活保護から脱却した人が再び生活保護に逆戻りしないよう支援を行うことを目的に、2015年4月より「生活困窮者自立支援制度」がスタートしています。

制度は、おおむね「居住確保支援」、「就労支援」、「緊急的な支援」、「子ども・若者支援」の4つの事業から成り立っており、必須事業である自立相談支援事業では、生活に困り事や不安を抱えている場合、地域の相談窓口が対応します(図2)。

図2 生活困窮者自立支援制度の主な内容

厚生労働省「新たな生活困窮者自立支援制度について」より一部抜粋の上、筆者が編集作成

自立相談支援事業は、いわば制度の柱。生活困窮者が抱える複合的な問題に、できるだけ幅広く対応することが必要です。

また、任意事業として「家計相談支援事業」があります。これは、まさに家計を〝見える化〟することで根本的な課題を把握し、相談者が自立的に家計を管理できるように支援する取り組みです。状況に応じた支援計画の作成や相談支援、関係機関との連携、必要に応じて貸付けの斡旋(あっせん)まで行います。

例えば、がん患者さんから「医療費が高額で支払いが厳しい」といった相談を受けるケースがあります。

がん患者さんの場合、病気を治すことが最優先ですので、医療費を節約する方法には限度があります。しかし、高額な医療費負担だけが家計を圧迫しているのではなく、ほかにもムリ・ムダがあるなど、家計のやりくりに問題がある場合も少なくありません。

そこで、家計を見直しして、住居費や保険料、通信費、食費など、医療費以外の生活費をチェックすることで、毎月の収支が改善される可能性もあります。

生活困窮者の悩みや問題は1つではありません。既存の支援制度と連携を取りながら、必要に応じていかに活用していくかが重要なポイントです。

生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者のこと(『下流老人』藤田孝典(朝日新書))

 

今月のワンポイント 財政的な理由で任意事業を行えない自治体も多いようですが、一部の地域では、縦割りではない総合相談やワンストップ対応を行っているところもあります。まずは、お住まいの地域でどのような事業を行っているか確認してみましょう

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