FP黒田尚子のがんとライフプラン 65

2019年6月から「がん遺伝子パネル検査」が保険適用に

黒田尚子●ファイナンシャル・プランナー
発行:2019年8月
更新:2019年8月

  

くろだ なおこ 98年にFPとして独立後、個人に対するコンサルティング業務のかたわら、雑誌への執筆、講演活動などを行っている。乳がん体験者コーディネーター。黒田尚子FPオフィス公式HP www.naoko-kuroda.com/

がんゲノム医療に必要不可欠ともいえる「がん遺伝子パネル検査」の保険収載(公的保険適用となること)が、2019年5月29日の中央社会保険医療協議会(中医協)で認められました(6月1日から適用)。

この分野は、数年前からずっと注目され、「第3期がん対策推進基本計画」の中でも、がんゲノム医療等の推進が明記されたほどでしたが、普及の障壁の1つとなっていたのは費用の問題。先進的な医療の常とはいえ、患者や家族にとって、高額な費用負担は大きな悩みでした。

それが今回の保険適用によって軽減されるのでは? と期待が高まっているようです。確かに、これまでと比べて費用は低く抑えることが可能になりましたが、そう手放しで喜べない側面もあると考えています。

保険適用に2製品、いずれも56万円

今回、保険適用が認められたのは、シスメックス株式会社が国立がん研究センターと共同開発した「OncoGuideTM NCC オンコパネルシステム」と、中外製薬がロシュ・グループの米ファウンデーションメディシン(FMI)から導入した「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」の2製品です。

上記製品は、すでに2018年12月、日本での薬事承認を取得しており、2019年度中の保険収載に向けて条件交渉等が進められていました。それが冒頭でご紹介した通り、5月末の中医協の総会で承認されたのです。

いずれも保険償還点数は、原則56,000点(検査実施料8,000点、検査判断・説明料4万8,000点)ですので、56万円になります。

ここから、自己負担3割の場合16.8万円。さらに、健康保険等の高額療養費の適用を受けた場合、約8.3万円(年収約370~770万円)まで、費用は軽減できます。

すでに先進医療として承認済みの遺伝子パネル検査も

ただ、費用負担について注意が必要なのは、先進医療として承認されているがん遺伝子パネル検査もあるという点です。

先進医療B(*1)の適用を受けているのは、2018年4月から国立がん研究センター中央病院「NCCオンコパネル」、同年8月から東京大学病院「東大オンコパネル」、同年10月から大阪大学病院「OncomineTM TargetTest」の3種類です(図1)。(このうち、国立がん研究センター中央病院のNCCオンコパネルについては、今回の保険適用に伴い、先進医療としての扱いは2019年5月29日で終了。OncoGuideTM NCC オンコパネルシステム、FoundationOne CDx がんゲノムプロファイルの保険診療による実施を2019年7月3日から開始)

■図1

出典:厚生労働省「がんゲノム医療の現状について」(平成31年4月24日)

上記の医療機関以外にも、これらの検査を導入し、実施している医療機関は複数ありますので、「契約しているがん保険に先進医療特約が付帯されているから、検査を受けたい!」とお考えの方もいるでしょう。

患者負担は、24万5,000円から91万5,000円までとバラバラですが、先進医療特約であれば、技術料は一定額(2,000万円まで等、保険商品によって異なる)まで全額保障されますし、その上、交通費や宿泊費等の一時金が給付される商品もあります。

それが、今回保険適用されたことで、先進医療特約の対象から外れ、逆に患者の負担が増えてしまうのです。

NCCオンコパネルと同じく、今後も、先進医療から外れ、保険適用される検査も出てくると思われますが、そのタイミングと、加入中の民間保険の保険内容によって、費用負担が変わってくる可能性があることを理解しておかなければなりません。

保険適用となったのは「検査」のみ。その後の治療費は?

費用負担についての悩みは、まだ続きます。

そもそも、がん遺伝子パネル検査とは、次世代シークエンサーなどの遺伝子解析技術を用いて、患者さの遺伝子変異などを検出する検査のこと。

つまり、今回保険適用となったのは、あくまで検査だけ。これによって、遺伝子変異が見つかり、それに対応する治療薬(分子標的薬)がわかったとしても、それが日本では未承認だったり、あるいは適切な臨床試験等が受けられない可能性もあります。

そうなると、検査後の治療は、全額自己負担の自由診療で行うことになり、さらに、患者とその家族は、大きな費用負担を強いられるわけです。

そこで、厚生労働省では、このような患者への対応策として、「患者申出療養制度」(*2)を適用すると発表しています(図2)。

■図2

出典:厚生労働省「がん遺伝子パネル検査に連なる患者申出療養に関する対応策について(案)」

患者申出療養は、2016年4月から導入されている制度で、先進医療と同じく、保険外併用療養費制度の1つです。したがって、技術料部分は全額自己負担になりますので、自由診療よりは負担が軽減できるものの、保険適用と比べると、やはり高額な負担がかかる可能性は高そうです。

その上、現在、患者申出療養を保障する生命保険は、筆者の把握している限り、アクサ生命「患者申出療養サポート(患者申出療養給付保険(無解約払戻金型))」と三井住友海上あいおい生命「抗ガン剤治療給付特約(無解約返戻金型)(18)」の2つのみです(2019年6月16日現在)。

ただし、両者とも単体では契約できず、医療保険やがん保険に付帯する形となります。

また、セコム損害保険「自由診療保険メディコム(新ガン治療費用保険)」とSBI損害保険「SBI損保のがん保険(自由診療タイプ)」の実損補てんタイプの損害保険も、自由診療も含めた治療を補償しますので対象になり得るでしょう。

いずれにせよ、がん遺伝子パネル検査については、費用負担も含め、今後の保険商品の動向についても注視したいと思います。

*1 がん遺伝子パネル検査の先進医療の適用に関しては、以下の記事もご参照ください。
先進医療Bに「網羅的がん遺伝子検査」が承認! 気になる費用は?(2018年6月)

*2 患者申出療養制度に関しては、以下の記事もご参照ください。
新しい保険外併用療養〝患者申出療養〟を保障する「患者申出療養サポート」とは?(2017年1月)

 

今月のワンポイント がん遺伝子パネル検査は、誰でも受けられるというものではなく、「標準治療がない」「標準治療が終了している」「先進状態が良好である」などの一定の条件があります。そして検査を受けた結果、治療薬が見つかる可能性は約10%に過ぎないこと。遺伝子変異に基づいて選択された薬剤が、必ずしも効果を占めるわけではないこと。さらに、検査の二次的所見として生殖細胞系列の遺伝子変異が見つけ出された場合の扱いをどうするか、などの問題もあります。費用負担だけでなく、過剰な期待は禁物だということをきちんと理解することが大切だと痛感しています。

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