シリコン・インプラント挿入後に放射線照射をしたほうがよいか?
昨年(2015年)乳がんと診断され、抗がん薬治療ののちに、乳房全摘手術と同時に乳房再建のためにティッシュ・エキスパンダー(組織拡張器)を入れ、外来に通院して膨らませています。その後、シリコン・インプラントに入れ替える予定でしたが、腋の下のリンパ節に転移が4個も見つかり、主治医からすぐにでも放射線治療を行う必要があると言われました。ところが形成外科医からはエキスパンダーを入れた状態で照射すると、感染、*被膜拘縮、露出といったリスクが高くなると説明されました。
色々調べてみると、エキスパンダーを入れたままよりもシリコン・インプラントに入れ替えた後のほうが、放射線照射による合併症のリスクが少ないという情報がありました。インプラントに入れ替えるまで待って放射線治療を受けたほうがよいのでしょうか。
(43歳 女性 東京都)
A インプラント挿入後ではなく、早めの放射線照射を勧める
関口建次さん
乳房全摘手術からインプラントに入れ替えるまで、通常半年はかかります。何もしないで放射線治療をそこまで待っても安全というエビデンス(科学的根拠)はありません。乳房全摘手術後に5カ月程度空けて照射しても治療成績は変わらないという報告もありますが、術後にまず抗がん薬治療を行い、続いて照射する場合です。論理的には、全身の抗がん薬治療が終わっているならば、局所の放射線治療は急ぐべきです。
乳房を再建するにあたっては、通常は3カ月から半年ほどかけて、ティッシュ・エキスパンダーを使って徐々に皮膚を伸ばしていきます。この方の場合、そこまで時間的な猶予がないため、ティッシュ・エキスパンダーにより皮膚が大体広がった段階で、放射線照射を行わざるを得ないかと思います。術後から照射開始までの期間としては2カ月ほどかかると思われますが、時期的には許容範囲内だと思われます。
形成外科医が言うように、ティッシュ・エキスパンダーを挿入したまま放射線照射を行うことで、感染や被膜拘縮、*リップリング、皮膚表面からエキスパンダーが露出するといった合併症のリスクは高くなります。では、インプラントの場合はどうかというと、確かにそういった合併症のリスクはティッシュ・エキスパンダーと比べて低くなるという報告もありますが、変わらないというものもあり、現時点ではまだ明らかになっていません。どちらに照射するほうが安全かよりも、人工物に対して放射線を照射すること自体が、合併症のリスクを高める要因となっています。
そうかといって、この方の場合、リンパ節転移数が4個もあるので、病気を治すという意味では放射線照射をすべきでしょう。
人工物による再建だけでも合併症が起きてしまうリスクはありますが、放射線照射によりそのリスクをさらに高めてしまうのは確かです。しかしトラブルなく乳房の形を取り戻す患者さんのほうが多く、たとえ合併症を起こしたとしても対処手段もありますので、放射線照射をできるだけ早期に行うことをお勧めします。
*被膜拘縮=挿入したインプラントの周囲に被膜ができて厚くなり、硬くなってしまう状態 *リップリング=乳房にシワができたり、波打ったりする状態